なぜ、日本一の野草地が形成されたのか?
阿蘇の大地を感じるため、巨大なエネルギーの源となる火山の只中を僕らは歩いた。阿蘇火山博物館から杵島岳火口跡までの道のり。約1.5時間の爽快なハイクだ。
「巨大なカルデラの底に町があるのがわかるでしょう。ここでなんとか暮らしていこうと古くから土地の人々は苦労を重ねたんです」


どこまでも広がる壮大な見晴らしを眺めながら、レンジャーの山下淳一さんがこの土地に紡がれたストーリーについて話を始める。27万年前から9万年前にかけ、この場所では巨大な噴火が4度も発生した。この過程で姿を現したのが阿蘇カルデラだ。
「最も大きかった噴火は約9万年前に起きたとされています。そのときの溶岩が遠くは現在の山口県くらいまで、火山灰は北海道の東方まで及んだことが確認されているんです」

これほど大きな噴火があればマグマが溜まっていた場所は空洞となる。これこそがカルデラであり、その空洞地帯に人々が住む。過酷な環境だが、現在でも1,000カ所は下らないとされる湧き水が人間の暮らしを支える源ともなった。1,000年ほども前から人々は草原に火をつけて狩猟し、有り余る草は馬や牛の餌、茅葺きの材料などとして用いた。日本一といわれる野草地は自然の営みだけで形成されたのではない。ここに暮らす人々が生活のために草を利用し、野焼きをし続けたからこそ森林にはならず、草原の風景が保たれたのだという。今、目にしている風景は気の遠くなるような時の流れのなか、人間が手を入れた結果なのだ。標高1,326mの杵島岳頂上に立つと、そんな歴史のストーリーを囁く声が、どこかから聞こえてくるような気がした。
「田んぼの風景や火山由来の石でつくられた橋、湧水や草原など、阿蘇には人と自然の結びつきを感じられる場所が無数にある。自然と折り合いをつけて必死に生きてきた人間の歴史こそ、この土地の大きな魅力なんです」


最大標高差は192m、距離は3.2kmのライトなハイキングながら、豪快な大地の息吹を感じられる美しいコース。阿蘇五岳の様相や草原、砂原、新緑の時期にはピンク色に輝くミヤマキリシマの群生が最大の見どころとなる。
阿蘇山上ビジターセンター
熊本県阿蘇市赤水1930-1
阿蘇火山博物館1F
TEL: 0967-34-2171

月の満ち欠けに合わせた「月読み農法」で栽培された、にしだ果樹園の柚子ジュースと桃のジャム。南阿蘇鉄道の長陽駅舎内にある久永屋のシフォンケーキは、編集長のお気に入り。ブルーベリーシフォンに、ジャムを塗って。