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Outdoors & Design 02

mikikurota architects
Mountain Gear Project

Through My Own Interface.

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

09/03/2021


「Mountain Gear Projectは、ハイキングと建築がコラボレートしたアートワークです」



mikikurota architectsが設計した一風変わった小型のグリーンのテントを初めて見たとき、僕はその洗練されたデザインに驚いた。この夫婦のデザインユニットは、どのようなものからインスピレーションを受けて、日本で、いや、おそらく世界で一番機能的で美しいアウトドアギアをデザインしているのだろうか?

僕は家を設計する建築家がどうしてテントを設計することに至ったのか、そのストーリーを探ることにした。


Photography: @momentphotogram

建築とテントについて考えると、僕は日本で一番お気に入りの一つの家屋を思い浮かべる。それは、長野県川上村にあるMountain Research だ。ここは、雄大な自然の中に建つ、テントがフィーチャーされた美しい建物だが、僕にはこの建物の設計アプローチと、mikikurota architectureのそれとは異なったものに思える。mikikurota architectureの作品は、新鮮で、何か得体の知れない違うワクワク感があるのだ。

年に2回開催されるハイキングとキャンプのイベント、「比良de宴会!」に参加したとき、僕はそこで見たテントに衝撃を受けた。自作のものから、ブランドものまで、ハイカーがいろいろな体勢で寝られるように作られたもの、木々の間に吊るせるもの、あらゆる高さであらゆる角度で設置できるもの、現地で見つけた木の枝や自転車の車輪に引っ掛けてピンと引っ張って設置できるもの、テントポールを使って、いろいろな幾何学的シェイプで設置できる数学的な構造の堅牢なテント、一見、ただの大きいバッグのようにしか見えないのに、寝心地のいいテントなどなど、そのバリエーションに目を見張った。

個人的には、プライバシーが守れる密封型のテントで、通気性がよくて、虫除け効果もあるメッシュ素材が好みだ。これまで、学生時代は友達と分厚いキャンバス製のテントで過ごしたこともあるし、10代の頃は森の中で植物をかき集めて寝床を作り、その場しのぎの野営をしたこともある。

以前の僕は街の暮らしに染まりつつあり、仕事が生活の大半を占めるようになっていた。キャンプをすることなどほぼ頭に浮かばない状態だった。でも幸運なことに、僕のキャンプ熱は日本に引っ越してきたことで再熱した。僕は、いかに自分がかつて夢中になっていたアウトドアライフから遠ざかっていたかを痛感した。 

僕は、取り憑かれたように2つのテントを購入した。

日本での最初のキャンプは、地図の誤読と台風を見くびった事が災いした。偶然だが、気づけば、僕はこれまでまったく知ることのなかった超軽量バックパッキングの愛好家たちと付き合うことが多くなっていた。ミニマリズムを貫いているハイカーの美学には、いつも魅了されていたので、僕は自然にこの軽量で行動を迅速にしてくれる素材にはまった。特にシンプルで多機能なマウンテンギアは最高で、その多くが日本のアウトドア愛好家のデザイナーが営むガレージブランドのものだ。80年代から僕が追いかけていたメインストリームのブランドは、日本で見つけたこのようなブランドのおかげで眼中に入らなくなってしまった。このようなブランドが地に足をつけたスタンスで、自らの経験に基づいて素晴らしいプロダクトを作っていることにとてもインスパイアされた。

そしてあの夏の夜、mikikurota architect のElemental 1を見たときは、ぶっ飛んだ。

Elemental 1

通常、ハイカーたちは、夜遅くからキャンプファイアを始めて、ひと騒ぎした後、徐々にそれぞれのテントに戻る。翌朝は荷物をパックして、またそれぞれの目的地を目指して歩き始める。キャンプの後に車に乗り込んだものの、あの小さなグリーンのテントが脳裏によぎり、その後、いつまでたっても忘れることができなかった。

上から順に、ボンディング技術を使用したる設計、 調節可能なチタンのバーが付いたジッパーで閉めるベンチレーション、出入り口をオープンに束ねておくためのネオジウムマグネット

