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Tokyo by E-bike

多摩湖への小さな自転車旅

世界で最も公共交通機関が発達している都市、東京に暮らすジェイムズのアパートの60%は、自転車と自転車のパーツで占められているという。彼は自転車に夢中だ。ジェイムズのE-bike Tripの様子を覗いてみたら、彼の熱烈な自転車愛と、東京で自転車に乗る楽しさがひしひしと伝わってくるはず。今回はその第1弾。多摩湖への小さな自転車旅について。

03/30/2023

今日は布団を干すのにうってつけの日だ。寒さにピリッとするけど、お日様が顔を出していて、誰もが今日こそが布団を干すべき日だと思っているに違いない。

朝8時にベッドを抜け出すと、僕はiPhoneも持たず、自転車にも乗らずに(今回初めてのことだった)、地元のパン屋さんのオパンに向かった。朝一番に焼きあがったオパンドッグはすでに売り切れだろうが、あたたかいパン、ジューシーなソーセージ、酸っぱいザワークラウトのことを考えると、家を飛び出さずにはいられなかった。

僕はオパンドッグをテイクアウトして、家で手早くコーヒーを淹れ、お気に入りのキュウリの柄が描かれたマグに注いだ。長距離のサイクリングに向かう時はしっかりとお腹を満たしておくことが心身ともに重要だ。僕はオパンドッグを平らげると、今日の道中で最初に食べる食事のことを考え始めていた。

今回はBESV PS1でサイクリングに臨むことにした。ハンドルに取り付けられているスクリーンでオプションをチェックしながら、サドルを一番高いポジションまで引き上げた。僕が他に所有している2台の自転車は、このBESVのE-bikeと違って、流線型の細身のタイプのものだ。でも、2台ともサスペンション機能がないし、競輪用のバイクにはギアがなく、フリーホイール機能が備わっている。PS1に乗ると、サスペンション機能と頑丈なタイヤの感触が瞬時に伝わってきて、今日はライクラ素材のパンツを履かなくてもいいと思うと気が楽になった。

家から吉祥寺を目指して、西に向かって走り始めた。サイクリングの最初の行程は、ちょっと大変だった。坂道や、くねくねした道が続いたことは、僕にとっては大したことではなかったが、車の往来が多い、真っ直ぐで長い道は、興味を惹くものがまったく見当たらずに、かなり退屈してしまった。たぶん、何か見るべきものがあったのかもしれないが、僕が自転車道にたどり着くまでに興奮し過ぎていたせいかもしれない。

やっと自転車道に行き着いた。老人が毎日のルーティーンらしきラジオ体操をしている。まずは腕を上に挙げて、腰を左から右へ回し、体を折り曲げて、つま先に両手をつけて、体を後ろに反らす。その後は、お馴染みの運動と、ちょっと変わった運動を織り交ぜながら、野球選手の投球フォームをそのまま真似た動きを7回繰り返した後で、ウォーキングを開始した。この一連の動きに刺激されながら、僕もそろそろ自転車道を走り出す準備が整った。

自転車道は綺麗に舗装されていた。車と並走する緊張から解き放され、グーグルマップを気にしたり、排気ガスに悩まされたりすることがない道を走るのは快適だった。聞こえてくるのは、自転車を漕ぐ音と、時折、耳に入る通行人の話し声だけ。でも、この自転車道は、とても活気がある。

左右に小さな農園、家屋、カフェがあり、農園の前の道端では野菜が無人販売されていた。 

無人販売コーナーを2,3軒物色していると、外から野菜が見えるガラス窓を施したコインロッカーを使って野菜を売っている農園があった。ここにもテクノロジーの進化が見られる。ロッカーの中を見ると、上から下までブロッコリーが入っている。価格は上から順に50円ずつ高くなっていて、下に行くほど、ブロッコリーの房はたわわになっている。バックパックにはあまりスペースがないので、ブロッコリは諦めて、ランチを調達できそうな場所を目指した。

