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Addition through Subtraction

関祐介

引き算による足し算の美学

東京を拠点に活躍するインテリアデザイナー、関祐介は、伝統美とモダンなセンスを融合し、装飾を極力そぎ落としながら、機能性に富んだ空間作りを行なっている。

11/02/2021

ある晴天の日、世田谷区下馬にあるカフェ Sniite を訪れると、美しい朝の光がきらめいていた。店内にはテーブルがなく、自転車が自由に持ち込めて、コンクリートのベンチが数脚と、木材の切れ端をリサイクルして製作した大きな円形のソファが配されている。スペシャリティコーヒーのカフェというよりは、むしろギャラリーや美しいガレージのような内装デザインだ。店内は、常時さまざまな客層で賑わっており、カフェを超えた新しいタイプのコミュニティースペースとしても機能しているようだ。

トラフ建築設計事務所による発泡スチロールの“ソファ”(手前)が、剥き出しとなったインテリアの唯一の家具

Yusuke Seki Studio の関祐介は、数少ない要素から、幅広い表現を創出している稀有なインテリアデザイナーだ。最初に彼のインテリアデザインを目にすると、内装業者の作業時間が不足していたため、このような内装になってしまったと勘違いする人も多いのではないだろうか。打ちっ放しのコンクリートの壁面、使い古した材木、剥き出しのパイプと配線を彼は好んで使用し、あたかも工事が続行しているようなムードを醸し出している。しかし、この引き算的な手法は建物に潜んでいるストーリーを浮かび上がらせ、配された機能的な家具、什器などは人間らしさを引き出すように細部まで正確に計算されている。

ミニマルなディテールと意外性のある素材が、既存のコンクリートシェル構造を引き立てる(Mikkeler Shibuya)
1Fには特注の家具や屋内・屋外兼用のベンチシートが設置されている(Mikkeller Shibuya)
新たに設けられた大理石と従来の素材の違いが面白い

空間に残されている人の気配、そして、建設のプロセスが、若い頃から建設業者に憧れていた関にインスピレーションを与える。1995年に阪神大震災が発生した際、当時高校生だった彼は震災の被害とその後の再建をずっと見届けてきた。「街の再建に関わっていた人たちの熱量に圧倒されました」と当時を思い返しながら語る。街の再建に熱心に取り組んでいたインテリアデザイナー、職人たちの仕事ぶりを目の当たりにできた経験は、その後の彼の人生に多大な影響を与えた。

破壊と再生は、関の重要なテーマの一つだ。彼の初期のプロジェクトの一つである波佐見焼を販売するマルヒロの旗艦店(佐賀県)の店舗デザインは、その既成概念を覆すアプローチが注目を集めた。死に生地(売ることができない不良品の器やマグ)にコンクリートを詰めてフロアが成形されているのは、かつて、このブランドの創業者が捨てられていた焼き物に付加価値を与え、露天商として販売していた精神を引き継ぐものだ。関は、既存のものを再評価し、欠陥があり儚いものを新しい形に昇華し、美しくフィーチャーすることを絶えず考えている。

最近のプロジェクトの一つである、デンマーク発のクラフトビールブランドのショップ、Mikkeller Kanda のインテリアデザインは、内壁を剥がし、炎で炙られた材木が店内でアクセントのようにフィーチャーされているのが印象的だ。黒焦げになった材木は、かつてこの地にあった建物を解体した際の形跡かもしれない。ここを訪れる客は、この材木に朽ちたものに秘められた美を見出す侘び寂びの心を感じているように見える。

美学や予算的な観点を超えて、「完成していない」という表現こそが、関が手掛ける空間にはしっくりとくる。彼は、工事が終了した物件をクライアントに引き渡す際、インテリアデザインを完成させたというよりも、まだ過度期にある空間を提供するという感覚でいる。種々の材料を集結させて、既存の空間に秘めた魅力を巧みに引き出す関は、空間デザインというものは成長し、変化するものだという前提でデザインに取り組んでいる。「東京のあらゆる場所でいつも何かの工事が行われているように、僕が引き渡したスペースはどんどん変化していくものだと思います」(関)

彼は、空間の歴史と特質を解き明かし、その空間で「代替不可能な」要素を再評価した上で、新たな解釈でデザインをしている。また、実際に店舗を作るプロセスを明らかにしながら、ユーザーと空間に潜むストーリー、マテリアル、プロセス、そして、そのスペースのクリエイションに関わった人々をつないでいる。既存のものから引き算しながら、新しい要素を導入することで過去と現在を繋ぎ、未来へとユニークなビジョンを提供すること、それが関独自のミニマリズムである。

素材の温かさと冷たさが共存する2Fフロア(Mikkller Shibuya)
新設したシートと従来のラフなコンクリートシェル構造のコントラストが美しい(Mikkeller Shibuya)