自然と共生するライフスタイルの魅力を多くの人に届けている発信拠点施設「GREENable HIRUZEN」があるのは、岡山県北中部に位置する真庭市。2005年に9つの町村が合併してできた市で、古くから林業が盛んで、広大な奥深い森林が広がっている。
その真庭市の中でも北部には大山隠岐国立公園の一部にもなっている蒜山高原があり、この土地でGREENable HIRUZENは自然と共生する楽しさを多くの人に届けている。
ここではどのような気づきを得られるのだろうか。GREENable HIRUZENを起点に、ショートトリップに出かけてみた。
自然と共生する暮らしを
体験できる場所

2021年7月15日、GREENable HIRUZENは、観光情報を届けながら自然と共生するライフスタイルを提案する「ビジターセンター・ショップ」、人と自然の共存を体験できるアートをキュレーションした「蒜山ミュージアム」、気軽に自然を楽しんでもらうための「サイクリングセンター」が併設された施設としてオープンした。
施設の中心には、真庭市が誇る技術によって製造されている建材「CLT」を使用したパビリオン「風の葉」が設置されている。これは東京オリンピックに合わせて東京の晴海で期間限定で建設されたもので、隈研吾氏が「CLTの可能性を広げる」という想いのもとデザインを手がけた。
実際に足を運んでみると、この施設はしっかりと存在感を放ちながらも、周囲の景色に溶け込んでいることが分かる。周りに高い建物は一切なく、高原ならではの開放感と心地良さを楽しめる。
岡山駅からは約1時間30分、岡山空港からは約1時間15分という、決して行きやすい場所ではないにもかかわらず、オープン当時からたくさんの人が来続けている理由は、実際に行ってみれば納得できるだろう。





人の暮らしと調和している自然
サイクリングセンターで電動アシスト自転車を借りてから向かったのは、鳩ヶ原。ここは蒜山を象徴するひとつである山焼きの文化が残っている場所だ。
かつて、このあたりでは「茅(カヤ)」が家の屋根や、田畑の土壌改良、牛馬の餌に使われ、人々の生活を支えてきた。それと同時に、豊かな生態系を保ちながら茅を収穫し続けるために、山焼きの文化も発展してきた。
山焼きを行うと、茅の成長を妨げる植物や昆虫などを抑制することができる。山焼きによって出た灰は、土壌にとって豊かな栄養源のひとつになる。だから、自然資源を搾取することなく、茅を収穫し続けられる。

先人たちの知恵が詰まった文化は、高度経済成長期を経て人々のライフスタイルが変わったため、今では消えかかってしまっている。しかし、一部の人たちによって文化は継承されていて、今でも毎年4月に限られた地域で山焼きが行われている。
山焼きが行われた土地は、原生林が放つような生き物が蠢いている雰囲気と、人の手によって綺麗に整えられた雰囲気のちょうど中間、とても気の流れが良い神社のような神聖な雰囲気を感じさせる。



鳩ヶ原の後には、全長30kmのサイクリングロードを走りながら、塩釜の冷泉を目指す。ここは、瀬戸内海へと繋がる岡山県の一級河川である旭川の源流のひとつだ。
毎秒300Lもの水が湧いていて、環境省が選ぶ「名水百選」のひとつになったこともある。夏でも水温は11度前後なので、その周りは少しひんやりとしている。近くに水汲み場があり、そこからは直接水を飲むこともできる。
体を落ち着かせるためには最適な場所だし、水が流れる音に耳をすませば、きっと疲れも忘れてしまうに違いない。




