自然に接していると、無意識に心が浮き立ってくるんですよ。
人が場所、人間、アートに惹きつけられる要因はなんだろうか?価値のあるものだからか、流行っているからか、もしくは他の理由からなのか。あるいは、なにかスペシャルな個人的見解をもてる対象だったり、自分の好みにドンピシャで、好奇心をそそられるから、もしくは、単なる気分で惹かれるのだろうか?
生まれてはじめて鹿児島に降りたった途端、僕はすぐにこの場所が気に入った。型にはまらないクリエイター、オカタオカに会うために市電に乗り込んだ僕は、車窓に広がる桜島の景色に興味をそそられた。

鹿児島に住む人を特徴付ける3つの要素として挙げられることは、シャイで、親切、そして、のんびり屋ということだ。待ち合わせ時間から数分過ぎたところで、オカさんはシトロエン・ピカソを駆ってあらわれた。この車は200台しか日本に輸入されていない。午前8時に待ち合わせた僕たちは、彼の友達の撮影スタジオに立ち寄って、朝の挨拶をしつつ、一輪挿しをピックアップしてから、のんびりとドライブをスタートした。
僕たちは車中でクリエイティブのプロセスやオカさんの最近のプロジェクト「Highway」について語り合った。HighwayのHighはここでは「灰」を意味するので、日本語のプロジェクト名は「南国灰道倶楽部」と称されている。
15分ほど愉快な会話を交わした後、灰で覆われた道を走りながら、鹿児島からのフェリーが、活火山である桜島の海洋を走るシュールな光景を眺めていた。僕は駐車場で働いている人が、特殊な掃除機で灰を払い、学校帰りの小学生たちが洗濯できるポリエステル製のヘルメットをかぶっているのを見て驚いた。こんな興味深い光景はこれまでみたことがない。僕たちは灰混じりの岩山を探索した。



どうやら僕が桜島に到着した日の朝に、噴煙の高さ3,400mの噴火があったらしい。動画を見て、さっきの小学生たちがなぜ黄色のヘルメットをかぶっていたかがわかった。僕が桜島を去った後も噴火があったらしい。どうやら、僕は活火山の噴火と縁がないようだ。見たくもないが……いや、見たいとも言えるな……。
「活火山が近くにあるって、心配じゃない?」と質問してみると、大抵の鹿児島県民は、のんびりと「別に」と答える。

オカさんは、桜島をモチーフにした作品をたくさん描いた画家、曾宮一念さんについて教えてくれた。僕たちイギリス人が天候について頻繁に話すように、鹿児島に住んでいる人はいつも桜島のことを話題にしている。
世界的に見ても、各国の火山をモチーフにして作品を描きたいアーティストはあまりいないのではないだろうか。鹿児島のこの活火山は、工芸作家やデザイナーを虜にする何かがあるようだ。僕にとって、何度もインスパイアされる対象はと言えば、 鞍掛山か白山国立公園だろうか?

オカさんがアーティストになった道のりも一般的とは言い難い。好奇心の赴くまま、普通の人が選ばない、より面白そうな工程を選択しているうちに、鹿児島に辿り着いた。幸運にもここは工芸作家で溢れている土地だった。
アーティストによっては、一度自分のスタイルを発見してしまうと、最後までずっとそれにしがみついてしまう人がいる。一方で、新しいスキルや表現方法を次々と発見するアーティストたちもいる。どちらのスタイルを取っても、終着点は似たり寄ったりかもしれないが、どのように前進していきたいかがポイントなのだ。
オカさんと僕は、あちこち遠くまで車を走らせながら、あらゆる場所でクリエイティブなカルチャーを見つけた。オカさんは学生時代にタイや東南アジア諸国を旅したときに、のんびりと旅をするトラベラーたちを見て、刺激を受けた。その後、インドとメキシコへと旅をした体験は、彼のイラストのスタイルに大きな影響を与えた。
赤信号で止まったとき、僕たちは日本の街角にある看板とインドのそれとを比較していた。日本の日常的な景色のほとんどが無味乾燥、彼の言葉を借りるなら、「ムードがない」と、僕たちは思っている。インドの手書きの看板は、まちがいがあるものの、コンピューターが決してできない人間の温かみのような雰囲気をたたえている。オカさんはこう語る。
「アートの素養がないショップのオーナーが手書きした看板の方が、この辺で見かける看板より、よっぽど好きです」
その通りだ。

その後、僕たちはデザインオフィス、Judd. を経営する清水隆司さんと落ち合った。帽子の形をした彼のメルセデスベンツ・セダンをうっとりと眺めると、民藝喫茶の可否館に向かった。
温かい雰囲気の店内の壁には柚木沙弥郎さんの作品が架けられている(彼はこの店の看板も手掛けている)。また、彼の師であった芹沢銈介さんの作品も飾られていた。
コーヒーとケーキをオーダーして、話はさらに盛り上がり、気がつけば午後3時に。このノリこそアーティスト集団だ。目覚まし時計や取るに足らないスケジュールにうんざりすることなく、興味をそそられることがあれば、すぐに調べたり、取り組んだりすることができるのは僕たちにとって大切なことなのだ。今日のように、雰囲気抜群の喫茶店でアート、車、工芸について話せることは本当に嬉しい。
仕事を通じで自分の世界観を表現するには、物事の本質を見極める時間が必要だ。慌ただしく結果を求める人たちはどこにでもいる。でも、自分流のやり方は絶対に見つけられる。オカさんは日本の南方の地で、刺激的な景色と頼りになる仲間たちに囲まれて、自分にとって理想的な環境を見つけることができた。

僕たちは Highway – Driving With Craftプロジェクトについて話した。魅力的な車と日本中の工芸職人の仕事を融合しようとする試みだ。彼らは、友達同士で繋がりながら、時間をかけて作品を作りたいと思っているので、商品ができるまでかなり時間がかかる。一輪挿しベースや木製エアフレッシュナーなど、丁寧に作られた商品は、桜島の灰で焼いたり、染めたりしたものだ。

温かいコミュニティ、自然の素材、手作りの工芸は、のんびりとした働き方ができるからこそ実現できるものだ。僕たちが口にする「良いムード」が、オカさんの仕事には漂っている。だからこそ、数年前に彼のイラストをはじめて見たとき、僕は惹きつけられたのだ。彼の作品を好きになった理由が、鹿児島に来てよくわかった。
オカさんとその仲間たちと1日過ごして、僕は本当につながりを持てた気持ちになった。僕たちはインドの手書きの看板、メキシコの木彫、日本の工芸品、丸いヘッドライトの車、適量に注がれたアメリカーノ、などなどについていつまでも話せる仲間同士だ。

「僕はセンスを共有できる人たちに囲まれてるな」と夕陽が桜島を照らす光景を眺めながら、ひとりつぶやいた。これから、いろいろな書籍、彫刻、会話を思い出すたびに、若き日のポール・マッカートニーの髭面を思わせるオカさんの顔が浮かび、思い通りに生きて、働けばいいんだという気持ちになるだろう。オカさんにとって、成功とはなんだろうか?
「それは、いい友だちに恵まれることです」
車のガスタンクは空になったが、全身が幸せな気分で満たされ、僕は祝福された気分で鹿児島を後にした。
いい旅だった。
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