厳しく豊かな自然と、ともに生きる
麓に国指定天然記念物の小滝ヒスイ峡を抱く明星山。石灰でできたその剥き出しの岩場は、盆栽界で屈指の人気を誇る糸魚川真柏の自生地だという。急峻な崖のわずかな土にたくさんの細い根を下ろし、太陽の光を求めて上に向かうも雪の重みで下へ曲がり、強風に巻き上げられて、その姿を成す。今では実際に山で採れるものは希少で、挿し木で持つ人が多いそう。祖父から3代続けて真柏に携わる太田茂機さんは「厳しい自然に耐えながら生き抜くので真柏は丈夫。まさに自然がつくり上げる芸術なんですよ」と話す。常緑の細かい葉と樹皮が剥け白骨のような幹に、生命力の強さとしなやかさを感じる。糸魚川には、こんな宝もあるのだ。

険しい山を抜けて日本海へ注ぐ川は、糸魚川の7つの谷を潤し、米を育む。なかでも根知谷は東西に開けていて、日照や風向きが米と酒づくりに適した環境=テロワールだという。ワインでいうブドウが育つ環境や土(地)の違いによる特徴を意味する言葉が、さらり。日本酒「根知 男山」の醸造元である渡辺酒造の渡辺吉樹さんはさらに「米づくりから醸造、びん詰めまですべて自分たちで行う、ドメーヌスタイルの日本酒づくりをしています」と続ける。醸造や酒の話以前に、酒を育む豊かな大地を守るための米づくりと、担い手育成の話が心に響く。米づくりも酒づくりも、20代から60代まで長男を含め男性7名全員で参加。2003年に始めた自社栽培も、若い人たちが嫌だと思わないよう機械を導入しながら今や95%に。「10km圏内に海山川がある恵まれた環境に感謝し、10年先を見据えて続けていくことが、谷に暮らす者の責務です」。今春からは20代の娘夫婦も加わり、19年目の米しごとが始まっている。

