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“私らしく”を表現できるこの土地で

錆と煤「手芸部」
染色作家 山崎香織
ハンドメイド作家 きくちゆり

Kochi Woman 05

母なる太平洋と、南国然と降り注ぐ太陽。 こうした天恵のもとで生きる高知の女性は、底抜けに明るく、たくましく、誰よりも働き者。そんな県民性を有する女性たちのことを、高知では「はちきん」と呼ぶ。移り住んできた人であっても、この地に根を張ると自然と“はちきん”化していくのもまた不思議。 しなやかに生きる、はちきんたちの個性豊かなストーリー。

08/10/2021

高知の女性クリエイターが集う、多国籍食堂「錆と煤」

高知県南国市の一角にある、多国籍食堂「錆と煤」。カレーや副菜など17種類がワンプレートに盛り付けられた、南インドカレー料理が評判の人気店だ。この店に足繁く通うのは、繊細な味わいに魅せられた人はもちろん、店主・山田和子さんに共鳴するクリエイターたちも少なくない。和子さんは料理人の顔以外に、京友禅やろうけつ染め、ペインティング、アクセサリー製作など、多彩なものづくり経験を持つ、クリエイティビティー豊かな人物なのだ。

「錆と煤」は、外観からして極めて個性的だ。錆に覆われた廃屋寸前の小屋。その入り口ののれんをくぐると、独特なセンスで紡がれたカオティックな空間が広がる。不思議と居心地がよいこの店は、月に数回の営業時間外、クリエイターたちの交流場になる。いわく、和子さんを中心にした「手芸部」という集まりで、この場所は「部室」に当たるのだそう。

「仕事と関係のないものづくりをする時間になっているので、すごくリフレッシュするというか、気分転換になってますね。一人でずっと制作してると煮詰まったりするけど、ここなら脳みそがほぐされていくからいろいろな発想が湧いてくるんですよ」

こう話すのは、部員のひとり、染色作家の山崎香織さん(写真左)。ロウと染料を用いながら布に色を重ね、独自の染色表現を続けている。カレーを食べに店へ訪れたのをきっかけに、和子さんと意気投合。部内で「染め部」をたちあげて、有志で自然素材の染め物活動も行っている。そのメンバーの1人、ハンドメイド作家のきくちゆりさんも、この部活を通して表現の幅を広げているクリエイターだ。

染色作家・山崎香織さんの作品。どれも美しい仕上がり
「染め部」の活動で植物を採取して作られた作品

「お財布や海洋プラスチックのアクセサリーの製作をしていたんですが、手芸部をきっかけに染め物っておもしろいなぁと思って。コロナ禍の去年はずっと家の周りの草を採集して、染めをしていましたね。海洋プラスチックはビーチで拾うし、山に野草を取りに行くこともある。近くに海川山がある高知の環境は、クリエイターにとって素材集めやインスピレーションを得るためにも最適な土地なんですよね」

きくちゆりさんが制作する、海洋プラスチックのアクセサリー

手芸部のメンバーは、年齢も専門分野も異なる約15人のクリエイターたちだ。それぞれのセンスや技術を持ち寄り、化学反応を楽しみながら、制作物の販売やワークショップの開催も今後、精力的に行う計画だそう。

高知には、働き者で明るくてパワフルな高知の女性をさす「はちきん」という方言があるが、ひとつの机を囲み、せわしなく手を動かしながら、クリエイティブ談義に興じる彼女たちは、まさしく“はちきんクリエイター”だ。その中心にいる和子さんは言う。

「自分のものづくりの欲求と、人に喜んでもらいたいという欲求と、どちらも満たせる素晴らしい仕事がこの店。ものづくりとカレーは地続きにあるものだから、カレー屋っていうイメージは自分のなかにはないんです。これからも、ボーダーレスに人が集まって、人が喜ぶ場所をつくっていきたい」

食堂として、クリエイティブ発信基地として。「錆と煤」はこれからも進化し続ける。

PAPERSKY no.64 | MODERN NOMAD
火を囲み、釣った魚と地元の食材で調理しながら、心と身体と魂を開放する高知の旅へ。旅のゲストは旅する料理人の三上奈緒さんと、釣り師の BUN ちゃんこと石川文菜さん。
text | Yukiko Soda photography | Natsumi Kinugasa