暖簾で生まれ変わった街

蒜山高原でサイクリングを楽しんだ後には、車で45分ほど南に行った場所にある勝山町並み保存地区へ。ここではまず、染織家の加納容子さんを訪ねた。
勝山エリアは、蒜山高原から流れる旭川を利用した、岡山県の山間部と沿岸部を繋ぐ高瀬舟水運の最上流の船着場として知られている。美作勝山藩の城下町、兵庫県姫路市と島根県松江市を繋ぐ出雲街道沿いの宿場町としても栄えた過去があるが、近年はその活気が弱まってきていた。
そこで、加納さんは1996年から「かつやま町並み保存事業を応援する会」を発足し、以来、商店街の希望があった店舗に対してオリジナルデザインの暖簾(のれん)を製作している。
「暖簾をつくるようになったのは、地元の水道屋さんから依頼があったからです。その時はそれだけで終わりだと思ったけど、水道屋さんに『他の店舗の暖簾もやれば?』と言われてから、周りの人と一緒にやってみることにしました。商店街の人たちはとても協力的で、私も私もと手を挙げてくれたこともあり、コミュニケーションが増えていきました。そのおかげで、今では真庭市公認の取り組みになっています。
ここの人は自分の話をすることは億劫だと考えているはずなのに、暖簾についてだけは全員が自慢話をするようになったんです。しかも、お互いの暖簾を褒め合うので、観光客の人には『なんでここの商店街の人はものも売らずに、暖簾のことばっかりを話すんだ?』と言われたこともありますよ(笑)」



加納さんの染織工房から歩いて5分ほどには、「御前酒」という日本酒を醸造する酒蔵「辻本店」がある。ここの跡取りとなる辻麻衣子さん、総一郎さん姉弟は、一度は勝山を離れたものの、暖簾によって街がもう一度盛り上がっていく様子を目の当たりにし、御前酒も同じように多くの人を魅了するものになってほしいと考え、日本酒づくりに力を入れている。
麻衣子さんは杜氏として、誰もが楽しめてどんな食事にも合う、すっきりと飲みやすい日本酒をつくるために、日々、試行錯誤を重ねている。真庭市内にある酒蔵と一緒に、お互いが仕込みに使う水を入れ替えて日本酒をつくるという取り組みも、前向きに行っている。
総一郎さんは、ヨーロッパをはじめとする伝統的なお酒のブランディングを参考に、酒蔵として進むべき方向を常に考えている。今は、酒米は岡山県の在来種である「雄町」に全て切り替え、日本酒の仕込みに使う醪(もろみ)は蔵付きの乳酸菌を利用する独自の「菩提もと」製法に統一するという目標を掲げ、多くの人に御前酒の魅力を広めている。
加納さんの熱意をきっかけに商店街が盛り上がり、辻さん姉弟のような次の世代が勝山の魅力を発信する。ここではきっと、蒜山とは異なるかたちで、しっかりと文化が継承されていくのだろう。



GREENable HIRUZENを起点に
ショートトリップを楽しむ
GREENable HIRUZENを起点に、蒜山高原と勝山に足を運べば、異なる雰囲気や文化を味わえる。少し移動しただけにもかかわらず、ここまで違うのは、おそらく地理的条件が影響したのだろう。アクセスが決して良くなかったからこそ、独自の文化が形成されていくことになった。
そのおかげで短い移動でも、蒜山高原では自然と人が調和する暮らしを体感でき、勝山ではアイデアによって暮らしが変わることが分かった。もしかしたらGREENable HIRUZENが社会に伝えている「一人ひとりが行動を起こせば、豊かな自然を取り戻すことができる」というメッセージは、こういう暮らしを知っているから出てきたものなのかもしれない。
他ではなかなかできない楽しい体験だからこそ、ぜひ時間をつくって、GREENable HIRUZENに足を運び、ここを起点に色々な場所に行ってみてほしい。
Travel Guide

GREENable HIRUZEN
岡山県真庭市蒜山上福田1205-220
0867-45-0750

ひのき草木染織工房
岡山県真庭市勝山193
0867-44-2013

休暇村蒜山高原
岡山県真庭市蒜山上福田1205-281
0867-66-2501
【ポップアップイベント開催】

2024年10月10日(木)〜16日(水)の期間、東京・渋谷スクランブルスクエア 9階 SCRAMBLE books&にて、ポップアップイベント「GREENable HIRUZEN -自然とつながる、出発点‐」が開催。地域資源を活かした伝統的な発酵食品や染織家が作る個性豊かなのれんの販売をはじめ、わら細工作家によるワークショップの開催など、ヒトとモノがサステナブルに循環するライフスタイルを、岡山・真庭よりご紹介します。
タイトル:GREENable HIRUZEN -自然とつながる、出発点‐
日時:10月10日(木)~16日(水) 10:00~21:00
場所:渋谷スクランブルスクエア 9階 SCRAMBLE books&
URL:https://greenable-hiruzen.co.jp/data/202/news_detail/

