【後編・宇城市】
つなぐ責務、楽しみながら
八代海に面し、天草への道中にある宇城市の不知火町松合地区は、果樹栽培と漁業と醸造の町だ。不知火は、船の漁火などが屈折して生じる蜃気楼のような現象だが、この地で生産が始まったデコポンの品種名として知る人も多いのではないだろうか。

醸造の町らしい白壁土蔵の町並みの趣は今日まで守られているものの、人口も減り地域の小学校も閉校。そんな地域で元気なのは農家だと、果樹農家ふたりで結成した「on the soil」の内山貴博さんと野村和矢さんは話す。町から視界を移すと低い山の斜面にびっしりと果樹が植わり、海と空に開けている。陽光と海風という恩恵を受けながら、ふたりが最も力を入れているのが土だ。「農作物にとって土はすごく重要で、日々、試行錯誤を重ねています。ただon the soilでは、農業や漁業、醸造の町=土台と捉えています。松合の土壌に生る果物を大切に育て、町を思う人が手を組み、わくわくしながら町を元気にしたいんです」

東京の大学で農業を学び、中央卸売市場で働いたあと地元へ戻った野村さんは、周囲に対し、これまでと違うこともやっていこうと提言していた。先に果樹栽培の家業を継いでいた先輩の内山さんは「彼が言っていること、はじめはわからなかったんですよね」と笑って本音を話すも、自らの農園でもオンライン販売などやってみることで徐々に希望を実感していく。さらにふたりは、築120年の醤油蔵をレストランが併設する宿へ改修しようと奔走している。「不安もあるし、失敗したら責任もある。でも誰かがやらなくちゃつながっていかないですからね。朝市を20年近く開催して町を盛り上げてきた地域の先輩に加え、宿の改修や資金調達、イベント開発はつぎとのメンバーの助けも借りたり。甲佐町のパレットとも交流して刺激をもらっていますよ」。同世代の果樹農家も、栽培に加えて狩猟や移動販売へと動き出している。宿は2022年初夏に開業予定だが、すでに松合は「天草への通り道」ではない。彼らに会う理由と目的がある、気持ちのいい風が吹く町だ。


宇城の中心から少し南へ、周囲はすっかり田畑というエリアの一角には農業体験施設「PLAY FARM」が誕生していた。ツリーハウスカフェ周辺でピクニックを楽しんだり、子どもたちは広大な農地を走りまわったり。田植えから収穫まで年に数回参加する米づくり部や、誰でも収穫できる協働の畑プロジェクトなど、遊ぼう・楽しもうを大切にする新しい試みは始まったばかり。責務を楽しみに変え、町や意識を変えていこう。宇城もそんな清々しさで希望に溢れていた。



尊い町をどうつくろう? 共鳴の旅へ
「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 熊本 甲佐・宇城」
2022年3月26日(土)・27日(日)の週末に開催
甲佐と宇城への旅の狙いは、参加者が自身の生まれた町・暮らす町のよさを再確認し、よりよくするための学びです。1日目は、甲佐の町の散策と町の人とのふれあい、宇城の皆さんも交えた交流会で宵のひとときを過ごし、キャンプ場「COMMON IDOE」で1泊します。翌日は道中「PLAY FARM」で農場遊びを楽しみつつ、町の改革に挑む人々が大切に育てているデコポン目当てに、自転車で宇城の海を目指します。
「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 熊本 甲佐・宇城」の詳細・参加申し込みは、PAPERSKY ツール・ド・ニッポンのページをぜひチェックしてください!