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唐川靖弘インタビュー

働きアリから、うろうろアリへ──。
楽しい生き方へのいざない。

『THE PLAYFUL ANTS』は、社会を小さく変える「うろうろアリ」という働き方、生き方を、著者の唐川靖弘さん自身の経験に照らし合わせながら具体的に提案する本だ。今日から楽しく生きるための小さなヒント、きっかけのつくり方とは。

10/26/2023


うろうろするのは、楽しい



──「うろうろアリ」のコンセプトを教えてください。

自分のまわりにある既存の枠、常識みたいなものにあまりとらわれずに、新しいものを見つけ、自分なりの価値をつくること。一見すると、なんでそんなことしてるの? それって意味あるの? といった無意味や無謀なチャレンジかもしれないけれども、自分ならではの働き方や生き方を楽しく模索している人のことです。


──自分が既存の枠のなかに押し込まれていることにそもそも気がついていないという人も、きっといますよね。

たくさんいますよ。僕自身もかつてそうでした。みんながみんな、自分の現状の枠に対して課題をもっているわけではないと思いますが、新しいことに興味をもったり、やりたいことを見つけたりしたら、リスクを恐れず、躊躇なく飛び出してみてほしい。そのくらい自分にとって楽しいことや夢中になれることを、何か見つけてほしい。そういう人をうろうろアリと呼びたいですね。


──でも、自分が夢中になれることを見つけることこそが難しいのだ、と人は言います。

最初の最初はたしかに難しいかもしれません。でも、だからこそ、人から教わるものでもなくて。うろうろしたくなかったら、べつにしないでいいんだし、みんながみんなイノベーションを起こさなきゃいけないわけではないと思うので。


──ただし、うろうろしたら楽しいよ?ってことですよね。

そうですね。実際は苦しいときもあるんだけど、苦しく感じないというか。僕も、30歳を過ぎて会社を辞めて、妻と娘を巻き込んで海外留学してと、けっこう無謀にうろうろしてきたので、大変は大変だったんですけど。

米国コーネル大学大学院の職員として、ビジネスイノベーションプロジェクトに参加していた頃

──本当にやりたいことのなかに含まれる苦しみだから、受け入れられるし、乗り越えられるんですね。まあでも、本を読むかぎりは断然、うろうろアリのほうが魅力的に感じます(笑)



レンズをかけ直して変化を促す



──ご自身の経験を踏まえて、うろうろアリになろうよと手招きしているのが、この『THE PLAYFUL ANTS』ですね。

自分自身、大きな遠くの目標に向かって一気にジャンプしたわけではなく、日々の小さな一歩一歩を重ねてきたという実感があります。取り組んでみたいものがあったら、先を見据えながらも、小さな積み重ねを日々続けていくのがいいのかなと。

著書『THE PLAYFUL ANTS』には、「うろうろアリの10ヵ条」も紹介されている

──その結果として、見据えた先に到達する。

熊本に住んでいる義理の母が、まわりの人たちに本を配って宣伝してくれていて、町内会仲間の90歳の女性に渡したそうなんです。そうしたら翌日興奮して電話をかけてきて、私も明日から変わろうと思う!って言ってくれたらしくて。それを聞いてすごく嬉しかったんですけど、実際、それがまさに“PLAY”なんじゃないかと思うんですね。いきなりガラッと変えるのは難しい。あくまでもいまの自分をベースにしながら、日々の楽しみ方や生き方をちょっとだけ見直す、レンズをかけ直す。それがうろうろし続けられる、つまり楽しく人生を歩むことができる、ひとつの有効な方法だと思うんですよね。


──自分を変えるとなると、つい大きくて派手な変化をイメージしてしまいがちだけれど、変化すること自体が大事なのであって、度合いは関係ないですね。

そう思います。他人にはわからなくても、自分のなかに振れ幅があれば全然それでいいし。90歳のおばあちゃんが明日からやろうと思ってくれたように、うろうろアリ的な視点をみんなが何かひとつでももったら、それだけで世の中はけっこう楽しくなるんじゃないかなあ。

高校生のとき、「あなたには努力する才能がある」と言ってくれた恩師と。「この言葉が支えになって、小さな積み重ねを続けてこられた気がする」と唐川さん

──楽しい個人が増えると、やがて社会全体も楽しくなる。

それは声を大にして言いたい。環境や戦争、政治など、世の中にはいろいろな問題があるなか、メッセージ性を強く打ち出す人の意見がとかくフィーチャーされがちで、多くがそっちに引っ張られちゃうことって、よくありますけど。そうではなくて、ひとりひとりの意識がちょっとでも変わって、それが連鎖していくほうが大事な気がしています。



勤め人こそ、うろうろを始めやすい?



