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Outdoors & Design 15

中嶋健

自然に宿る美を尊ぶ

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

06/09/2025

私たちは、圧倒されてしまうような自然に美を見出し、それを何とかして捉えようとしている気がします。



僕は、いい人は行いがいいし、いいものをデザインすると常々話している。とは言うものの、ややこしく、選択肢がやたらに多いこの世の中で、自分自身にも、周りの環境にも妥協することなく生きることは並大抵のことではないと思う。

僕は再び京都に向かい、中嶋健さんに会って、モダンデザイン、イーストコーストのヒップホップ、そして日本の伝統工芸における共通点について話を聞くことにした。 

京都西部の小さなエリアにある工房で、中嶋さんは斜めに吊るされた長い布地を小さな刷毛で染めている。染色製品が制作される工程があまりに美しくて、僕は驚いてしまった。着物や風呂敷が中嶋さんの現代的なセンスで一味違うものに仕上がっている。

長方形の布地に染色する伝統的な技法を使いながら、生地を極力廃棄しないように配慮していることにも感心した。シンプルで、機能的、実用性に富み、タイムレスなデザインだ。シェイプも古来から人間の身体にフィットするように作られた着物の美点を踏襲している。 

モダンデザインとアメリカのストリートカルチャーに夢中になっていた20代の中嶋さんは、大学の建築学科を卒業後、2008年にニューヨークへ向かった。彼のストーリーは、僕と被るものがある。

中嶋さんに遡ること数年前、僕も同じようにニューヨークを目指して、キャナルストリートにある、この街の最古の画材屋であるPearl Paintsの側に居を構えた。アートとスケートボードが僕をニューヨークに誘ったが、中嶋さんは建築とヒップホップに夢中になりブロンクスに向かった。正直言って、これには驚かされた。この地域はあえて訪れるエリアではないからだ。

自分探しの旅にありがちなように、僕たちは遠く離れた場所で答えを探し、結局、それはすでに自分自身の中にあったことに気づいたのだった。現地で彼が会った人々が感じていた日本の美しさを認識し、彼は日本人としての自分の価値の重要性を再発見した。彼が探していた答えは彼自身の中にあり、そして、日本の文化の中にあったのだ。

新たな審美眼と英会話力を身につけて帰国すると、中嶋さんはできるだけたくさんの日本の伝統工芸を見て回ることにした。手仕事をやりたいことはわかっていたので、どの伝統工芸が自分にフィットするかを見つける必要があった。 


引き染めのプロセスを見た時、これこそ自分が探していたものだと思いました。その時の興奮は今でも覚えています。



中嶋さんの工房で、僕は江戸時代に開発された刷毛のテクニックを目の当たりにした。これまで引き染めによる布を何度も見たことがあったが、その工程に注意を払ったことはなかった。彼の工房ではじめてその工程を目にした僕は、そのテクニックにたちまち魅せられた。

一片の布に取り組んでいる彼の頭上には、すでに染め上げた複数の布が吊り下げられている。中嶋さんは刷毛、布地、染料を巧みに操りながら、ぼかしを入れたり、シャープに色彩を表現している。 彼が着ているTシャツにはわずかに染料の染みがあり、刷毛から雫が滴り落ちるところは目にしなかったが、床にはいろいろな色が飛び散っていた。驚くべきことに彼の手に染みは一切なかった。 

「何年経っても自分の手で仕事をしていることにときめいています。長年仕事をするうちに、自分の手はかなり繊細なニュアンスを感知でいるようになりました」と中嶋さん。仕事を続けるうちに、表現の幅も広がった。「経験を通じて会得したものは、自分の身体の一部になり、かけがえのないものとなるのです」。 

中嶋さんが話していることは、私たちにも当てはまる。内面的も肉体的にも経験を積んだことは、私たちのあらゆるクリエイティブな表現に反映される。同時に私たちは、自分の行動や目的を考えすぎたり、伝統、流行、名声やお金に注力したり、物事のプロセスを複雑化しがちだ。重要なことは何か特別なことをしようとするよりも、身体に馴染んでいるものに従って、常に自然体で臨むことだ。

