人の心ゆきかう駅舎のお楽しみ
2016年4月に起きた熊本地震の爪痕は、大きい。熊本と大分を結ぶJR豊肥本線の運休により、空港から南阿蘇への鉄道ルートは寸断。それに伴い南阿蘇村の玄関口でもある立野駅から高森駅へ続く「南阿蘇鉄道」(通称・南鉄)では約半分の区間が未だ不通。2022年度の全線復旧に向け懸命に日々運行している。
南鉄といえば人気のトロッコ列車ゆうすげ号をはじめ、さきごろまで日本一長い駅名を誇っていた「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅(以下、白水高原駅)」への改名、また地震で休業中ながら温泉併設の駅など、駅のユニークな活用に個性が光る。
被害が大きかった地域に隣接する長陽駅の「久永屋」には、1日も早い列車の往来と復旧を誰より願う店主の久永操さんがいる。昭和2年に建てられた趣ある木造駅舎の週末と祝日は、母直伝のおいしいシフォンケーキやマフィン、ひきたてのコーヒーを求める人でにぎわう。ホームで田園風景を眺めながら時を過ごすのもよさそう。操さんの気さくさに触れ、人が集まるのも納得なのだった。
本のある風景が、さながら図書館の「ひなた文庫」は、白水高原駅の駅舎に週末に現れる古書店だ。木造八角形の無人駅だったここを訪れたとき「夕陽が差し込む放課後の図書室のようだった」と話す中尾恵美さん。すぐに駅舎古本店を村役場へ提案し営業を実現させる。南阿蘇で育った夫・友治さんと話すのは、ここを地域の人と旅人が本を通じて心通わせる場所にすること。地域の観光案内や駅の管理業務も行いながら、各地のブックフェアにも参加。集う人のエネルギーを糧に、鉄道と本を介したこれからの旅路が楽しみで仕方がない。
*2020年9月26日(土)・27日(日)に開催を予定しておりました「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 南阿蘇」は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、開催を中止させていただくことになりました。楽しみにしてくださっていた皆様にはご迷惑をおかけし、申し訳ありません。ご理解の程、何卒よろしくお願いいたします。