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Kyushu's National Parks
Interview

福田果樹園

みかんの香りを取り戻すため
目指したのはオーガニックなスタイル

 

01/15/2021

車を駆け、山を登っていくとどんどん緑が濃く、深くなっていく。ここは熊本県天草の苓北町、温州みかんの一大産地。訪ねたのはこの地で約50年もの長きに渡って営まれてきた「福田果樹園」だった。父親がつくり続けるみかんを食べて育ったという福田智興さんは現在、この果樹園の主。農薬や化学肥料を一切使わないやり方で、とびきり甘く、みずみずしいみかんをつくる生産者として名を知られる一人だ。農園に足を踏み入れると、まず膝丈ほどもあろうかという雑草の多さに驚く。しかも果樹は整然と植えられているわけでもなく、まるで天然の林のよう。意図して自然の状態に近い環境で果樹を育てているのだという。

「15年ほど前、父が亡くなり自分が継いだんですが、育てたみかんを食べた時、子どもの頃に抱いた感動がなかったんですよね。皮をむいた時の香りもそうですが、もうちょっとうちのみかんはおいしかったよなと。それで勉強していくうちに、どうも果樹園の土地が化学肥料や農薬をやり続けることで痩せていってしまったということに気づいたわけです。それで有機肥料に切り替え、土をつくっていくという方向を目指していったんです」

土をつくるためには野に存在する菌を生かさなければならないことを知り、殺菌剤の使用をやめ、やがては殺虫剤を使うことも止めた。ところが殺虫剤を止めたことで驚くほど虫が増えてしまう。それでも福田さんは自然の力を信じ、オーガニックなみかんづくりにこだわり続ける。

「カメムシが大量発生してみかんを食べられちゃったり。ひどい時は8割くらいのみかんが落下してしまって出荷できないなんてこともありました。でも勉強して知識を得ていたので3年間は我慢しようと。すると、クモやムカデが増えてきて害虫を食べてくれることで、全体のバランスが整うようになってきたんです。除草剤などは昔から使っていないので雑草が生い茂りますが、肥料を止めてからは生える雑草の種類も多様化し、すべてが自然のバランスに近くなってくると微生物や菌が土を良くしてくれるんですよね。今は納豆やヨーグルト、黒砂糖などでつくった酵素だけでみかんを育てていますが、幼い頃に感じたみかんの香りが戻ってきたと思います」

思い切って殺虫剤や除草剤の使用を止め、太陽と大地の恵みを信じた福田さん。水害や地震など果樹園の行く手を阻む要因も多いが、そんな時はおいしいみかんを待っていてくれる消費者の声が何よりの励みだと話す。これまでのやり方をゼロリセットの状態にし、昔ながらのおいしさを取り戻すというチャレンジ。そんなつくり手の知られざるストーリーを知ると、また一段とみかんの甘さが増したように感じた。

福田果樹園
2011年より熊本県天草の苓北町で、自然栽培(無農薬・無肥料)にてみかん・野菜・水稲を育てる。
PAPERSKY no.63 | KYUSHU’S NATIONAL PARKS
九州の4大国立公園を巡り、各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ。旅のゲストは「CHALKBOY」こと吉田幸平さんと「青果ミコト屋」鈴木鉄平さん。
text | Miguel Utsunomiya photography | Masahiro 'Lai' Arai (SunTalk)