その時、一見、パッとしないお店に出くわした。と言うか、これはお店ではなくて、家なんだろうか?と僕は思わずつぶやいた。自転車道に面した場所にあり、入り口に数人が並んでいた。お店で働いている少し年配の女性2人はお客さんを全員把握しているようだった。と言うのも、お客さんの誰もが注文をしていないからだ。女性の1人がお客さんの名前を呼んで、お弁当を手渡してくれるまで、みんなじっと待っていた。ここは都心からわずか1時間の場所であるにも関わらず、なんとなく僕はおどおどしてしまい、都会づれした人がいるべきではない場所に来たような居心地の悪さを感じていた。でも、驚くべきことにお店の人は僕を温かく迎えて入れてくれて、メニューを手渡してくれた。メニューは7つだけ。僕はお弁当とお饅頭をゲットするとバックパックに吊るして、多摩湖に向かい、お弁当がまだ温かいうちに早く到着したいと思いながら、自転車を走らせた。

正午までに到着して、湖の水面を見た途端に、自分の中でリセットボタンが押されたような気持ちになった。僕は東京が大好きだ。でも、セブンイレブン、ビルボード、建物が街に溢れ、人があまりにも多すぎて、何もない、広大な地平線を見ることがほぼ不可能なことは残念なことだ。遠くには、富士山の輪郭がうっすらと見えるが、僕のカメラではうまく撮れない。僕の隣には、飼い犬と同じくらいのサイズのレンズを装着した一眼レフカメラを携えた男性がいた。彼のカメラでは、絶対に僕が捉えられないものが撮れるはずだ。

小さな丘を登っていくにつれて、彼のずっしりと響くシャッター音が遠ざかってきた。ほどなくして、お弁当を食べるのにうってつけの場所を見つけた。富士山と湖を見渡せる場所に背の低い仏塔が立っている。お弁当のふたを開けると、瞬く間にカラスの注目を浴びることとなった。お弁当はたっぷりのライスと串カツ、野菜が詰まっていた。僕はこの野菜は地元で採れたものかを聞いておくべきだったと後悔した。簡素で、実直な内容のお弁当だった。ざっくりと目分量で盛り付けられていることにも好感が持てる。絶対にコンビニではお目にかかることがないお弁当だ。

お腹が満たされた僕は、折り返しした地点を見失わないように気をつけながら湖を迂回した。湖の南側にはかつて路面電車が走っていて、当時のトンネルが自転車道用に再利用にされたとインターネットを見て知った。

トンネルは短くて暗かったが、走っていると、インディ・ジョーンズのトロッコのシーンを思い出した。4つ目のトンネルを抜けると、茂りすぎた芝生と防護柵が唐突に目の前に広がった。僕は来た道を戻り始めた。最初のトンネルを再度抜けると、裏通りを走ってみることにした。

裏道から、湖の中心部に位置する自転車道に再び戻り、笹塚に向かって走りながら、僕は最後に立ち寄るお店を考え始めた。僕の頭の中はキンキンに冷えたビールで一杯だった。よく運動した1日を締めくくるビールとしては、沖縄のオリオンビールが理想的だ。このビールは、沖縄の気候を考慮して作られたアメリカ風の飲みやすい味わいだ。今日は、沖縄の気候とはまったく違う日だったが、喉が渇いていたので、代田橋の沖縄タウンにある、しゃけ小島に立ち寄ることにした。この店は僕の自宅から徒歩6分くらいにあるので、一旦自転車を家に置いてから、心置きなく飲むことができるのだ。

ビールをすすりながら、焼き鮭をゆっくりとつまみ、僕は今日1日のことを手帳に書き込んでいた。振り返れば、今日1日で楽しかったことは自転車を使った小旅行だからこそ、経験できたことだった。そう、気分次第で気軽に路線を変更したり、立ち寄る場所をその都度決められる自由さがあるからこそ、自転車の旅は特別なのだ。小さな農園と、進化したコインロッカーを使った野菜の無人販売、シンプルでざっくりしたお弁当、犬と同じサイズのカメラレンズ………楽しい光景が次々と頭に蘇ってきた。

STRAVA MAP | TOKYO BY E-BIKE
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text & photography | James Koji Hunt