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春の自転車旅は、大井川流域から!
「RIDE Oigawa」を駆け抜ける

南アルプス・間ノ岳に端を発し、静岡県の中央を流れて駿河湾に注ぐ大井川。川の流域には緑の茶畑が広がり、昔懐かしい鉄道が走り、ダム湖はエメラルドグリーンに輝いている。そんな大井川流域の魅力を凝縮した自転車専用ルートがあるらしい。春の自転車旅は「RIDE Oigawa」から始めよう。

03/27/2025

自転車に乗りながら、静岡県らしい風光明媚を間近にし、地域の名産を味わい、地元の人々と交流する。ライドと観光、体験を同時に味わえるのが、大井川流域サイクルツーリズム協議会が設定した自転車専用ルート「RIDE Oigawa」だ。

「RIDE Oigawa」には、島田・金谷を中心とした「川越ライド」(18.6km)、島田市川根町〜川根本町の「温泉ライド」(58.8km)、大井川上流域の奥大井を走る「秘境ライド」(27.7km)、井川湖畔をライドする「湖畔ライド」(井川湖渡船コース8.8km/田代ロングコース22.8km)の4つのコースが設定されている。

今回は大井川鐵道千頭駅から島田市までの道のりを、「秘境ライド」「温泉ライド」「川越ライド」を使って2泊3日で実走してみる。

「RIDE Oigawa」は一面の茶畑がキーワードのひとつ。もちろん、そのほかの絶景も!

JR東海道本線金谷駅から大井川鐵道とコミュニティバスを乗り継いで、大井川鐵道千頭駅に降り立つ。初日に挑戦する「秘境ライド」は千頭駅をスタートし、接岨峡温泉会館を折り返してスタート地点に戻るコースで、行きはほとんど上り坂。ハードな行程になりそうだ。

せっかく川根茶の産地まできたのだから、千頭駅周辺ではぜひ、産地のお茶を味わいたい。駅前にある「田畑茶店」でいただいたのは、やわらかな甘みとまろやかなコクがおいしい煎茶。人心地ついたところで店のご主人に、川根茶の話を聞いてみた。川根一帯では500年以上も前から茶葉が栽培されてきたという。

「川根は奥大井の両岸に山々が迫る地形で、昼と夜の寒暖差が激しい。だから、朝方には霧が立ち込め、急斜面に拓かれた茶畑を包み込む。この霧が、川根茶らしい味わいをもたらしてくれます」

千頭駅前の「田畑茶店」にて。ライドのスタートを記念して川根茶で乾杯!

店内にうず高く積まれていた茶箱が気になってご主人に尋ねると、町内には茶箱を専門に作る工房があるという。防湿・防虫・防酸化効果に優れた茶箱は、茶葉の保管に欠かせない道具。江戸時代末期〜明治初期は、さまざまな茶箱に入れられた茶葉が静岡街道を経て横浜港まで運ばれ、海外に輸出されたとか。そんな茶箱製造を見学しに、「前田工房」を訪ねた。

さて、茶箱である。現在、茶箱専業のメーカーは全国でたった3軒のみ。そのひとつが「前田工房」だ。70代の親方のもと、30〜50代の5人の職人が、地元のスギ材を使って大小さまざまな茶箱を製造している。防湿・防虫・防酸化効果の秘密は、内側に貼ってあるトタン。内側の溶接に用いる素材は鉛のハンダが一般的だが、亜鉛は健康に悪影響を及ぼす可能性があるとして、ここでは人体に影響のない錫(すず)を原料とする、鉛フリーのハンダに切り替えた。「コストはぐんとアップしたが、その分、製品レベルも格段に向上した」そうで、現在はアメリカ、イギリス、カナダ、カタールなどにも輸出している。

「前田工房」での作業風景

「地元で伐採されたスギ材から茶箱に適した材を選び、島田で製材したものを3ヶ月間、干して乾燥させ、ここで茶箱に仕立てています。防湿・防虫効果があることから現在は茶葉だけでなくコーヒー豆や米、乾物、果てはカメラやカメラレンズの保管にも用いられているんですよ」(「前田工房」の薗田喜恵子さん)

茶箱の製造時に出る鉋屑(かんなくず)も有効活用しているのがポイントだ。茶畑に撒いたり、あるいは養鶏業者に引き取ってもらい、鶏小屋の床に敷いたり、鶏糞と混ぜて堆肥を作ったり。地域の森の恵みの循環を意識したものづくりといえるだろう。

