Section 4 東京大学〜浅草(10km)
下町風情と文化の薫りが交錯する
江戸時代に築かれた武家屋敷やその名残りを留める界隈に別れを告げ、谷根千方面へ。セクション4で歩くのは本郷から続く下町エリアだ。セクション3の小石川周辺を「武士のまち」とするなら、江戸時代、根津神社の門前町として栄えた根津は、いわば「庶民のまち」の代表格。古い木造家屋や古民家が立ち並び、江戸時代から受け継がれた町割りがそのまま残る細い路地に、独特の下町文化が醸成されている。明治時代の文豪たちもそんなカルチャーに魅力を感じていたようで、夏目漱石、森鴎外らがこの一帯に居を構えていたことはよく知られている。



このエリアでは、生活感のある路地に飾られている普段着の木々の表情を楽しもう。たとえば、住宅や店舗の軒先には、思い思いの木を植えたプランターや鉢植えがずらり。こうしたグリーンをきっかけに地域住民のコミュニケーションが育まれているというからおもしろい。その代表格が、谷中のシンボルツリーとして知られるヒマラヤスギ。もともとは「みかどパン店」の初代店主が小さな鉢植えで育て始めたもので、地域の人々が大切に守り育み、100年という歳月を費やして樹高20mの大木に育て上げたという。

ヒマラヤスギを後にして上野公園に向かう。周囲の景観も、なつかしい下町風情から自然と文化が交錯する「上野文化の杜」のそれへと移り変わっていく。ここは江戸時代、東叡山寛永寺の敷地として広大な自然を有していた上野の山の一部。明治時代になると日本を代表する文化施設が次々と建てられ、近代化の中心地として発展してきた。そんな歴史の移り変わりを飄々と眺めるのが、上野東照宮の御神木のオオクスノキである。幹のなかには野生のタヌキが棲んでおり、推定樹齢は600年! 1651年の東照宮創建以前から今の姿で立っているという。空襲にも震災にも負けず600年を生き抜き、今なお生き生きと枝を延ばす大木の前に立てば、日々の悩みや迷いなんて取るに足らないこと、そんなふうに思えてくるからありがたい。



■Tree Spot
・根津神社
・谷中ヒマラヤスギ
・長昌山 大雄寺
・東叡山 寛永寺
・東京藝術大学
・上野恩賜公園
・上野東照宮