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【Papersky Archives】

Traditional Kokeshi
ひそかなブーム、伝統こけし

 

03/14/2022

目や髪型、胴体の形やデザイン、よく見るとひとつひとつがまったく違う。それぞれに個性的で愛らしい表情がある。すべて東北地方で生まれ、育まれた伝統こけしたちである。

初めてこけしを「発見」したのは、雑誌の取材で福島県を旅したとき。会津へ向かう道すがら、岳温泉に住むこけし工人(こけしをつくる木地職人さんをこう呼ぶ)さんの工房を訪ねたのがきっかけだった。それまでは正直にいうと「怖い」「暗い」「ダサい」といったネガティヴなイメージと偏見にとらわれていた。こけしなんて、みな同じだろうと。

ところがこけしの工房に並んでいたこけしを見て驚いた。これまでもっていたイメージとは違う、柔和で繊細、そしてモダンでさえある姿がそこにはあった。さらに興味が湧いていろいろ調べてみると、その種類の多さ、表情のおもしろさにすっかり魅了されてしまった。

こけしは江戸時代後期、東北の温泉地を中心に湯治客相手につくられたのがはじまりだといわれている。国民の大半が農民だった時代、湯治は人々にとって数少ないレクリエーションのひとつだった。湯治で身体を癒した大人たちが子どもや孫へのおみやげとしてこけしを買い求めたのである。

盛りあがりを見せたのは大正のころ。趣味人がこぞってこけしを蒐集するようになったという。しだいにこけしは子どもの玩具から大人の鑑賞物となっていった。その後いくたびかの流行と衰退を繰り返したが昭和40年代のブームを最後に、こけしは衰退の一途をたどっていた。

それがいま、若い女性を中心にこけしが静かなブームになっている。手仕事や工芸に対する関心の高まりとともに、こけしがもつ「かわいさ」や「デザイン性」の魅力に気がついた人たちが増えているようだ。いまこそ偏見を捨てて、素直な目でもう一度こけしを見つめてみてはいかがだろう。いままで知らなかった魅力にきっと気がつくはずである。

< PAPERSKY no.36(2011)より >


大熊健郎 Takeo Okuma
インテリアショップ 「イデー」 でプレスや商品企画の担当を経て、現在、CLASKA / DOのディレクター。