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Tour de Nippon

ニッポンの魅力再発見の旅
千葉・木更津

千葉県の県南は三方を太平洋や東京湾に囲まれた房総半島で、景勝地も多い豊かな自然の宝庫だ。その半島の入り口にあたる内房エリアの木更津市は、神奈川県と東京湾アクアラインでつながっていて、思い立ったらわずか30分という近さに、首都圏からほど近い観光地として人気が高い。訪れてみるとその驚くべきアクセスの良さに加え、対岸に東京を眺めながらホッとできるひととき、地域の恵みや人のぬくもりに感服しどおしだった。さて、街からすぐそばにある自然豊かな町への特別な旅へまいりましょうか。

03/30/2021

食と農と人と。命のめぐりを感じる大地の旅へ

木更津の市街地から20分ほどの里山へ向かう。目的地にようやく到着する少し手前で、車だとすっと過ぎてしまいそうな丘越しに空が広く抜けた。丘の向こうを覗くと、視界のぜんぶに夢のようなフィールドが飛び込んできた。自然に抱かれた30haもの敷地に広がるサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」だ。ダイナミックで穏やかな、彩り豊かな大地の風景は、足を踏み入れる前からすでに気持ちがいい。森や池や広場では子どもたちが遊んでいて、建物建築や散りばめられるアートを見てめぐるだけで楽しめるから、遠方からご近所から、訪れる人は気ままに散策を楽しんでいるようだった。

この場所は、音楽プロデューサーとして活躍を続けながら、環境や食、農業を取り巻く課題へ行動をしてきた小林武史さんが、これからの消費や暮らしのあり方を提案する長年の構想の形だ。もともと牧場だったこの地で10年前に農業法人を立ちあげ、「次の世代にも使い続けられる農地」を目指して開墾と土づくりに着手。有機野菜の栽培と平飼い養鶏を9年以上続け、2019年11月に開場した。

7haもの畑すべてで有機JAS認証を取得し、多様なオーガニック野菜を場内のダイニングや自家培養酵母で生地を作るベーカリーで提供している。木更津市は〈オーガニックなまちづくり〉を打ち出している。その象徴ともいえるこの場所がみごとなのは、フィールドにあるどれもが関わりあって共生していることだろう。

お店で出る野菜くずなどは、腐葉土や落ち葉と一緒にミミズが分解し、有機肥料にして再び農地に利用する。排水は、柳や水草などが水質を浄化して場内を流れる小川になる。水牛やヤギの乳からチーズを作り、近隣にジビエの解体処理場を設け、場内でハムやベーコンに加工する。新鮮な卵はシフォンケーキやお菓子に生かされ、動物の糞は堆肥舎で堆肥にする。これほどまで食と農と命の循環が可視化され、驚きと学びに満ちているのだけど、とかく食べるもののおいしさにお腹も心も幸福で満たされる。

前職から養鶏に転向したという石川雅史さん会いに行くと、平飼いする純国産の鶏1,500は元気に跳ね、米や麦、おからなどを混ぜて作る自家製の発酵飼料をついばむ。日本でこれほどおいしいモッツァレラチーズがいただける!そんな驚きとともに丸ごと頬張るチーズは、飼養から一貫して担う竹島英俊さんの手によるものだ。本場イタリアで修行を積み、各地での飼養経験を経て、このクルックフィールズに家族で飛び込んだ。

〈食べること〉をとおして命の循環を感じ考えて触れる。どこにもない、まだこの木更津にしかない、未来の持続可能な命をめぐるシンフォニーは、訪れる人を介して他の土地へも響き渡っていくのだろう。

PAPERSKY TOUR DE NIPPON
PAPERSKY ツール・ド・ニッポンは、「日本の魅力 再発見」をテーマに、PAPERSKYが企画・提案するツアープロジェクト。その土地の魅力ある文化、暮らし、自然、食、そしてそこに暮らす人々との出会いを求めて、自転車に乗って日本各地を旅しています。