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Jomon Fieldwork
万年の記憶

津田直
vol.33

いまから遡ること2,500年から13,000年、日本の歴史がはじまるずっと前に、日本各地で繁栄した縄文文化。このシリーズでは、フォトグラファー津田直が独自のフィールドワークを通して、縄文の歴史を紐解く新しいピースを拾い集めます。

07/03/2026

漆器と水の旅


飯豊連峰の豊かな雪解け水は山を潤し、胎内高原に広がるブナ林に染み込み、不純物を濾過しながら、長い年月をかけて地下に浸透していくー。胎内川流域の熱田坂分谷地の河岸段丘上の水田の合間にある崖斜面には「胎内縄文の清水」の名で地元に知られている湧水があり、近くに暮らす人々の喉を潤し続けている。

全国各地で縄文歩きをしていると、驚くべき自然の恩恵と出会うことが時々あるけれど、ここでは縄文時代から続いていると伝わる湧水とともに、赤い漆塗りと黒い漆塗りの水差し形容器が見つかっている。通常であれば、木製品が日本の土壌で原形をとどめることは難しい。だが、この水差しは土の中を清水がゆっくりと流れ続けていたことで、平成12年に発掘調査が行われた際に土から拾い上げられた時、4000年の時を経ながらも、大きく割れることもなく、わずかに色彩を失った程度で見つかったというのだから、奇跡を生んだと言ってもいいだろう。

胎内市教育委員会生涯学習課の伊東さんに案内してもらい、現地を訪ねた。まずは湧水を一杯。水中の砂を吹き上げながら、水はこんこんと湧いていて、ひんやりを通り越して想像以上に冷たかった。水温は年間を通じて11℃前後だと教えてもらい、柔らかな湧水を手に掬い飲むと、染み込むように身体が清らかになった。伊東さん曰く、発掘調査の時には真夏であっても水筒要らずだったらしい。汗を流したあとの湧水は格別だったに違いない。

また冬季になると、この辺りは豪雪地帯のため雪は2メートル程度積もるそうだが、真冬でも清水は凍ることはないのだという。だから雪深い日でも水が湧くところは、ぽっかりと穴が空き、かんじきを履き歩いていても見つけることができるのだ。

分谷地A遺跡出土(胎内市教育委員会所蔵)

さらにこの地域では、今でも「寒九の水汲み」といって、一年でもっとも水が澄んだ日に水を汲むと、腐らないという言い伝えがあり、寒の入りから九日目に水汲みをし、汲まれた清水はお酒の寒仕込みの仕込水として使用されてきた歴史があるそうだ。

「赤と黒の漆器には、果実酒が入っていたかもしれないという研究結果もあり…」というので詳しく尋ねてみると、漆器の内からニワトコ、サルナシ、ヤマグワ、タラノキなど十六種の種実が見つかり、果実酒をベースにした飲料を入れていた可能性があるということだった。

分谷地A遺跡出土(胎内市教育委員会所蔵)

遺跡をあとに黒川郷土文化伝習館へ向かった。数年越しの思いを胸に、館では許可を得て漆器を手に取らせてもらった。とても軽く、薄い器はヤマザクラの木を刳りぬき作られていた。遺跡からは他にも鉢や皿などの漆器や漆塗り土器、糸状製品、装身具なども見つかっていて、優れた工芸技術に加え、高い文化の営みがすでに在ったことは明らかだった。そして極めつけは把手に施されていた彫刻にあった。赤と黒の漆器を並べて後ろからじっくり眺めてみると、見事な8の字状の細工が見て取れる。

これはもはやデザインの領域が確立していたということなのではないか、と言いたくなってしまう。デザインという言葉の語源は古く、デッサンと同じく、計画を記号に表すという意味のラテン語デジナーレ(designare)だとされている。縄文の人々はどのようにして、黒い漆器の美しい曲線を見出し形作っていったのだろう。午後の光のもと、両の手で器を抱えながら話に聞き入っていると、少しずつその重さが増していくようだった。

胎内市では高原でワイン作りをしている農家までは訪ねることができなかったが、清水から果実酒までどっぷりと浸かりながら巡る縄文歩きは、いつかまた。

<PAPERSKY no.69(2023)より>




津田直 × ルーカス B.B. 対談動画
2019年9月21日〜11月24日に長野県八ヶ岳美術館にて開催された津田直展覧会「湖の目と山の皿」会場で上映された、津田直とルーカス B.B.による縄文フィールドワークについての対談動画です。


津田直 Nao Tsuda
1976年、神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より多数の展覧会を中心に活動。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。主な作品集に『漕』(主水書房)、『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『SAMELAND』(limArt)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。2019年秋、9年間の縄文歩きを元に、八ヶ岳美術館にて個展「湖の目と山の皿」を開催した。
tsudanao.com

text & photography | Nao Tsuda