今よりももっといい仕事をしたい人たちにとって、自然の中に身を置くことは、自分が自然体になれるための重要な要素です。新しい発見や感覚をもたらす、素の自分の感性が自然に身を置くことで戻ってくるのです。



作業中の中嶋さんに、僕は次から次へとチャレンジングな質問をした。時には手を休めながら、彼は丁寧に答えてくれた。僕はこんな質問をすることで、仕事の邪魔をして、作品が台無しになってしまうのではないかと案じていたが、彼は気に留めていないようだった。中嶋さんは、話をしている最中も常にリラックスしていた。 

滋賀県で育った中嶋さんは、魚を獲ったり、昆虫採集をしたり、秘密基地を作ったりして、自然に囲まれた環境で少年時代を過ごした。 「少年時代にやっていたことが今の自分のベースになっていると思います」。 2度と同じ風景と遭遇することがない、絶えず変化し続ける自然の中で、五感をフル稼働させて遊びながら、新たな可能性を創造する能力が育まれたのだ。「ゼロからデザインをするとき、好奇心を持ちながら創造性を働かせることが大切なポイントです」。 


「人として、僕は人間だけが作れる美しいものが作りたいし、それが自然に対するリスペクトだと思います」



美しいものを創造することと、感謝することは、人間(アーティスト)として、私たちにもともと備わっている能力だ。それは、私たちの文化と自然環境をリスペクトしながら向上できる感性でもある。 


美しいものは私たちを感動させるし、気持ちを豊かにさせて、愛おしむ感情が湧いてきます。この気持ちを理解できる人は、自然に対しても同じ感情が湧いてくるはずです。 



私たちの作法とニーズは基本的に変わっていない。身に纏う一片の布、所持品を持ち歩き、汚れを拭う必要があるものは、拭ってきれいにして使う。でも、デザイン、生産、消費する方法は劇的に変わった。それは必ずしもいい方向に変わったというわけではないけれど…..。着物の使い方を見直すことは、ここ数年で日常的になった。今では着古した着物を美しく、機能的な小物としてアップサイクルしているメーカーも多い。 

伝統的な技法に触発されつつ、同時に自然環境への感謝の気持ちをこめて、中嶋さんは製作に励んでいる。中嶋さんは製品が長持ちすることだけではなく、できるだけ素材を廃棄しないようなものづくりを心がけている。数世紀前に織られた着物の切れ端が、柄を生かした今っぽいバッグやタオルに再生されることもある。中嶋さんのデザインは伝統的であり、モダンでもある。日本の夏祭りで着る浴衣も、ニューヨークのストリートにマッチするファッションをデザインすることも彼にとっては自然なことだ。

Photographer: Akari Kuramoto. Model:  Lisa Fumimoto.
Designer: NOT by Jenny Lai. Photographer: Andrew Boyle. Model: Sam Marie Mohite

たしかに、この世の中にあるすべてのものが環境にやさしいわけではない。でも、私たちは、物を作ったり、使ったりする際に選択肢があるし、日々の生活で色々なものをクリエイティブに再利用することもできる。美しさと優しさは私たちを取り囲む自然に宿っている。空虚な言動やトレンドなどに惑わされず、自分らしい感覚で日々の生活で使うものを選択するべきだ。

工芸、デザイン、伝統、テクノロジー、そして、環境にやさしいということは何を意味するのかなどについて、中嶋さんとあれこれ仮説を立てて話し込んでいるうちに、なんだか訳がわからなくなってきた。そこで、僕は中嶋さんに尋ねてみた。「あなたにとって、成功とは何を意味しますか?」

中嶋さんの回答はシンプルで意味深い物だった。「自分の仕事と行動に満足することができて、家族と友だちが幸せになることです」。

中嶋さんのテキスタイルが、僕がこれまで見てきたものとは異なり、ユニークな作風である理由がわかってきた。それは、熟練した技術、想像力溢れる遊び心、ヒップホップ、デザインと自然、コミュニティー、日本の伝統工芸へのリスペクトをミックスしたものを、彼が刷毛で表現しているからだ。なんとも素晴らしい才能だ。




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