【前編・甲佐町】
町の変革、仲間とともに
空港と熊本市内からともに約40分の甲佐町へ。町の中心はなつかしい趣の商店街で各所を水路が巡る。水の音をBGMに進むと、水辺に建つ築130年の古民家の宿「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」にたどり着く。併設のパン屋から漂う香りが鼻孔をくすぐり、暖簾をくぐると土間のラウンジに迎えられる。気持ちがいいのは川床のようにせり出す縁側で、パンを買った人も利用できる。

「宿泊する人と地域の人が自然にふれあえるようにイメージしたんです」そう話すのは、一般社団法人パレットの大滝祐輔さんと米原賢一さん。甲佐で生まれ育ったふたりはそれぞれサッシ屋とガス屋という本業をもちながら「町を楽しくしたい」と活動を続けている。大滝さんは商店街で年に一度「甲佐蚤の市」を約10年にわたって開催し、地域の人に喜んでもらうことに手応えを感じてきた。米原さんは東京の広告代理店を辞め、2017年にUターン。「人を巻き込むのがうまいんですよね」と、大滝さんの地道な活動があって今があると話す。パレットの事業は古民家の宿に加え、町の資料館を改修したレストラン兼一棟貸しの宿の運営、グランピング施設へと生まれ変わったキャンプ場「COMMON IDOE」の指定管理、ウェブマガジン「magazine BO」の制作・運営と多岐にわたる。それに伴う人材も各地から引き寄せた。

そして自分たちだけでできないことは、他の誰かと一緒にやる。宿の運営は、古民家を活用したまちづくり事業を展開する「つぎと」とともに。さらに甲佐町、地域の病院や銀行も含めた6団体でまちづくり協議会を立ち上げるなど、さまざまな人とチームを組んで前進している。「自分たちが楽しいと思うことをやって、この町の価値を見直していきたい」。町のことは自分ごと。自ら率先して楽しもうという気運が、とても清々しかった。

町を流れる水路の源流、緑川をたどって奥へ。山あいの美しい宮内地区に暮らす佐藤直樹さんは、地域に伝わる雨乞いの踊り「ボシドラ」を屋号に用い、山村の暮らしを実践して伝えるひとり。「代々受け継がれてきた、じいさんたちが知っているいろんな知恵が、ただ忘れられていくのはもったいない」と、地元の人たちと炭焼きをしたり、鰻をとる道具づくりから教わったり。猟師で農家だが、災害時などに役立つからと、41歳の今動けるうちは林業に注力しているという。「今までの年寄りと一緒のことをやってもだめで、違う世代の人の新しい取り組みが必要」。佐藤さんは美しい風景や知恵、道具などの写真にひと言を添えて「ボシドラ農園」のウェブページで発信する。わが町は尊い。古くて新しい取り組みに見惚れてほしい。






尊い町をどうつくろう? 共鳴の旅へ
「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 熊本 甲佐・宇城」
2022年3月26日(土)・27日(日)の週末に開催
甲佐と宇城への旅の狙いは、参加者が自身の生まれた町・暮らす町のよさを再確認し、よりよくするための学びです。1日目は、甲佐の町の散策と町の人とのふれあい、宇城の皆さんも交えた交流会で宵のひとときを過ごし、キャンプ場「COMMON IDOE」で1泊します。翌日は道中「PLAY FARM」で農場遊びを楽しみつつ、町の改革に挑む人々が大切に育てているデコポン目当てに、自転車で宇城の海を目指します。
「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン in 熊本 甲佐・宇城」の詳細・参加申し込みは、PAPERSKY ツール・ド・ニッポンのページをぜひチェックしてください!