ダイニーマ繊維(DCF。かつてはキューベンファイバーと呼ばれていた)という素材には馴染みがあった。ヤン・チャプチェイスがD3 Traveler duffelを開発した際に使用された素材だ。当時、僕はmicro hike/run wallets を作るためにDCFをレーザーマシンでカットしていた。でも、僕が製作したギアはこのDCFを使ったテントとは、デザイン面でも技術でも比べ物にならないほどお粗末なものだった。テントは縫い上げられているわけではなく、ボンディング加工で、調節可能なチタン製のバーがジッパー付きのベンチレーションに取り付けられ、さらに、出入り口をオープンに束ねておくためのネオジウム・マグネットが装着されている。マジで信じられない….。この作りなら多少高いのも理解できる。僕は即購入した。

コンパクトで軽量のElemental 1を畳んで片手で持ったところ。重量は265g

ここで僕のデザイナーとしての血が騒いだ。mikikurotaって誰なんだ?建築家だって?

mikikurota architectsは、三木真平と黒田美知子による夫婦デザイナーユニットだ。

2014年のコンペでのコラボ(優勝!)をきっかけにコンビを組むことになったこのユニットは、2015年にmikikurota一級建築設計事務所を設立し、その数年後には、彼らは設計する建築物と同様にクリエイティブなアウトドアギア、Mountain Gear Project (MGP) を立ち上げた。建築においては通常、他者からの資金と人的サポートがあって建築物が建造されるわけだが、彼らはMGPではその真逆のことをしたいと思っていた。つまり、自らの資金で手作りをすることである。

MGPを立ち上げてから数年、僕と真平は旧知の仲になったこともあり、ハイキングコミュニティのイベントなどでばったり出会うことがあった。でも、これまで彼らのデザインについて、じっくりと話す機会はなかった。今般、嬉しいことにPaperskyがZoomとメールを使って、彼らにインタビューをする機会を与えてくれた。ついにずっと僕が彼らに訊きたかった質問ができる日が来たのだ。

「どうして建築家の二人がテントをデザインすることになったの?」

真平と話を進めるうちの、この質問はニワトリが先か、卵が先かのような質問であることに気づいた。そんなことはあえて話題にすることではなく、ともかく、彼は建築の仕事と同様にクリエイティビティを発揮し、何よりも自然を愛していて、自然の中にいることに心地よさを見出している人なのだ。

真平による初期の試作テント

真平は東京出身。冬休みに両親と行ったスキー旅行や、夏休みに兵庫県に住む祖母の家で過ごした日々をとても鮮明に覚えている。川釣りをしたり、はじめてキャンプファイアーをしたのも祖母の家だった。彼は恐れを知らぬ冒険家や登山家の冒険記を読むのが大好きだったが、自分自身は冒険家になりたいという願望はなかった。でも、このような読書体験と家族旅行を通じて、もっと自然の素晴らしさを堪能できる方法が他にあるはずだと本能的に感じていた。その後、彼の「フィッシング熱」は、大学時代、そして社会人になっても続き、ついには、より多くの魚を惹きつけようと自分でルアーのデザインを始めた。釣りの腕前はそこそこだが、彼は釣りのすべての工程を楽しんでおり、自然にアプローチする新しい手段の一つとして捉えていた。

2021年、北海道で渓流釣りを楽しんだ際のショット。真平自作のルアー(写真上)とこの日の夕食になったイワナ(写真下の左)とヤマメ(写真下の右)

彼はちょうどこの時期に軽量素材のタイベックを使ってテント作りを始めた。そして、出来上がったテントを持って、多摩川、黒部川源流でのヤマメ、イワナ、ニジマス釣りに出掛けるようになった。普段はキャッチ&リリースのスタンスで釣りをしている真平だが、時には1-2尾くらいを持ち帰り、山中で採った植物と一緒に手作りのテントで夕食として食べることもある。彼にとって、自分のクリエイティブティーを発揮して作った道具を使うことは、「より生活に潤いを与えてくれるもの」なのだ。これこそ彼が自然を堪能するスタイルだ。

