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滋賀みらい構想プロジェクト
STORY #5

ウォーターセントリックで滋賀の複数形の未来を探る
「滋賀FUTURE THINKING WEEK」
~彦根編~

その風土特有の豊かさを再認識し、新たな、あるいは埋もれていた価値を見出すことを中心に据えれば、健やかで明るい“地方創生”が可能になるのではないか。そんな視座でスタートした、滋賀のこれから先を“データ”を使って考える「滋賀みらい構想プロジェクト」。日本で初めてデータサイエンス学部を設置した国立滋賀大学、主にメディアアートを扱うオーストリアの文化機関アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ、そしてデータを使って未来づくりを考えるトヨタ・コニック・アルファ株式会社(2025年4月、トヨタ・コニック・プロ社に統合)の3者協働によるプロジェクトだ。地域の大学がハブとなり、地域の住民や企業とともに、地域のデータを活用し、地域の幸せを生み出していく。そのためにまずは、地元に根づき、未来を見据えて行動している人に会いにいくところから始めよう。これは、「複数形の未来」のヒントを探すその旅にPAPERSKYが帯同、5つのSTORYで紹介するシリーズだ。

05/22/2025

データ アート&サイエンス(DAS)の手法を使い、まったく新しいかたちでの地域創生を探る「滋賀みらい構想プロジェクト」。PAPERSKYではこれまで4回にわたり、米原長浜高島大津の各地で展開しているSTORY(DAS地域プロジェクト)を取材してきた。

そんななか「滋賀FUTURE THINKING WEEK」が開催されたのは、2025年3月28日~4月6日のこと。滋賀の未来を水を中心に据えて考える「ウォーター・セントリック」をコンセプトに、DAS地域プロジェクトの活動報告をはじめ、インスタレーションやワークショップ、トークセッションなど、多彩なコンテンツで構成されたイベントだ。

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
会場となったのは、彦根銀座商店街にある旧滋賀銀行彦根支店跡地、名づけて「DASセンター」

「DASで、滋賀ならではのデータを活かした地域創生や発明、エデュケーション、リテラシーを育んでいく、いわば未来の滋賀の創造エンジンとしての拠点がプロトタイプできたら。DASセンターにはそんな思いを込めています」

とは、オーガナイザーのひとりであるアルスエレクトロニカ・フューチャーラボの小川秀明さんの弁。

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
オーストリア在住の小川さんは、オーストリア・リンツにある文化機関アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの共同代表を務める他、札幌国際芸術祭の芸術監督など日本でも活躍している

会場に入るとまず目に入るのが、大きな魚群が空中を回遊する姿。『FLOCK OF』というタイのbit.studioによるインスタレーションだ。小型コンピュータとセンサーが搭載された魚型の風船が、他の魚や周囲の環境を認識しながら、つまり互いに影響し合いながら、“自動的”ではなく“自律的”に空間を回遊している。

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
魚たちが浮遊する空間の中心には、ひと坪の田んぼ。農業をデータサイエンス化し、地球規模の気候変動、また人新世の状況にあるなか、私たちが今後自然と共生していく術を考える試みでもある

会場の各階には、「DAS地域プロジェクト」各エリアの活動報告や、今後のプランやシミュレーションなどの展示が。

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
市民参加型マルチデータプラットフォーム「Memories for Futures」。映像やブックレットといった表現作品にもなった、米原は梓河内のプロジェクトだ
長浜の冨田酒造が着手している「under water journey map」では、地下水の流れを可視化する未来の地図をつくった。消滅可能性自治体といわれている高島では、街を未来の実験地にするべく、エネルギー、金融、農業、交通の面から、その可能性を探った。西大津の「Data anatomy of fisherman」では、ひとりの漁師をデータサイエンスによって解剖し、漁師のリアルな姿を浮かび上がらせた
滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
子ども向けのAI体験ブースとワークショップも。AIをアイデアや創造性を広げてくれるパートナーとして捉え、作品をつくってみる
会場の外にはキッチンカー「DASカフェ」が出現。比良、伊吹、鈴鹿の3山系の水の特色に合わせ、コーヒー豆とその焙煎度合いを変えた3種類のオリジナルブレンドを提供。データに基づいたコーヒーを飲むことで、琵琶湖の水の豊かさと、そこに根づく生活文化を考えるきっかけに

そして、至近の飲食店を貸し切って招待客向けに2日間限定で開催されたのが「DASレストラン」だ。近江八幡の愛知川水域をテーマにしたデータを料理して「食べる」という、おそらく世界初の画期的な試み。

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5

コースは琵琶湖の最上流と最下流、2種類の“利き水”からスタート。窒素や透明度など、琵琶湖の水質を示した紙が添えられた水の料理や、人々の幸福度のチャートともに供されるハレとケのお椀など。

滋賀の食材でつくられた料理とともに滋賀のさまざまなデータを口にし、五感でデータ感受するというもの。参加者はDASで世界を読み解くという新たなアプローチの、もしや歴史的瞬間に立ち会ったのではないか。

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5

「まったくの新フォーマットに接した参加者のみなさんは、はじめは戸惑いもあったと思います。でも、コースが進むにつれてどんどん読み解く能力が上がっていき、楽しんでもらえているのがわかりました。ああいうことを一度体験することだけでも、常識を疑うとか、反対側から見てみるとか、それまでのものの見方が変わるきっかけになると思う。それが、“複数形の未来”をつくるリテラシーになるのでは」(小川さん)

滋賀みらい構想プロジェクト STORY #5
レストランのBGMは、アルスエレクトロニカのメンバーによるライブDJ。琵琶湖の水の音と、琵琶湖の石をその水のなかに落とす音で構成していた

「DASセンター」は今回のイベントのために特別に設られた場だった。が、このようなフィジカルな場があれば、人々は言葉だけでは掴みづらいDASの存在意義を具体的にイメージできるようになる。

「DASで何ができるか。イノベーション、エデュケーション、インキュベーションもあるでしょう。そういったさまざまなものに寄与できそうだという空気感は今回つくれたと思う。今後は、これをどうやったら恒常的な活動にしていくのかということが必要になってくると思います」(小川さん)

ともすると、データサイエンスは無機質なものと思いがちだ。けれど今回のイベントでは、そこにアートが絡む、つまりDASにより、じつはそれが有機的であることを証明できたのではないか。

同じレシピでもつくる人によって料理の仕上がりが異なるのと同じように、たとえば「DASレストラン」のデータをまた異なった角度で活用したい人もいるはず。何をどう表現するかは、それを利用する人間によって変わってくるのだ。

そしてそこにおそらく、DASが未来に寄与できる可能性がある。いくつものアイデアやプロトタイプ、すでに動き出しているプロジェクトまで、さまざまなDASの可能性を提示してみせた、今回のイベントだった。


滋賀FUTURE THINKING WEEK
https://www.sftw.jp

滋賀みらい構想プロジェクト
https://note.com/shiga_mirai/