Tour de Nippon

ニッポンの魅力再発見の旅 栃木 / 矢板

県の南北を貫く東北自動車道や東北新幹線。栃木県はそのアクセスのよさから、特に首都圏の人にとって馴染みがあるのではないだろうか。そうでなくとも日光や那須高原、生産量日本一のいちごなどは全国的に名高い。そんな栃木の県北にある矢板市に足を運んで気づくのは、里ののどかさと恵みの豊かさ、それに人の温もりだった。知ればもう矢板は、近郊の観光地への道中に寄る町ではなくなりますよ。秘密にしたくなる、とっておきの場所と出会う旅へ。

04/19/2021

知らない町のさらに奥へ

日光北街道は日光から奥州街道に出るための脇街道で、その道中にあった矢板市の玉生宿の屋敷で、芭蕉は一夜を過ごしている。矢板で詠まれた句はないものの、その足跡を感じる句碑を田畑や小さな神社の傍に見つけるたび、古の里の様子を想像して気持ちが落ち着いた。

昔は、いまよりずっと便が悪かったことは百も承知なのに、日常で実感する機会は多くない。ところが矢板でひと晩泊めてもらった小さな宿で、とんでもなく旅情をかきたてられ、古の人たちに思いを馳せることになった。

この崖の先に?…疑いたくなるほどの渓谷に続く斜面を降りた先に、1892年創業の「小滝鉱泉」がある。地表や岩肌からしみでる15度ほどの鉄鉱泉を沸かした湯は赤銅色。鉄分やメタケイ酸を多く含んでいて、胃腸痛や神経痛、美肌への効果が期待できるのだとか。体をじっくり温めてくれるので疲労回復にもうってつけ。宿のある八方ヶ原は、かつては炭焼きの人などの出入りや長期滞在の湯治客なども多かった。険しい山道を歩いて通い、疲れや痛みを鉱泉で癒したのだろう。ご主人は4代目の佐藤正之さん。その4代目をまーくん、妻をさちよと、仲睦まじく呼び合う夫婦の人柄も微笑ましく、旅人を心身ともにほぐす。名産のしいたけ、紫蘇巻きなど地もの旬ものが並ぶ料理も、言うまでもなく絶品。創業以来130余年、従業員を雇うことなく、布団やタオルの洗濯や準備も家族ですべて行う。道だって、正之さんと3代目がスコップで手作業で整え、さらに正之さんが機械を用いてようやく完成させた。夫婦に見送られその道を見あげたら、来る時の苦労はどこへやら。誇らしい気持ちになって、再訪を約束していた。


のどかな高原を彩る四季の実り

日光国立公園の一部でもある八方ヶ原は、矢板から那須塩原にかけて広がる高原だ。最近では、雨あがりにしか姿を見せないという幻の滝「おしらじの滝」が有名だろう。遠く関東平野まで見渡せるという高原から流れる清流、肥沃な大地、寒暖差は米づくりに味方する。聞けば栃木は令和元年産の米の収穫量全国8位というから、納得。行く先々で稲穂が実る、美しい晩夏の風景だった。

矢板は、りんごの南限地としても栃木県下一の収穫量を誇る。雪や寒波などの影響を受けにくい土地柄から、樹に実がなったまま完熟させて収穫されるので本来の甘みが凝縮する。市場にはほとんど出まわらないという幻のりんごを求め「渡辺りんご園」を訪ねた。

「りんごを育てているとは思っていなくて、りんごが育つお手伝いをしているんです」そう話すのは、2代目の渡辺幸史さん。岩手や福島でのりんごづくりを学んだ後、初代である父のりんご園を引き継いで土づくりから改革。化学肥料は一切使わず、米ぬかなどを混ぜた独自の堆肥を用いる。りんごの木の足元の草は刈らずに残すことで、地表のダニが木にあがらないようりんごの生活環境を整えているという。「矢板のりんごは他の地域に比べ、収穫の時期が遅い。満開のあと20日くらい経ってからなので、その間も、でき具合をよーく見て、話しかけるようにしています。りんごは子孫を残そうと、おいしい実をつけるのに懸命ですからね」。おいしいと聞けば研究のため新たな品種を植えたりと熱心な幸史さん。約50種600本ものりんごを丁寧に育てる苦労は計り知れないが、高原の山裾に広がるりんごとの日々を楽しんでいる様子に、ほっとするのだった。


矢板を大切に思う担い手が築く未来

「58ロハスクラブ」は閉場したゴルフ場をフル活用する、まさに“フィールドオブドリームス”だ。「ゴルフ場だったときから“食とエネルギーの自給自足”をテーマに運営しています。キャディさんや従業員の閑散期の仕事を目的にはじめた農業も、大事な活動の一つです」とはオーナーの小森寿久さん。コースだった100haの太陽光発電で施設すべての電力をまかない、残りの土地は農場利用し、場内から出る間伐材はログハウス建設や施設内の給湯に利用する。週末に約5,000人とペット1,000頭が訪れるマルシェは、今では自社の核となり地域を盛りあげる。2haもの広さを誇るドッグランは日本一の規模で、他に類をみないペット同伴の避難所でもある。「矢板の資源を使って、地域の人に開かれた場所にしたい」思いは、2020年に矢板市との防災協定締結にも繋がった。「天然資源の宝庫でもあるゴルフ場が環境や地域にもたらす良い効果に着目して、少しでも多くのゴルフ場が生まれ変わってくれると嬉しいですね」。ゴルフを愛するロマンの人の取り組みから、目が離せない。

「この場所があるから、故郷のように感じます。引き継いでいけるものづくりを一生かけて地道にやっていきたい」そう話すのは、東京と二拠点で活動するアートディレクターの加藤弥生さんだ。かつて会津中街道の山田宿があった集落に父親が土地と古民家を購入したことが往来のはじまり。美大生時代からは仲間とともに頻繁に訪れるようになり、2018年にゲストハウス「WASHINKAN」を、翌年には隣接のブックカフェを開店した。「矢板の人は奥ゆかしくて、人を見捨てないあたたかさがある」と弥生さん。人の縁が紡ぐ矢板の豊かなこれからが、楽しみで仕方ない。

【参加募集中!】
「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 栃木 / 矢板」
2021年5月29日(土)・30日(日)の週末に開催

那須塩原から矢板、鬼怒川へ、2日かけて自転車旅を楽しむ週末です。1日目は那須塩原が起点。不毛の土地に那須疎水を開削し豊かになったという那須野が原を体で感じながら矢板を目指します。地域の人と食の歓迎を受け一夜を過ごした翌日は、東武鉄道矢板線の廃線跡をSLの往来を想像しながら走り、現役SL大樹の発着地でもある鬼怒川温泉駅へ。道中の食は、もちろん、山のもの川のものと旬を満喫します。

ツアーの詳細・お申し込みはこちら >> PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 栃木 / 矢板 参加募集スタート

PAPERSKY TOUR DE NIPPON
PAPERSKY ツール・ド・ニッポンは、「日本の魅力 再発見」をテーマに、PAPERSKYが企画・提案するツアープロジェクト。その土地の魅力ある文化、暮らし、自然、食、そしてそこに暮らす人々との出会いを求めて、自転車に乗って日本各地を旅しています。