Elemental 1 を実際に使用 – Photography: @yosshy_102



「僕はいつも自分と、建築、そして自然との関係性について考えています。僕たちの自然の捉え方が、僕たちが物を作る手法そのものだと思う」



ほとんどの人は、家が自然の一部だとは見なしておらず、まったく別のものと考えているのではないか。でも、デザイナーの視点から言わせてもらうと、 建物を設計するという行為は、いやがおうにも自然環境とリンクしている。問題は、多くの人たちがこれに気づいていないことだ。真平は、生命の豊かさを認識してない人が多すぎると言う。

宇宙レベルでは、人間が作ったものと、自然が作ったものとの境界はないが、各々については解釈がある。彼らの仕事は建築が中心で、手がけた建築が話題になることも多いが、建築の才能があるだけで彼らが評価されているわけではない。僕は建築から、商品開発までこなす彼らが自分たちのことをアーティストと捉えているに驚いたし、彼らへの見方が変わった。でも、彼らのプロダクトについていろいろ調べていくうちに、規模感や素材とは関係なく、一つの共通項を見出したのだ。それは、「クオリティの高さ」だ。

彼らはクオリティについてどのように考えているのだろうか?

単なる素材の価値などよりも、もっと何かクオリティについてのものがある。真平はクオリティとは、バランスから生み出される何かだと考えており、これこそが彼らが懸命に取り組んでいる問題なのだと語る。

僕たちは、考え方のクオリティ(アイディア、倫理、センシビリティー)、構造のクオリティ(設計、技術と重力や幾何学といった自然性)、そして、素材のクオリティ(人間の手によるものか、自然発生のものか)などについて話し合った。そして、クオリティー・オブ・ライフとその関係性についても話しながら、彼らのデザインは、このような要素を微妙に相互作用させて、素材の利点を最大限に活かしたクオリティーを実現できているのだと思った。

僕はMountain Gear Projectに話題を変えた。と言うのは、これこそが僕たちが今まで話してきたことを包括するものではないかと思ったからだ。家屋は、単一の視点から理解するには、大きすぎるし、複雑すぎることが多い。Elemental 1の中で腰掛けていると、これはフレキシブルでパーソナルな建築物だと僕には思えるし、 ともかくクオリティーの素晴らしさは細部まではっきりとわかる。機能性、使いやすさ、素材のセレクトと構築法、重力、幾何学的にも、ともかくすべてに細かい配慮が行き届いている。これまで自然環境で過ごした経験を最大限に活かすためのもの作りが行われているのだ。

Elemental 1 を組み立ててみた

このテントなら、真平が1人で釣り旅行に出かけるときはもちろん、夫婦での温泉巡りハイキングを楽しむ際にも、2人でゆったりと眠ることができるスペースを確保できる。彼らがデザインしたより大型サイズの超軽量テント、Banquet shelter は、8人まで収容可能で、冬場にはテント内で鍋を囲めるスペースだ。

Banquet Shelter – Photography: @sleep_hiker

また、彼らは、Fruits Sack という名のシンプルで、興味深いプロダクトも製作している。これもDCFを使用して、テントと同じ製法で作ったものだ。この製品を見て、僕はデザイナーの観点から見て、ほぼ完璧だと伝えた。ほぼと言う表現を付け加えたのは、正直言えばこの製品があまりに凄すぎて思わず嫉妬を覚えるほどだったからだ。ここ最近のスタッフサックはブランドを問わず、どれもこれも似たようなものが多い。だが、Fruits Sackは、サイズや色使いも多様で、ワクワクさせてくれる。

Fruit Sack – Suika_Rolltop (8.5L)

僕はこの驚くべき製品のコンセプトと構造についてもっと知りたかった。Zoomのインタビューで、真平はどうやってこの製品を思いついたのかを語ってくれた。



「山での宴会でたくさんお酒を飲んだ後に友人が持ってきていた生のリンゴ。そのリンゴの美味しさたるや、お酒とお酒の間にフルーツを入れることは最高のクールダウンでした。あの美味しさと贅沢感は、下界では考えられない。そこで実用2、ユーモア8の割合でハイキングに持っていきたくなるような、フルーツサックをプレゼント用に作ってみようと思ったのが製作の始まりでした」



