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希少な黒糖焼酎の伝統と革新を行き来する

奄美大島・富田酒造場

 

12/09/2022

奄美のお酒といえば、黒糖焼酎だ。米軍統治下にあった奄美群島が日本に復帰したのが1953年。その時に酒税法の特例通達によって、全国でも奄美群島にだけ製造が認められた希少な酒である。現代も製造するのは、奄美群島に点在する27の蔵元のみ。それぞれの蔵元が工夫を注ぎ込んで造る黒糖焼酎は、実に多彩だ。

奄美大島一番の繁華街、名瀬の屋仁川通りからほど近く。名瀬の街並みと海を一望するらんかん山の麓にある蔵元が、1951年に創業した富田酒造場である。その立地から増改築が難しく、奄美群島にある蔵元のなかでも規模は最も小さい。だが、数多のこだわりとともに生み出される黒糖焼酎は、代表銘柄の「龍宮」をはじめ格別の味を誇る。

こだわりのひとつは、昔ながらの甕仕込み。黒糖焼酎の製造では、一次仕込みに米麹、二次仕込みに黒糖を使うのが特徴的だが、通常は大きなタンクで発酵させていくのが一般的だ。しかし、富田酒造場では1次仕込みの際、地中に埋めた大きな甕を使う。4代目の富田真行さんはその理由をこう話す。

「もともと祖父の代から使っていた甕を使い続けるという選択をしてきた結果、それが味の特徴にも貢献するようになった。台風や雨風が多いエリアなので、黒糖焼酎の蔵元はうちを含めほぼ鉄鋼づくり。木造が多い日本酒の蔵元と違い、蔵つきの酵母が住みつきづらい環境なのですが、甕を使うことでそこに蔵独自の酵母菌が住みつきます。70年間ずっと同じ甕を使い続けているので、他の蔵では出せない独自の味になるんです」

ほかにも、こだわりは枚挙に暇がない。たとえば、焼酎製造では一般的に白麹を使うが、在来菌で野性味が強い黒麹菌を使用。また、お米が本来持つ味わいや奥行きを重視し、鹿児島県産のうるち米を麹米として使っている。タイ米を使うのが一般的である黒糖焼酎づくりにおいては、これもまた独特なチョイスだ。

「焼酎といえば、芋や麦から入って最後に辿りつくのが黒糖焼酎みたいに位置づけられていますが、柔らかくまろやかな味わいの黒糖焼酎は、本来、焼酎という括りで見たとき、ライトユーザー向け。焼酎が苦手という人でも黒糖焼酎なら飲める、という方も多い。本当は、入門編としてもっと広く楽しんでもらいたいですが、認知度が低いのはこのエリアでしか作れないという縛りも要因じゃないかと思っていて。個人的には規制をなくして切磋琢磨した方が、結局、黒糖焼酎のためにもなると思うんですけどね」

蔵の一角には、長期熟成の古酒も。樽で熟成する黒糖焼酎は香り高く、複雑で豊かな味わいとなる。ただし、熟成して色の濃度が基準を超えると、酒税法上の分類がスピリッツ扱いになり、焼酎として出荷することができないという。つまりは、非売品という訳だ。

「熟成させることで深みを増した黒糖焼酎は、洋酒にはない奥行きが出ます。色基準の規制がなくなれば、黒糖焼酎の可能性はもっと広がる。今は日の目を見ませんが、いつか撤廃が実現する時に備えて、実は年間1、2本ずつ樽を増やしているんです」

色基準を超えない程度に原酒を樽で熟成させ、限定販売しているのが、アルコール度数40度の「龍宮 琥珀」だ。ほのかに甘い樽香とスパイシーな味わいがクセになる美味しさ。未来を見据え、進化を厭わない蔵元のこだわりがつまった逸品だ。

富田酒造場
鹿児島県奄美市名瀬入舟町7-8
TEL:0997-52-0043


PAPERSKY no.66 | AMAMI ISLAND LISTEN
さまざまな音、声に耳を傾け、多様な奄美を感じて巡る旅へ。旅のゲストは、画家で絵本作家のミロコマチコさんと染色家である金井工芸の金井志人さん。
text | Yukiko Soda photography | Yayoi Arimoto