食と農と人と。命のめぐりを感じる大地の旅へ
木更津の市街地から20分ほどの里山へ向かう。目的地にようやく到着する少し手前で、車だとすっと過ぎてしまいそうな丘越しに空が広く抜けた。丘の向こうを覗くと、視界のぜんぶに夢のようなフィールドが飛び込んできた。自然に抱かれた30haもの敷地に広がるサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」だ。ダイナミックで穏やかな、彩り豊かな大地の風景は、足を踏み入れる前からすでに気持ちがいい。森や池や広場では子どもたちが遊んでいて、建物建築や散りばめられるアートを見てめぐるだけで楽しめるから、遠方からご近所から、訪れる人は気ままに散策を楽しんでいるようだった。
この場所は、音楽プロデューサーとして活躍を続けながら、環境や食、農業を取り巻く課題へ行動をしてきた小林武史さんが、これからの消費や暮らしのあり方を提案する長年の構想の形だ。もともと牧場だったこの地で10年前に農業法人を立ちあげ、「次の世代にも使い続けられる農地」を目指して開墾と土づくりに着手。有機野菜の栽培と平飼い養鶏を9年以上続け、2019年11月に開場した。
7haもの畑すべてで有機JAS認証を取得し、多様なオーガニック野菜を場内のダイニングや自家培養酵母で生地を作るベーカリーで提供している。木更津市は〈オーガニックなまちづくり〉を打ち出している。その象徴ともいえるこの場所がみごとなのは、フィールドにあるどれもが関わりあって共生していることだろう。
お店で出る野菜くずなどは、腐葉土や落ち葉と一緒にミミズが分解し、有機肥料にして再び農地に利用する。排水は、柳や水草などが水質を浄化して場内を流れる小川になる。水牛やヤギの乳からチーズを作り、近隣にジビエの解体処理場を設け、場内でハムやベーコンに加工する。新鮮な卵はシフォンケーキやお菓子に生かされ、動物の糞は堆肥舎で堆肥にする。これほどまで食と農と命の循環が可視化され、驚きと学びに満ちているのだけど、とかく食べるもののおいしさにお腹も心も幸福で満たされる。
前職から養鶏に転向したという石川雅史さん会いに行くと、平飼いする純国産の鶏1,500は元気に跳ね、米や麦、おからなどを混ぜて作る自家製の発酵飼料をついばむ。日本でこれほどおいしいモッツァレラチーズがいただける!そんな驚きとともに丸ごと頬張るチーズは、飼養から一貫して担う竹島英俊さんの手によるものだ。本場イタリアで修行を積み、各地での飼養経験を経て、このクルックフィールズに家族で飛び込んだ。
〈食べること〉をとおして命の循環を感じ考えて触れる。どこにもない、まだこの木更津にしかない、未来の持続可能な命をめぐるシンフォニーは、訪れる人を介して他の土地へも響き渡っていくのだろう。