円を描いたフォルムは、手馴染みが良く、目にもやさしく温かい。奄美大島出身・在住の木工作家、今田智幸さんが手掛ける作品は、ひとつひとつが唯一無二の色・カタチだが、いずれも丸みのあるデザインが特徴的だ。お店の名前は「球体」にちなみ、「woodworks CUE(キュウ)」。小さな工房兼ショップには、お皿や花器、一輪挿し、置物、アクセサリーなど大小様々な作品が、所狭しと並んでいる。
24歳でUターンした今田さんは、実家の材木屋で手伝いをする傍ら、趣味で木工をスタート。当初は、材木屋で取り扱っていた製材を用い、家具や小物などを作っていたが、いつしか球体の魅力に惹かれたという。
「材木屋で扱う木材は角張っていて、出てくる木目も模様も予想ができる。でも、木工旋盤で球体にすると、予想もしてなかった美しい木目が出てくるんです。同じ木でも、回転の仕方やどう削っていくかによっても、木目の表情ががらりと変わるので、それもまたおもしろい」
ユニークなのは、現在、使用している木材のすべてが奄美大島産だということ。流通している製材を使うのではなく、庭木や畑の整備などで伐採された木材を造園業者や林業者から直接仕入れるというスタイル。奄美大島伝統の染色技術に用いるシャリンバイ(テーチ木)を、染色家であり同級生の金井志人さん(金井工芸)から譲り受け、加工してみたのがきっかけだった。
「切ってみたら、驚くほどきれいな色をしていたんです。そこから島のことを知りたいと思った。身近な木なので、立っている姿は知っているけれど、中はどうなっているんだろう、と。硬さ、香り、色など、木によっても全然違う。削りながら、木に教わっている感じです」
ガジュマル、シャリンバイ、アカギ、フクギ、イヌマキなど南国の奄美らしい木々をはじめ、これまで手にした木は、30種類以上。個性豊かな木の表情や特徴を活かすべく、はじめから作るものを決めて加工するのではなく、まずは削ってみるというのが今田さん流だ。
「節や割れが中に入っているときがあるので、そうするとラッキー。家や家具をつくるときにはマイナスポイントになるような部分を、あえてワンポイントにして活かすようにしています。1回旋盤で削ってみて、ワンポイントが出てきたらそこを中心に置物を作ってみたり、きれいな状態であればそのまま花瓶を作ったり。流動的な感じで作ってますね」
黒くて堅い芯材が、かつては高級な三味線の棹としても使われていたというリュウキュウコクタン。流通にはもちろん乗ることがなく、3年ぶりくらいに入手できたという、希少な木を削って作ったという置物は、漆黒色に輝く芯材がまるで絵画のよう。独特な模様は、水墨画で描かれた山景のようにも見える。
「見る人によっても見え方が違うのも、球体で削っていく木工の魅力。表情豊かだから、飽きることがありません」
woodworks CUE
鹿児島県奄美市名瀬和光町25-7
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