Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

Tour de Nippon

ニッポンの魅力再発見の旅
新潟 糸魚川

新潟の最西端に位置する糸魚川市は、宝石箱のような街なのかもしれない。地形的特徴や名所などを地図に書き記してみると、世界に誇れるものがぎゅっと凝縮して存在していることに気づく。ころんと丸い小石を海岸で拾いながら街を眺めれば、その背後を覆うように連なる日本百名山を含む美しい北アルプスの山々までが目に入る。海・街・山が織りなすダイナミックな風景にため息がこぼれる。豊かで厳しい大地、自然とともに強くしなやかに生きる人に心を寄せる旅へ。

07/09/2021

厳しく豊かな自然と、ともに生きる

麓に国指定天然記念物の小滝ヒスイ峡を抱く明星山。石灰でできたその剥き出しの岩場は、盆栽界で屈指の人気を誇る糸魚川真柏の自生地だという。急峻な崖のわずかな土にたくさんの細い根を下ろし、太陽の光を求めて上に向かうも雪の重みで下へ曲がり、強風に巻き上げられて、その姿を成す。今では実際に山で採れるものは希少で、挿し木で持つ人が多いそう。祖父から3代続けて真柏に携わる太田茂機さんは「厳しい自然に耐えながら生き抜くので真柏は丈夫。まさに自然がつくり上げる芸術なんですよ」と話す。常緑の細かい葉と樹皮が剥け白骨のような幹に、生命力の強さとしなやかさを感じる。糸魚川には、こんな宝もあるのだ。

手塩にかけた真柏に囲まれ、微笑む太田さん

険しい山を抜けて日本海へ注ぐ川は、糸魚川の7つの谷を潤し、米を育む。なかでも根知谷は東西に開けていて、日照や風向きが米と酒づくりに適した環境=テロワールだという。ワインでいうブドウが育つ環境や土(地)の違いによる特徴を意味する言葉が、さらり。日本酒「根知 男山」の醸造元である渡辺酒造の渡辺吉樹さんはさらに「米づくりから醸造、びん詰めまですべて自分たちで行う、ドメーヌスタイルの日本酒づくりをしています」と続ける。醸造や酒の話以前に、酒を育む豊かな大地を守るための米づくりと、担い手育成の話が心に響く。米づくりも酒づくりも、20代から60代まで長男を含め男性7名全員で参加。2003年に始めた自社栽培も、若い人たちが嫌だと思わないよう機械を導入しながら今や95%に。「10km圏内に海山川がある恵まれた環境に感謝し、10年先を見据えて続けていくことが、谷に暮らす者の責務です」。今春からは20代の娘夫婦も加わり、19年目の米しごとが始まっている。

酒の価値は土地にある。渡辺さんは体現したことを語り継ぐ
漁師にとって目印でもあったという黒姫山。石灰の採掘面が、雪でくっきり
PAPERSKY TOUR DE NIPPON
PAPERSKY ツール・ド・ニッポンは、「日本の魅力 再発見」をテーマに、PAPERSKYが企画・提案するツアープロジェクト。その土地の魅力ある文化、暮らし、自然、食、そしてそこに暮らす人々との出会いを求めて、自転車に乗って日本各地を旅しています。
text | KaO photography | Tsutomu Yamada special thanks | Itoigawa City, Masaki Igarashi, Kaoru Ito