リンゴを持ってきてくれた友達のために、プレゼントとして製作したApple Sackは、他の製品と同様にmikikurota architectsのデザイン美学を踏襲したなかなかの出来栄えになった。オリジナルの立体構造を実現するために、新たなボンディング・テクニックも開発した。夫妻は、リンゴに加えて、みかん、メロン、スイカ型のデザインも追加した。今後は、ブドウ型もデザインしたい(笑)と話してくれた。今のところ、もっとも小ぶりのMikan (0.2L) からSuika_Rolltop (8.5L) まで、5タイプの容量のフルーツ・サックが入手可能で、それぞれ、0.8oz (green) 、1.0oz (black)、1.4oz (white)の3種類の重量のものがある。



「新鮮なフルーツは重いけど、Fruits Sackに入れると、どうですか?」



もちろん、このサックは、果物を持ち歩くだけの目的で開発されたものではないし、大型のSuika Sack は多機能で街での利用にも対応できる。気配り、目配りがされた質の高いこのバッグを持っていると、ありふれている、ささやかな希望や喜びが、思いもよらなかった機能性、美しさを生活にもたらしてくれるのだと気づかせてくれる。

このバッグを見ると、紙ふうせんを思い出す。クオリティーやディテールの素晴らしさが際立つ商品だが、彼らのすべての作品に日本人特有の繊細な美が感じられるのだ。

僕のこの考察について、彼らの意見を聞いてみた。彼らは自分たちの仕事に日本人らしさがあると感じているのだろうか?

多分あるだろうと彼らは答えた。でも、それは製作中に意識していることではなく、おそらく出来上がったものについて気づくものであるとのことだ。新しいプロジェクトごとに、自分たちの個性や日本人ならではのセンシビリティーを発揮したいと彼らは付け加えた。

真平は、日々の生活で日本人であることや、日本人ならではのデザインというものを意識したことはないと言う。だが、彼らの仕事そのもの、そして仕事に向かう姿勢には日本人ならではの美意識があるかもしれないとほのめかした。僕の解釈では、それは新しいアイディアにトライすることを恐れず、冷静に取り組み、建築の概念に囚われず、あくまでも人が求めていることに根ざしたものづくりということだ。

真平は、デザインとは、何かの決まりごとを作ることではなくて、感性、倫理、リスペクトを交えた会話をするためのスペースを構築することだと常々語っている。彼のメッセージは、単にデザインや日本という枠にはめた話ではなく、デザインを通じて、他の世界の人にも伝えたいことなのだと思った。僕たちは、日本のデザイナーは、日本のお客様のみのことを考えてものづくりをするべきではないという彼の考えに共感した。

そろそろZoomのミーテイングも終わりに近くなってきた。僕は尋ねてみたいと考えていた質問を投げ掛けてみた。

「あなたにとって成功とは何を意味しますか?」

彼らは、自分たちが思慮深いスタンスで活動していることを人々が認識してくれて、魅力的で、意味のあることをしていると思ってくれること、そしてもし彼らが懸命に作り上げたものに対して、評価をしてくれるのならば、それこそが成功だと思うと語ってくれた。

真平、美知子夫妻との会話は予想を超えた面白さだった。最後には、お互いの家を訪ねる約束もした。彼らと話したことで、僕は自分の仕事や自然からのインスピレーションについて考えさせられた。僕は冒険心とクリエイティビティーをどのようにミックスして、世界をより深く体験できるだろうか…….などなど。さまざまな想いがふつふつと頭に浮かんできた。

 



ジェイムズ・ギブソン James Gibson
人間の行動がこれまで以上に相互に関連している現代において、ジェームズは旅、写真、映像、クリエイティブ・ライティングを通して、自然再生デザインの観点から、「’design your life’ (人生をデザインする)」「’do-nothing design’ (何もしないデザイン)」「’well-being’ (幸福)」というテーマを探求している。その際、常に問いかけているのだ。ミクロからマクロに至るまで、健康とはどのようなものか知っているか?と。


Photographs courtesy of mikikurota architects – Copyright mikikurota architects 2021 or as stated.

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