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National Park Poster Trip
日本の国立公園を描く旅

Vol.1

瀬戸内海国立公園


Island Dreams & Seas of Lemon”
CHALKBOY × PAPERSKY × DANNER × NATIONAL PARKS OF JAPAN

2020年、PAPERSKYは日本の国立公園のオフィシャルパートナーとなったことを機に、アーティストのCHALKBOYとともに「国立公園ポスタープロジェクト」を立ち上げた。そのミッションは、日本に34ある国立公園のオリジナルポスターをつくること。今回、PAPERSKYのルーカスとCHALKBOYが旅して描いたのは、「瀬戸内海国立公園」だ。

2024年11月30日


瀬戸内海、日常と非日常のグラデーション


静かな海とはここ、瀬戸内の海のこと。波打ち際まで近寄ってようやく聞こえるチャプチャプという生まれたての波の音。ひっきりなしに行き交う船たちが波を立てて海をかき混ぜている。対岸の造船所から届く鉄を打つ長い低域のサスティーン、鳥のさえずり、橋を渡るタイヤのノイズ。

サイクリングに最適な気持ちのよいコース、だが車には難しい道を進んだ。鞆の浦、内海大橋、沖の観音で車を停めてスケッチ。目を凝らすと動いているのがようやくわかる観覧車のような、すべてがスロー再生している風景を描き留める。

ああこんな旅がしたかったんだなと、感謝と幸せを噛みしめた。行き先は決めず、最後に宿にたどり着けばよい。おおいなる使命は、自分のアンテナを最大限に広げて、赴くままにスケッチや記憶で風景を取り込んでいくことだ。

僕たちが旅している場所は広島県福山市から尾道市、愛媛県今治市のいわゆる「しまなみ海道」。そして、旅の目的は瀬戸内海国立公園のポスターをつくること。ひたすらインプットの幸せな旅だ。

瀬戸内海国立公園。一度聞いただけでは具体的にどこを指しているのかわかりづらく、なんとなく尾道から今治のしまなみ海道あたりを想像し、ルーカスに旅の候補地としてリクエストした。地理的にはそのイメージはまちがいではなかったが、実際はもっともっと広大で、瀬戸内の海に面している大阪、和歌山、兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡、大分と11の府県にまたがっている。雲仙、霧島ともに1934年に日本で初めて国立公園に指定された地域であり、国内で最も広い国立公園。その特徴として、瀬戸内海一帯は早くから文化が栄え、人と自然とが共存してきた地域であり、島々の段々畑や潮待ちの港町など、自然と暮らしが一体となった親しみやすい景観であることも大きな特長のひとつ、と環境省のウェブサイトでは紹介されている。

なるほど、文化が栄えるには人が集まり出入りがなければ始まらない。人々やものの摩擦熱が文化の火種なのではないかと僕は考える。

じつをいうと、僕は東京から尾道に家族で引っ越して住んでいた期間がある。友人が住んでいたので一度尾道を訪れたのだが、それだけで住んでみようと決めるにいたった。住んでみると、まさにそういう街だった。取っ替え引っ替えどこからか人が流れ込んでくる。尾道出身の人を探すほうが難しいほど、さまざまな場所からさまざまな理由で人が流れ着く町。でも人口はふくれることがない。どこかへ旅立っていく人も、またいるからだ。

きっとこの町はずっとそうだったのだろう。この人懐っこい町や柔らかなシーツみたいな海が、人に荷物を下ろさせ、足を止めさせる。そうして旅と生活の境が滲み始める。何かを始める隙間はたくさんあるし、何かをやめるきっかけにも持ってこいの町だ。

旅の最終日、ずっと陸側から見ていた瀬戸内海の景色を海側から見てみようと船に乗り込んだ。さっき車で走った橋の下を船でくぐって橋のお腹を見上げる。この手づくりの船はとても素敵な帆船だが、凪ぎきった海では時折エンジンも必要らしい。船のオーナーのサムさんは、僕がドラムスティックを持ってきているのを見て、ギターを持ち歌い始めた。エンジンのキーはE、BPMは80くらい。船の音、サムさんの歌声とギター、ひっくり返したバケツのビート、それらが風に混ざって本当に心地よい。そして船はどこかの小さな無人島に上陸する。これで完璧な非日常の完成だ。夢か、映画か、小説か。ただ不思議なことに、この非日常感を自分の日常のものにできるんじゃないだろうかという思いが、心のどこかにある。家に戻ったら絶対に無理だ。だけど、この海のそばなら、瀬戸内海に浮かぶどこかの島に住んでしまえば、奇跡的で、非日常で、ドリーミーな日々を過ごせるかもしれない。実際、当時の僕はそう考え、行動に移した。

僕だけが瀬戸内海の魔法に弱いわけではないはずだ。はるか昔から旅人を誘惑し、住まわせて、かき混ぜて文化の渦をつくってきた。きっとこれからもそうあり続けるだろう。本当に魅力的な海で幸せな旅だった。 もちろん、今回は広すぎる瀬戸内海国立公園のほんの一部を旅したにすぎない。だが日本の国立公園の特徴でもある、「自然と人の暮らしが織りなす景勝地で歴史や文化に触れることができる」という醍醐味を、ここに暮らす当事者であった自分の記憶がフラッシュバックし、過去と現在、旅行者と生活者の視点が行き来しながら感じることができた、稀有な旅となった。


CHALKBOY(チョークボーイ)
カフェのアルバイトでメニュー黒板を担当したことからチョークアートの世界に。国内外の飲食店、企業、メディアなどへ作品を提供する他、イベントやワークショップも精力的に行う。手描き結社「WHW!」代表としても活動中。www.chalkboy.me


国立公園ポスタープロジェクト
PAPERSKYとアーテイストのCHALKBOY、アウトドアブーツブランド「Danner」による、日本の国立公園それぞれのオリジナルポスターをつくるプロジェクト。CHALKBOYとPAPERSKYが日本各地の国立公園を旅して描いたポスターは、オリジナルのグッズとして展開されている。
https://store.papersky.jp/collections/national-parks-of-japan-postcard