Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

知られざるソルトフライの楽園、奄美大島

フライフィッシャーマン
安田陽一郎

 

11/24/2022

毛鉤を巻き、狙いを定めて竿を振り、魚を誘う。多様なスタイルで親しまれる釣りのなかでも、とりわけスタイリッシュかつ知的なアウトドアスポーツとして知られるフライフィッシング。渓流のイメージが強いが、近年国内でもじわじわと熱が高まりつつあるのが、「ソルトフライ」と呼ばれる海をフィールドにしたフライフィッシングだ。

「奄美大島はフライフィッシャーマンたちにとって奇跡の島なんです」

そう話すのは、奄美大島在住の安田陽一郎さん。安田さんがソルトフライに出会ったのは、約25年前。学生時代のこと。当時すでにあらゆる釣りを経験していたという安田さんだが、ゲーム性が極めて高いソルトフライに出会うや、心酔。環境コンサルタントやマリンエンジニアとして水産業界で働く傍ら、沖縄をメインフィールドにしながら、熱心に腕を磨き続けた。好きが高じ、2016年には奄美大島に移住。2018年にソルトフライ専門店「Far East Heaven」をオープンし、ガイド業にも勤しむ日々だ。

海までは、徒歩5分。独学で技術を学び、セルフビルドをしたと聞いても、俄に信じがたいほど洗練された空間が整うお店で、安田さんは、奄美大島が奇跡たる理由を次のように語った。

「フライは浅場に向いている釣りなので、干潟の環境が必須。その点、干潟が多く残っている奄美大島は日本屈指のフィールドです。沖縄にも似た環境は多いですが、沖縄より圧倒的に人も少なく、自然がいっぱいある。さらに、島の規模もちょうど良く、太平洋と東シナ海をわずかな時間で行き来できるため、狙える魚種もポイントもバリエーションが極めて豊富なんです。奄美大島の北部だけでもポイントは20以上あるけれど、南部や加計呂麻島まで足を伸ばすこともある。状況を見極めながら移動するので、干潮から満潮まで日がな遊べるという本当に豊かなフィールドなんです」

主なターゲットには、最大約60センチにもなるというミナミクロダイ、20kgを超すロウニンアジ、トリガーフィッシュやベラ類などなど、大型魚が目白押し。「いまだに海に出るたびに新しい発見があり、まったく飽きさせない海」と胸を張る安田さんは、未知なるターゲットフィッシュを増やすべく、心躍らせながら試行錯誤を続けているという。一部のローカルを除き、ほとんど未開拓だった奄美大島の海は、いまだにポテンシャルの塊なのだ。だからこそ、この豊かさを大切にしていきたい、という強い気持ちも安田さんのなかにしっかりと根を張っている。

「干潟には、エビやカニなどあらゆる生物が住んでいて、魚や鳥たちにとっても貴重な餌場になっている。ひとつの生態系が絶妙なバランスで成り立っている、貴重な場所なんです。でも、フラットで潰しやすいので、港や空港がつくられるなど開発の手が及びやすい場所でもある。全国的にも干潟の環境は、もはや希少です。釣った魚はリリースする、産卵時期や場所を踏まえて釣りをするなど、環境負荷に対する意識を釣り人の間でも高めていけたら。フライフィッシングとは、自然を理解してこそ成立する遊び。だからこそ、微妙な環境変化も肌で感じ取ることができますし、伝えられることもあると思うんです」

Far East Heaven
奄美市笠利町宇宿2579-1


PAPERSKY no.66 | AMAMI ISLAND LISTEN
さまざまな音、声に耳を傾け、多様な奄美を感じて巡る旅へ。旅のゲストは、画家で絵本作家のミロコマチコさんと染色家である金井工芸の金井志人さん。