──他者の存在あっての自分という、他者との関係性も必然的な要素になりませんか?

たしかにアリにたとえたのも、そういう面があるかも。他者がいるからこそ、自分の個性を見ることができるんですもんね。それに、自分の存在の小ささを他者との関係のなかで感じることも大事かと。

もうひとつは、たとえば会社のなかなんかだと、他者はいるものの関係性は固定されてますよね。それを崩したり、ずらしたりするのも大事なのでは。趣味でもボランティアでも、自分が普段所属していない場所に足を運んで、自分の通用しなささ、イケてなさを感じるっていうか……。

ブラジリアン柔術は、週に3〜4日、練習を楽しんでいる。謙虚になることや持続することの大切さを教えてくれる活動だ

──でも人間は本来的に多面体なので、そういうレイヤーをいっぱいもっていたほうが、結局は楽ですよね。こっちで行き詰まっても、あっちがある、と思えるだけでも安心できるし。

ベースの場所に戻ったとき、そこにいろんな視点をもたらすこともできますしね。人間としてもエッジが立つというか、魅力が出るというか。そっちのほうが絶対楽しい。人間社会でも会社のなかでも、そういうアプローチはこれからけっこう大事になってくるんじゃないでしょうか。そういう意味では、いまは自分が働きアリだと思っている組織の人がじつはいちばんうろうろアリに移行しやすいんじゃないかな。だって会社勤めだったら、日々の生活は経済的に保障されているわけで。その基礎があるうえで、社内での振る舞いを変えたり、社外でやりたかったことに手を出してみたりと、新しいことに挑戦しやすい環境でしょう。会社勤めしながらPLAYFULな取り組みを始めるって、じつは最も一歩を踏み出しやすい方法のひとつなんじゃないでしょうか。



とっかかりやすい、くるぶしチャンス



──いま、靴下のブランドを立ち上げようとしているそうですね。

これまでのキャリアとは無関係なようでいて、自分のなかでは全部つながっているんです。靴下は、人の気持ちを変えることができると思っていて。僕もビジネスライクな服にカラフルな靴下という出立ちでいると、いいねって現場で言われることが多いんですよ。靴下をきっかけに会話が生まれて、さらにそれがきっかけで人の意識も変わっていくかもしれない。


──アイテムとして、靴下なら取り入れやすいし。

そうなんですよ。服をいきなりイメージチェンジするのはちょっと勇気がいりますが、くるぶしにはチャンスがあるんです(笑)。


──それこそさっきおっしゃっていた、ちょっとした変化が、靴下を履くだけでもたらされる。小さなきっかけで楽しい自分になれて、それがまわりにも伝播するといいですよね。

はい。靴下はじつは、大きな可能性を秘めているんじゃないかと。THE PLAYFUL ANTSという傘の下で、遊び心のある生き方や働き方を実現するための“小さな一歩”を応援する活動をやっていきたいと思っています。

この夏は母校のコーネル大学を訪問。目指す自分に近づくための小さな一歩を考えるためのワークショップを、MBA(経営学修士)生を対象に行った



唐川靖弘 Yasuhiro Karakawa
うろうろアリインキュベーター。「うろうろアリを会社と社会で育成する」ことを目的に組織イノベーションのコンサルティング・コーチングを行うEdgeBridge社の代表として10か国以上で多国籍企業との実践プロジェクトをデザイン・リード。その他、企業の戦略顧問や大学院の客員教授などを務める。目下、オリジナル靴下の商品化に向けて邁進中。