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“Verseau” for her life journey.

強さも弱さも抱き締めて、ケアする人
村田美沙

 

11/08/2023

「私は、ハーブや植物とともに戦おうとしているんだと思います」

植物療法士として活動する村田美沙さんは、自分の星座から名付けた<Verseau>の活動の一端をそう表現する。

彼女の半生において「よく生きる」ことは常に頭の片隅にあった。その根本には幼い頃から抱いてきたコンプレックスがある。

「自分の体に頼りなさを感じてきたんです。なんで自分はこんなに弱いんだろうって。病持ちでたくさんの薬を塗ったり飲んだり、ずっと『なにか』に頼らなくちゃ生きていけませんでしたから」自分の手で自分を守る術を得たい、との願いに応えるように巡り合ったのが植物療法だった。守ることはすなわち戦うこと。大学卒業後、憧れの業界に入るも体を壊し休職を余儀なくされた時期に、とうとう手に入れた自衛的武器だった。

「健康だったら自信がもてることがいっぱいあるはずなんです」

植物療法を生涯の生業とする覚悟は、のちに「人生の旅」と位置づけるフランスでのフィールドワークを経て確固たるものになる。滞仏中に出会った「人生の手本となる女性たち」のことは忘れがたい。

「彼女たちは、しなやかに強いんです。自由と裏表である責任を全部飲み込んだ意地もある。強さとやわらかさは共存するんだと、その時知りました」

私もそうなりたい、と彼女はきっぱり言い切る。

ではこの先、どう生きるか。自らにそう問えば、植物とともに生きることはあまりにも自明な、揺るぎないことに思われた。

「私は、植物と人との関わりみたいなものを模索していきたいんです。植物は、私と誰かとの間にフィルターになって存在するもののようにも感じますから」

そう話す美沙さんの手によって、植物はさまざまな媒体へと姿を変える。

京都の森を散策して自ら森で採取した苔やヒノキを使ったお茶を調合し、自然と一体になるフィールドワークを行った際、植物は観察対象となり、対話を深めていくためのきっかけとなった。

より視覚表現を深めたアートの領域に踏み込み、山間部を流れる水脈や人の気配を辿ってアートピースへと昇華させたこともある。あまりにも身近にある植物や水の存在をはっきりと立ち上らせ、鑑賞者の注意を惹く明確な対象物へと変容させた。

水脈のピース / MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館 2023
photo by Tomohiro Mazawa
奉茶これくしよん01 / Wind and the Willow 柳と風
photo by Daisuke Takashige

「植物の力をもらいながらお茶を作ることは私の大事な一部です。けれどもそれだけが私ではありません。植物やケアについて、言葉にはならない部分を『表現したい』欲求も私の一部にある、と最近つくづく思うんです」

生きているから、自分の気持ちも環境も、表現するものもどんどん変わっていく。ゆらいだり積み重ねたりするうちに、自分のなかに芽生えた新しい感覚には目をつむりたくない。

「かつて<Verseau>で掲げたコンセプトメッセージ『素直な私になる』というのは、私たちの究極の望みですよね」

photo by 余松翰

変わりゆく自分を素直に寛容ながらも、彼女の根底に流れる「健康を考えること」、すなわち「ひとりひとりの辛い部分を取り除くこと」、「強さと弱さの共存」への思いは変わらない。

だから今、とある芸術祭に向けて、彼女が植物を介さないパフォーマンスアートを構想していると聞いても決して驚かない。

制作するのは、人がぎゅっと抱きしめることのできるたまご型の陶器<HUGG(ハッグ)>。このメディウムは温められ、鑑賞者が「ハグする装置」としてお披露目される。

「ハグする対象が人でもモノでも、二者の間にだけ生まれる特別な熱みたいなものが生じると思うんです。自分だけのものでもなく、対象だけのものでもない。まさに間にある感覚のようなもの。

それに私たちは安心感やピースフルな感情を生むのではないか、という仮説が私にはあって。きっとそれは、私たちはそれを無意識のうちにきっと見過ごされているものかもしれません。

ただしっかりと『間の熱』を認識すると、人はもっと優しくなれるんじゃないかな。それに気づくと、世界はもっと平和になるかも。みたいな大きな願いがあるんです(笑)」

美沙さんは世界をいつも愛そうとしていますよね、との感嘆に対して、「私、博愛だから」と、さらりと笑う。

彼女はもはや植物療法士ではない。彼女は会うたびに変化し、凝り固まった「だれか/なにか」の呪縛に囚われることはない。いつだって悩んでいるけれども、最終的に、「村田美沙」として嘘なく生きることを自然に選び取っているから。

「自由でいるためには責任がついて回るけれどもね」と美沙さん。それでも、彼女が掴み取った自由は、いつだって清々しさとひと揃いだ。

“Va où tu peux, meurs où tu dois(行けるところまで行き、死ぬべきところで死ね)”

彼女の生き様は、彼女だけのものだから。





◾️展示情報
山梨国際芸術祭|八ヶ岳アート・エコロジー 2023
期間:2023年11月5日(日)〜12月20日(水)
場所:清春芸術村、中村キース・ヘリング美術館、身曾岐神社、GASBON METABOLISM (予定)




村田 美沙
国産の薬草文化をテーマにフィールドワークに取り組み、植物療法を軸にプロダクト開発や講座、執筆活動を行う。同時に「人と植物の関係性」をテーマに表現活動を行い、自然環境と心身の対話から得られる感覚をひとつの流れと捉え、パフォーマンスやインスタレーション作品を制作。主な展示に、<MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館 2023 (2023, Nara)>、<來自未來市場的「舶來品」9個推測未來的台日實驗 (2022, Taiwan)>、<Wind and the Willow / 柳と風 (2023, Kyoto)>がある。

text | Yuria Koizumi photography | Misa Murata, Tomohiro Mazawa, Daisuke Takashige, Yu Songhan