江戸時代末期〜明治期に使っていた、輸出用の蘭字のラベルを復刻した茶箱

前田工房を後にし、この日はそのまま、温泉で有名な接岨峡まで走る。途中、林業と大井川を中心に歴史を紡いできたこの地域の、暮らしや産業を立体的に展示する「川根本町資料館やまびこ」に立ち寄る。ここでは、茶箱にも利用されたであろう木材がいかにして沿岸部にもたらされたかを理解することができる。

川根本町のシンボルの一つ、エメラルドグリーンの湖に浮かぶ奥大井湖上駅

接岨峡温泉は全国でも数少ないナトリウム炭酸水素塩冷鉱泉で、無色透明、とろとろの湯が特徴。泉質の良さから全国の温泉好きが訪れる。


ユニークなゲストハウスでの一夜


そうこうしているうちに帰りの電車の時間が迫ってきた。本来のルートでは、来た道を自転車で戻るのだが、今回は千頭駅までの帰路に大井川鐵道南アルプスあぷとラインを利用する。国内随一の急勾配区間を日本で唯一のアプト式で走る列車は、渓谷沿いをのんびり走る。千頭駅からまた自転車にまたがり、日本人&アメリカ人の夫妻が営むゲストハウス「みかんせい」へ。

ガレージ内に自転車を保管させてもらえる、サイクリストにフレンドリーな「みかんせい」。オーナーの塚島史朗さん&クレアさん
「みかんせい」では自炊も楽しい
地元猟師の渡辺実優さん。鹿肉の唐揚げを振る舞ってくれた

塚島夫妻が「みかんせい」をオープンしたのは、2024年5月のことだ。カリフォルニア州ヨセミテの、川根本町よりもさらに小さな町出身のクレアさんと、神奈川県出身の史朗さんは静岡で出会った。川根本町の自然、気候、風土と築110年の古民家に惚れ込み、この地への移住とゲストハウス運営を決めた。少しずつ手を加えているところだが、「完成したらつまらない、家も町も人も、永遠に変わっていくのがいい」と、ゲストハウスの名前は「みかんせい」。素泊まりのこの宿では、夕食や朝食は備え付けのキッチンを使ってゲストが用意する。時にオーナーを交えて調理したり、食事をとったり、そんな家庭的なムードが楽しい宿なのだ。

2日目、「みかんせい」の2人に別れを告げて出発。この日は川根本町から島田までの「温泉ライド」のルートをたどる。本来の「温泉ライド」は川根温泉笹間渡駅をスタートし、家山駅を経由して千頭駅で折り返してスタート地点に戻る周回コースなのだが、今回は「温泉ライド」の後半、「みかんせい」から家山駅までのルートをなぞって島田駅まで走る。

このルートは道幅が狭く、車の往来が非常に多い県道を利用する。周囲を茶畑に囲まれた舗装道は下り基調で、ついついスピードが出てしまうけれど、十分に注意しながら進もう。ランドマークの「塩郷の吊り橋」を横目にさらに南下。大井川鐵道地名駅に向かう途中、「日本一短い」トンネルを経て大井川に面した喫茶店「ともしび」へ。

「ともしび」でコーヒーブレイク。こちらでは、自家栽培の小麦粉を使ったシフォンケーキがおすすめ

「ともしび」の先で昭和橋を渡り、大井川右岸へ。ここから家山駅までは「温泉ライド」前半のルートをたどる。広々とした茶畑のなかに突然現れたのは、高さ7mの竹製の手のひらのオブジェ!2024年2〜3月にかけて行われた芸術祭「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2024」に参加したアート作品、小山真徳の『てのひら』だ。

「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2024」は島田市及び川根本町の大井川流域を現代アートの舞台とするもので、「茶箱」や「大井川」など、地域固有の資源を題材とした30の作品が登場した。特大サイズの手のひらは、作家がこの地に2ヶ月間、逗留して制作したものとか。2ヶ月の間、地域の人々とどんな交流があったのだろう、どんな会話からこの作品が生まれたんだろう……なんて、想像をかき立てられる。

茶畑に出現する屋外アート作品


茶畑を抜け、「越すに越されぬ大井川」を渡る


大井川鐵道家山駅周辺では「たいやきや」に立ち寄り、名物の羽根つき抹茶たい焼きをいただく。そのあとは念願のELに乗って新金谷駅まで。もちろん、自走して新金谷駅まで行ってもいいのだけれど、ここはぜひ、レトロな鉄道の旅を体験してみよう。

新金谷駅周辺では、大井川流域の情報発信拠点「KADODE OOIGAWA」に立ち寄り、お土産や地域の特産品をチェック。施設内の「TOURIST INFORMATIONおおいなび」にはサイクルピットも設けられている。蛇口をひねると緑茶が出てくる緑茶水道で水分補給したら、この日の宿泊地、「おれっちのひみつきち」までもうひとこぎだ。

