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世界に満ちた大小のワンダーを
尋ね歩き、編み、結ぶ人

WONDER FULL LIFE 主宰
大脇千加子

 

08/24/2023

“The world is full of wonder.”
―この世界は不思議に溢れている

その一文を前置きとする<WONDER FULL LIFE(以下ワンダー)>は、意志のある「いきもの」のように、気づけば小さな歩幅で歩き出していた。

自身のファッションブランドでの10年の活動を経て、2016年に新たな創作活動としてワンダーを立ち上げた大脇千加子さんことチコさん。

彼女は、ワンダーを始めたばかりの頃を振り返り、「⾃分がはじめようとしたことの⼤きさに⼾惑っていた」と話す。友人を介して偶然会うことができた奄美大島のユタに、今後歩いていくべき道を尋ねたこともある。回答は簡潔。「大丈夫」、ただその一言だった。

ひとりの、きわめて高い純度の思いから動き始めた船に、共鳴するひとびとが、次々と現れ、迷いなく乗り込む。そんなイメージが浮かぶ 。
(写真集『Rippling(著作 中川正子)』より一部引用)

ワンダーの創作を記録した写真集「Ripplng」(2019年)を制作した写真家・中川正⼦さんは、この活動体について「船」とたとえた。この「船」上では、同時多発的かつ偶発的に入り乱れながら、さまざまなモノやヒト、国や時間を超えた関係性が生まれている。有機的に、今この時にも。

インドの女性たちが家族の幸福と繁栄を祈りながら古布に繊細な刺し子を施し完成するカンタ、鹿の角、鳥の羽、陶片、アフリカやアフガニスタンの石、カレン族やラバリ族といった少数民族が手がけた銀細工、染色布、クバ(ビロウ)、花弁、意匠糸、さまざまな端材。

インドの伝統織物工房、奄美大島の伝統染色人、愛知県の製糸工場、作陶家、真鍮作家、漆芸家、クバ細工作家、文化人類学研究者、絵描き、写真家、音楽家、花屋など。

手を動かす表現者だけではない。世界観を可視化するアートディレクターやデザイナー、伝え手となるコミュニケーター、「綴れないものを綴るため」の補助線たる言葉を添える言葉の繰り手も関わる。

「ひとりでできることなんて、何もないんです。⼈と作ることは、委ね合いながら時間を重ねる、そういう⽅法でしか⽣まれないものがあると思っています」

ひとときの感覚の交換を、作り手同士で行う。そうして生まれたものを手放し、誰かへと託す。その先でなにが起こるかは未知数。けれども、それがいい。信頼と共にある託し合いの中でこそ、新たに向かうべき道が見えることがあると知っているから。

「まるで『こと』を起こしている⼈のように⾒られることもありますが、⾃分の捉え⽅としては、私は、モノの声と⼈の声を聞く受け⼿だと思って、関わってくださるみなさんと時間を過ごしています」

美しいと思う形を追求しながらも、余りある材料を贅沢に使うのではなく、その時その場所で受け取ることのできたものを組み合わせている。究極的には、そのものでしかできない形を探している。素直に、そのものたちが納まる居場所を探している。

「私が編んでいるのは、きっと⽬の前のものだけではなくて、⼈も時間も含めて、⽬に見えないものをつなぎ合わせていくことなのかもしれません」

そう言ってチコさんが目を細める。

「この形を作ろうとイメージして進めても、完璧な形に辿り着けるわけではありません。今できることを探すうちに、まさに⼿元で編んでいる素材から答えを教えてもらっているような気がします」

ひと度、まばたきをすれば見逃してしまうような流れの中で、目の前で生まれゆくものを取りこぼさないように、精一杯の力で取り掛かる。余力を残すなんて考えられない。ただただ手を動かし、創作する、生み出す行為にのみ意識を向ける。作り続けることに理由を求められることのない、純粋でひたむきな必死さをもって。

「全部⾃分の⼿を通してものを⽣み出す⼈たちと、作り合うことで対話を重ねてきた。⼈とモノはもちろん⼀緒にではできないけど、同じように真摯に向き合い、関係を築いてきました」

なんて難しいことを始めてしまったんだろうと思うこともあります、とチコさんはちょっと困ったように、けれども笑顔で続ける。誰かとともに手を動かすことの難しさも喜びも、他ならぬ彼女自身が身をもって知っているから。

「人を信じたり、自分の知らないことを受け入れたりすることって難しい。でもそれを繰り返すと結果的に、向き合っているものが自分だったりします。

自分がどこまで委ねられたかによって、出来るものも、起こる出来事も変わっていく。そういう意味では、一番怖くて楽しくて愛おしいことをやっていて、その中でしか見つけられないギフトみたいな瞬間がいっぱいある。

大変だけど、それ以上の喜びはないと思っています」

ワンダーの創作活動に参加し、アイデアの交換や技術協力などをしてくれる各地の作り手たち。左から、つくも窯(兵庫)の十場あすかさん、十場天伸さん、WONDER FULL LIFE の大脇千加子さん、大脇さんとともに「COUNTER POINT」プロジェクトを行うLIGHTYEARS(福岡)の細矢直子さん、真鍮を素材に用いた金工作家、Lue(岡山)の菊地流架さん。

彼女は口癖のように「楽しいね」と言う。人に対しても、モノに対しても、なにかが起こりそうな兆しに対しても。

そうした未知の種を見つけては、水をやって、見事に花を咲かせてしまう。育てていく過程には喜びだけではなく、意図せず引き受けなくてはならないこともある。それも全てまとめて、受け止めながら。

WONDER FULL LIFEは続いていく。今を生きている作り手たちによって、人が、対話を続ける限り。彼女のような人が、いる限り。





WONDER FULL LIFE展示
「綴」- つづる展 – Weaving the path of WONDER FULL LIFE
日時:2023年6月30日(金)〜8月27日(日)
場所:無印良品 銀座 6F ATELIER MUJI GINZA Gallery1・2
https://atelier.muji.com/jp/exhibition/5705/

(C)ATELIER MUJI GINZA



WONDER FULL LIFE(ワンダーフルライフ)
素材の声に耳を傾けるたびに甦るのは、土地に生き続ける記憶や時代を越えて受け継がれてきた叡智。その一つひとつを敬い、手仕事を重ね合わせ、感じた振動をさらに増幅させていく。この地球に生まれるさまざまな出合いをすくい取り、豊かに、美しく紡いでいく WONDER FULL LIFE。わたしたちは、ファッションの分野を超え、過去を辿り、現代を巡り、未来を見据えながらさまざまなジャンルの作り手とともに尽きることのない対話を重ねていきます。


大脇千加子(おおわきちかこ)
WONDER FULL LIFE 主宰。2005 年、自身のブランド<Kitica>を立ち上げ、出産を機にキッズブランド<cokitica>もスタート。ブランドの活動休止後の 2016 年、新たな創作活動として「WONDER FULL LIFE」を始動する。染、陶芸、真鍮、漆、織物など、さまざまな分野の日本の作り手たちと協働し、ファッション、プロダクト、アートに展開。展示会やイベントの開催、オリジナルの作品制作、書籍の発表、ライブなど、幅広い活動を行う。