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「問いかけ」から生まれる
新しい書道スタイル

書道アーティスト、新城大地郎さんに、21世紀に書道家として活動する楽しさ、むずかしさを地元の宮古島のスタジオから語ってもらった。

03/10/2021

門外漢から見ると、書道は日本の伝統的な造形芸術で、やや古くさいイメージに映り、アートとして捉えられない印象も受ける。しかし、イサム・ノグチや井上有一のように、書道を現代アートとして昇華させた例もある。書道は、ぱっと見はシンプルだが、極めて瞑想的。キネティックアート的な側面や、見る者の気持ちをざわつかせる要素もある。

書道の人気に波はあるものの、伝統的な手法に固執せず、ストーリーテリング、パフォーマンス的な要素を取り入れながら、新しい書道スタイルを着実に確立しつつある新城大地郎さんのような若いアーティストの活動も目立ってきている。

Photo by Masato Kawamura, 2020 Tokyo
DARUMA, 2020, Sumi on canvas, 1950mm*1950mm

新城さんのおじいさま(禅僧・民俗学者)の存在は、新城さんが書道を始める大きなきっかけだったと思いますが、おじいさまはどのようにあなたを書道に導いたのでしょうか?

新城大地郎(以下、新城)祖父は戒律を書いていました。でも、技術的なことに基づいて僕に指導をしたことはなかったです。祖父からは、自分自身への問いかけを続けることを教え込まれました。円相を描くときに、「これは本当に円なのか?」などと聞かれることもありました。

Fury-umonji , 2020, Sumi on canvas, 1950mm*1950mm 

書道について書かれたものを読むと、漢字の意味や伝統の継承に重点を置いたものが多いですよね。これはちょっと偏った傾向だと思うのですが。

新城文字や文の存在そのものを受け入れることから始めて、その本質的なものに「問いかけ」をすることが僕の表現方法です。文字と文は、私たちがその意味を共通の認識で理解するものですが、それらの「存在」が言語化される前に、秘めているエモーショナルなものを感じる感性は人それぞれだと思います。

僕は、伝統や慣習にとらわれずに自分の内面を表現したいと思っています。

Photo by Naoki Ishikawa, 2019 Japan

あなたの作品を鑑賞する人に求めていることはありますか?

新城: 自由に見てもらいたいですね。

イギリス人の友だちが、僕が書いた縦書きの作品を、横向きにして、こっちの方が好きだと褒めてくれたことがありました。こういうリアクションはおもしろいです。彼はその書が一文字であることも、意味も理解していなかった。形としての美しさを感じたわけです。

PAPERSKYに向けて制作したアートワークを用いたポスター
SORA(KU-), 2020, 420mm*594mm

作品をつくる際に、あなたを取り巻く環境がとても大切な役割を果たしているように思えます。

新城 : 僕は印象的な風景や、出会った人たちから受けた愛情は決して忘れたくないと思っていますが、時が経つにつれて、忘れてしまうんです。すっかり記憶から消えてしまうわけではないのですが、その瞬間に感じたことを忘れてしまうんです。

知らない土地を訪れる時は、必ず筆を持っていきます。写真家がカメラを持って旅に出るような感覚ですね。書道は僕にとって写真を撮ることと似ています。現地の文字が読めなくても新聞を買って、墨を現地の水で擦って、ホテルのバルコニーでそこで感じたことを書であらわします。

Playmountain, 2017, Sumi on old news paper, 579mm*363mm

作品は沖縄のアトリエで製作されているのですよね?

新城 : 僕のアトリエは宮古島にあります。

これまで、沖縄は、度重なる劇的な変化に耐えてきました。それは、経済的合理主義による影響や景観の変化、絶え間のない政治的なプレッシャーによるものでした。一方で、ここで暮らしている人たちは自身のルーツを大切にしていて、村で行われているさまざまな儀式にも変わらぬ島民のスピリットを感じます。僕はここで育ったので、この島のアイデンティティは何かと問われれば、戸惑ってしまいます。ただ、このような環境で生活していることは、現実や社会、そして、自分自身に耐えず問い掛けをする表現方法につながっていると思います。

Photo by Naoki Ishikawa, 2019 Japan

それは、日本の社会状況を鑑みると、チャレンジングなことですよね?

新城 : 謳われているような”安心な国”であるという裏腹には、個々の閉鎖的な思考が根底にある気がします。生きるバランスを考えることは重要ですが、組織思考に依存してばかりだとあまりにも失ってしまう感覚が多い。

日本人が秩序正しく、きちんと協働していることは誇るべき文化ですが、それに染まりすぎると、いとも簡単に自分自身を見失う危険性もあるのです。自分はコントロールされているという常に意識を持つ必要があると思うのです。権力や置かれた環境に流されずに、先ずは自分自身を信じることを優先するべきだとは思いませんか?

おっしゃる通りです。新城さんはロンドンで暮らしていた経験もありますよね。この経験は作品づくりにどのような影響を与えましたか?

新城 : 当時生活していたエリアは、ユニークなお店やギャラリーが多く、すごく刺激的でした。アーティストの友だちもたくさんできました。

ロンドンは移民の街ですから、人それぞれの価値がリスペクトされる、いい環境でした。一方で、このエリアには高層マンションと、グラフィティだらけのボロボロの壁が共存しているアンバランスな面もありました。

この街のアートシーンが活発なのは、政治的な抑圧があることも要因かと思います。ロンドンでは、自分は外国人だったので、滞在中は自分のルーツについて見つめ直すいい機会にもなりました。

Untitled, 2019, Sumi on Photo (Photo was printed on Washi-paper) 500mm*650mm

書道やアート以外で興味があることはありますか?

新城 : 料理です!

料理もアートだと思いますよ!それでは、最後の質問ですが、この先一年でやりたいことはどんなことでしょうか? 

新城 : 海外の友だちを宮古島に招いて、一緒に製作をしたいですね。今、その準備を進めているところです。

今日はありがとうございました。これからも頑張ってください。

Nothingness collaborated with Markn, 2019 London