偏愛のブリコラージュが編み出す文化
道は、人や物資だけでなく、思想や文化も行き交う。東海道五十七次の終着点、高麗橋がある大阪市は、陸の道と川の道が重なり合って発展してきた街だ。大阪城築城を機に運河が整備され、江戸時代には「天下の台所」としての物流を水運が支えてきたことから、「水の都」とも呼ばれてきた。そして、人やものの流れとともに、さまざまな価値観が交差し、積み重なって、大阪独自の文化が育まれてきた。

そうした文化を今に編集し続けている存在のひとつがクリエイティブユニット「graf」だ。点在するものや場所をつなぐことで新しい文脈を与え、家具や食、空間設計を横断しながら、この時代の暮らし方を提案している。
もうひとつ、この街の文化を語るうえで欠かせないブランドが「TRUCK」である。「TRUCK FURNITURE」は、その世界観のイメージから、森のなかにたたずむ家具店だと思い込んでいた。だが実際に訪れると、住宅街の一角にあるから驚く。アイアン柵つきのレンガ塀と大きな樹々に囲まれたヴィンテージ感漂う建物は、そこだけ流れる空気が違う。
「実をつける木を植えたから、たくさんの鳥が来てくれるようになった」と、オーナーの唐津裕美さんが案内してくれた。もともとタクシー会社だった場所を更地にし、いちから建物を設計、土壌を改良し、多様な樹木を植えたのだそう。店舗と隣の自宅、そしてアトリエと、手間と時間と愛情をかけ、森のようなエコシステムが形成された。
「◯◯風といった意識はしていなくて、自分の“好き”を正直に集めて、時を重ねていったらこうなった」と微笑む唐津さん。経年のシミや傷も、重ねた時間の“味”として愛してもらえるような家具づくりをしているという。

隣に建てたカフェ「Bird」も、その“好き”の延長線上にある。おいしい食事をし、コーヒーを飲み、実際にTRUCKのインテリアに触れながら過ごす時間は、そのアイテムと自分との温度感や質感を確かめる体験でもある。

インテリアが暮らしのなかに光を添える存在だとすると、自転車ショップ「velo life UNPEU」はその日々を外へひらく存在だ。点と点を結ぶ移動ツールとしてだけでなく、運河沿いの自転車キャンプなど、自転車をとおしてこの街と関わる機会を広げている。

移動の速度が変わると、その場所の見え方ががらりと変わる。高層ビルが立ち並ぶ高麗橋周辺も、ゆっくり通り抜けると、運河に沿って隠れ家的な飲食店が増えたことに気づく。
窓辺に塊根植物や現代アートが並ぶ居酒屋「yacipoci」からは、いつもセンスある音楽と笑い声が漏れてきて、つい足が止まる。お酒と音楽、自転車愛にも溢れた店主、秋谷直弘さんの好きが集まった空間には、さまざまな界隈の人がカウンターを囲み、心地よい時間が流れている。人が交わり、新しい文化が育まれる場がここにもあった。

街との関係性が変わると道が見えてくる
中之島から道頓堀へとつながる東横堀川は、大阪市最古の堀川。その上は高速道路に覆われ、長く「まちの裏側」となり、川沿いの公園や橋の下など閉ざされた場所も多く残っている。
そんな水辺をひらき、活性化しようとする実験プロジェクトのひとつが「SUIMON HOTEL」である。高麗橋を臨む旧水門施設の一室を、訪れる人々を受け入れる「ホテルのフロント」に見立てて改修した。使われず無機質な空間だった場所で、展示やイベントなどが催されるようになり、人が関わることで少しずつ水辺の彩りを取り戻しつつある。

川を遡れば、かつて大坂と京都を結ぶ中継港として栄えた、枚方にたどり着く。水運の発達によって人の移動が水上へ移って以降、枚方宿は通過されるようになっていったそう。そこで、枚方の人たちは川沿いで楽しげに宴会する姿を見せて旅人の足を引き留めたり、船上の客に「く(食)らわんか」と声をかけ、食べ物や酒を売ったりと、行き交う人々の関心を引こうとした。その立ち寄らせるという感覚は今もかたちを変えて残っている。


「DERMATOGRAPH」には、各地の作家作品や、1960〜80年代のデッドストックの器、つくり手の魂が込められた手彫りの木彫り熊が所狭しと並ぶ。2階の住居兼撮影スタジオでは、展示やワークショップも開催している。人やものが、時間や距離を超えて集い、新しい価値や関係をつくっていく。棚に並ぶアイテムは時代もジャンルも異なるが、一貫した熱量と引力が宿る。正岡東真さん・有加里さん夫妻が“好き”と感じたものが集まり、その積み重ねが、多くの人を引き寄せている。何かを購入するというより、思いや時間を受け取る感覚に近い。はっきりした目的のない小さな滞在が偶然の出会いを与えてくれたりもする。

その土地の歴史や物語を知り、人と出会い、作品や文化に込められた思いに心動かされる。そのとき、自分とその場所やものとの関係は少しずつ変わっていく。そうした関係性の変化のなかに、道は自ずと立ち上がるのかもしれない。

現代の東海道五十七次を辿る旅。
サイクリングで高麗橋から枚方、伏見へ
ツール・ド・ニッポン in 大阪
2026年10月3日(土)・4日(日)に開催

1日目は大阪の中心地、中之島からスタート。五十七次の終点・高麗橋で「SUIMON HOTEL」がひらいた空間を散策し、運河沿いを抜けて「TRUCK FURNITURE」へ。隣のカフェ「Bird」でひと休みしたら、土手に吹く風に乗って爽快にペダルを漕ぎましょう。街へ戻り、守口宿の文禄堤から京街道を進み枚方へ。夜は枚方宿でかつて開かれていた宴会に思いを馳せて乾杯を。2日目は木津川を下って上津屋橋を渡り、土手を気持ちよくサイクリングして一気に伏見まで。今の街道を巡り、人やものと出会う。新しい道の景色を探す旅へ。
Tour de Nippon Guide
Osaka & Hirakata
graf studio
大阪府大阪市北区中之島4-1-9
TEL:06-6459-2100
TRUCK FURNITURE
大阪府大阪市旭区新森6-8-48
TEL:06-6958-7055
Bird
大阪府大阪市鶴見区緑4-1-16
TEL:06-6958-1616
yacipoci
大阪府大阪市中央区平野町1-1-1
velo life UNPEU 中津店
大阪府大阪市北区豊崎4-3-1 1F
TEL:06-6374-8028
DERMATOGRAPH
大阪府枚方市星丘4-16-29-1
TEL:090-9697-8282
枚方凍氷
大阪府枚方市三矢町4-1
TEL:072-841-2237
市立枚方宿鍵屋資料館
大阪府枚方市堤町10-27
TEL:072-843-5128