「緑茶・農業・観光の体験型フードパーク」を謳う「KADODE OOIGAWA」の「TOURIST INFORMATION おおいなび」。ここまでのルートを振り返りながら、「大井川でやるべき100のこと」をチェック
囲炉裏のある古民家に宿泊できる「おれっちのひみつきち」。邸内の土間に自転車を保管できるので安心

「RIDE Oigawa」の「温泉ライド」コースを疾走した2日目の締めは、地元の名物店、「中屋酒店」へ。店舗の奥に昔ながらのコップ酒場を併設した、6代続く酒店で、夕方になると常連が続々と集まってくる。常連のみなさんに勧められたのが、「中屋酒店」オリジナルの日本酒「かなや日和」。米作りから取り組み、地元の酒蔵で醸したというこだわりの日本酒、現地でお試しあれ。

翌日は「おれっちのひみつきち」から大井川鐵道新金谷駅付近まで下り、ここから島田・金谷エリアの「川越ライド」をたどる。「川越ライド」のルートには、東海道最大の難所として恐れられた大井川の、歴史のエピソードが散りばめられている。好奇心を満たすライドを期待できそうだ。

まずは大井川橋を渡ってJR島田駅方面へ。大井神社にお参りした後、駅前の清水屋で名物の小饅頭を買う。参勤交代で島田宿を訪れた、松前藩の松平不昧の目に留まったことで一躍、知られるようになったという、東海道の名物まんじゅうだ。小ぶりのサイズでいくつでも食べられてしまうので、行動食として多めに買っておくのがおすすめ。

大井川川越遺跡では、輪行気分で復元された輦台に乗る

次に向かったのは大井川川越遺跡。江戸時代、「東海道屈指の難所」と恐れられた大井川を渡る際に活躍したのが「川越人足」である。川を渡るための手段は、人足に肩車してもらうか、輦台(れんだい)という乗り物に乗るかの二択で、川越制度と川会所というシステムが整備された。最盛期には川の両岸に1000人強の人足が配置されたといい、この遺跡には川越の料金所(川会所)や人足の番所が再現されている。

見渡す限り茶畑が広がる牧之原大茶園

再び大井川を渡り、JR金谷駅へ続く坂を上って牧之原台地へ。日本一の広さ(なんと5,000万㎡!)を誇る牧之原大茶園は、明治初期、版籍奉還に伴って職を失った250人あまりの士族たちにより開墾されたもの。隊長として士族を率いた中條景昭のチームに、川越制度の廃止によって職を失った川越人足たちも加わり、農民さえ見向きもしなかったという荒地を大茶畑に変えたのだ。

明治22年には東海道線が開通したことで茶製品が全国に出荷されるようになり、牧之原茶を広めるのに大いに役立ったという。牧之原台地を見守るように建つ武士像は、この中條金之助景昭の像だった!この中條金之助景昭像が位置するのは、茶畑と大井川、富士山を一望する絶景ビュースポット。時間に余裕があったら、ここで一息つくのがおすすめ。

なんとも絵になる蓬萊橋

牧之原大茶園から長い下り坂を経て、3日間のハイライト、「世界一長い木造歩道橋」こと蓬萊橋へ。歩行者のみ通行可能の歩道橋だが、自転車も押し歩きで通行できる。全長897.4mの蓬萊橋は現在も農道として利用されている橋で、橋から富士山の眺めがいいとしてツーリストにも人気のスポットだ。蓬萊橋を渡ったら、ゴールのJR島田駅はもうすぐそこだ。

ダム湖に温泉、SLに、江戸時代の面影を残す宿場町や遺跡まで、大井川流域には見どころが満載!サイクリストを満足させる体験の宝庫なのである。



【Travel Guide】

RIDE Oigawa
https://www.city.shimada.shizuoka.jp/fs/1/3/1/9/9/6/_/RIDE_Oigawa.pdf

前田工房
https://kawanechabako.jp

接岨峡温泉会館
https://www.sessokyoonsen.com/

川根本町資料館やまびこ
https://www.town.kawanehon.shizuoka.jp/soshiki/shakaikyoiku/shiryokanyamabiko/index.html

ゲストハウスみかんせい
https://www.guesthousemikansei.com

おれっちのひみつきち
https://ore.pepper.jp

KADODE OIGAWA
https://kadode-ooigawa.jp

text | Ryoko Kuraishi photography | Daisuke Kitayama