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「音楽のある風景」は、森の奥に潜んでいた

音楽家 haruka nakamura

  

03/13/2025

祈り、懐かしさ。ふたつの要素を音に代えて、haruka nakamuraさんは旅を続けてきた。旅の道標は、「うた」が聞こえてくる場所。

「僕が言っている『うた』とは、歌唱ではありません。音楽と物語が合わさったものなんです」

photography : haruki anami

「うた」の予感がするところに暮らす人々がいる。土地がある。「うた」が生まれる兆しに胸を弾ませながら、地元の人と湯に浸かり、飲み交わし、昼夜を問わず語り明かして、体を土地に馴染ませる時間を十分にとった。

photography : koki manju
photography : koki manju
photography : futoshi osako

ともに過ごした時間が積み重なると、奏者がいなくなったピアノを見つけ出して瀬戸内海を一望できる丘に運び上げて演奏をすることになったり、あちこちの海辺で即興的に奏でる音に合わせて絵が描き上げられたりすることへと、自然と繋がっていった。「うた」が、次々に生まれていった。

旅をする音楽 | 星野道夫 × haruka nakamura / 朗読 本田慶一郎

日常にこそ「うた」があり、言い換えれば「音楽のある風景」がある。それは未知の病原菌によって阻まれた数年間の空白、再開された旅の日々によって、あらためて気付かされたことだった。

「演奏会やライブは僕にとって神聖なもの。僕自身がまるで音楽そのものになってしまうかのように、一心で祈るような感覚でピアノに向かうのです」

旅をし、演奏を行う日々では、反面的にそれ以外のことを疎かにしてしまう。旅する日常を続けるうちに、なにかが切り替わる音が聞こえた。

photography : TKC

「外からの力ではなく、今度は、自分の意思で旅に句読点を打とう。そう思いました」

旅から北国の住まいに戻ると、今まで取りこぼしてきたものへと意識が強く向いた。音楽を「形に残し、届ける」こと。そして、流れるような旅の中では遠い日の夢だった「森」に深く潜ること。

「森という言葉は、メタファーとしても、精神的な意味合いでの帰るところとしても、これまでの自分の頭や心の中で幾度も去来していました。けれども、森に分け入っていくことは出来ないまま随分と時間が経っていました。旅を終えた頃合いに、いよいよその時がきたのでしょう。外からは『緑』に見える森が、『青』く見えるほど深く潜らなければならない、内省の時が」

photography : haruka nakamura
photography : haruka nakamura

自分の過去を掘り下げてゆくほどに、『こんなことを自分は言って/思っていたのか』という新たな発見や、未だ昇華しきれないものに出会った。それは、これからすべきことのヒントの啓示でもあった。

「森の深奥に至らなければ、きっと見えてこなかったでしょう」

そう話すharukaさんは、敬愛する写真家、森山大道さんの言葉「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」を引いて、森の奥にあったものについて言葉を重ねる。

「これまでにも懐かしさはどこから来るのかとよく考えてきました。『この感覚をなぜか覚えている』と。その根源を探るためにも、僕にとっては森に潜ることが必要だったのだと切に思います」

photography : haruka nakamura
photography : haruka nakamura

一呼吸おいて、そっと音を鳴らすように締めくくる。

「森に深く潜る時間。それは深く自分の内側に潜る時間でした。旅から戻った僕にとっての『日常の風景』、『うた』はここにあったのです」

青い森にまつわる曲を制作する時間は、当時の車庫の匂いや、舞う埃が太陽の光でキラキラと光る様子までもありありと思い出させた。懐かしさのなかに新しい音楽のヒントがあった。かつての日々と今が結ばれ、まるで全てがひとつなぎの歌であるかのように。

haruka nakamura(ハルカ・ナカムラ)
青森出身。音楽家。15歳で音楽をするため上京。2008年1stアルバム「grace」を発表。2024年劇場アニメ「ルックバック」劇伴音楽と主題歌を担当。蔦屋書店の音楽「青い森」シリーズ4作品を発表。ジャケット写真は全て写真家・川内倫子が担当した。アパレルブランドTHE NORTH FACEと四季に渡るコラボレーションアルバム4作品を発表。写真家・星野道夫の写真展にて演奏会「旅をする音楽」を東京都写真美術館、帯広などで開催。代官山 蔦屋書店にて展覧会を開催。映画、ドラマ、CMなど多くの劇伴を手掛ける。長い間、旅をしながら音楽を続けていたが、2021年より故郷・北国に暮らし音楽をしている。
https://www.harukanakamura.com

text | Yuria Koizumi top page photography | koki manju