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The Forest of UGG in Tenkawa

未来へつなぐ、天川村の森づくり

 

02/14/2023

森にも必要とされる、多様性

目的地が近づくにつれ、木々の緑は深さを増し、空気も透明度を増していく感覚があった。紀伊半島の中央部に位置する、奈良県天川村。4分の1ほどの面積が吉野熊野国立公園に指定されていて、近畿最高峰の八経ヶ岳を擁する大峰山脈が連なり、そこから流れ出す恵みの水は名瀑や湧水群となって村を潤している。

山々に囲まれ、ときに厳しさを見せる自然環境はこの地を秘境化し、約1,300年前に役行者によって開かれた修験道発祥の地として知られる大峰山には、今も多くの修験者が訪れる。そんな太古の姿をとどめているように思える土地でさえも、森の景色は時代とともに変わってきている。現在64歳の車谷重高村長は、子どものころの森の記憶をこう振り返る。

「今見えている山の木々はまだ小さく、ほとんどが10〜20年生くらいでした。村の人たちの多くは山に関わった仕事をしていましたが、当時の植林といえばスギやヒノキ。昔は女性も苗木をたくさん入れたカゴを背負って、肉体労働をしたものです」

植林のスポットまで斜面を登る

天川村に限らず、日本の森は戦中の軍需物資や戦後復興のために乱伐。成長が早く、建築用木材としても価値が高い、スギやヒノキなどの針葉樹を植える「拡大造林政策」で、人工林が激増した。そして現在、山間部の多くは一見してわかるくらい、針葉樹に覆い尽くされている。そういった点に着目しながら、日本各地で地域の特性を活かした「多様性のある森づくり」を展開しているのが、音楽家の坂本龍一氏が代表を務める森林保全団体「more trees」だ。事務局長の水谷伸吉さんは、天川村との出会いを次のように語る。

「台風の通り道にある紀伊半島は、森をきちんと整備しないと土砂災害につながるという危機意識が、他の地域より強いと認識していました。僕らもそのお手伝いができればとアンテナを張っていたところ、2年ほど前、天川村で収穫期を迎えて伐採したままの土地があり、植林したいがその費用が捻出できず困っているという話をお聞きしたのです」

そして昨年、more treesとパートナーシップを締結して、天川村に誕生したのが「UGGの森」。今年9月には、同ブランドを展開するデッカーズジャパンの社員総勢58名が参加して、植樹体験が行われた。

苗木3本を1組に密植する「巣植え」
キハダの苗木を植える、デッカーズジャパンGMの伊藤さん(右)
苗木を植えたばかりの土を踏み固める

「昨年に続き、2度目の植樹になりますが、苗木の育て方や植樹の方法も進化していて、村の人たちも試行錯誤しながら森づくりをしていることが伝わってきました」

と話すのは、デッカーズジャパンGMの伊藤輝希さん。急斜面に広がるUGGの森に植えられたのは、日当たりがよく水はけのいい土地を好む「キハダ」という広葉樹。じつはこのキハダは天川村のなかでも、特に植林が行われている洞川地区において、なくてはならない存在といえる木。昔ながらの風情を残す洞川温泉街を歩くと、「陀羅尼助丸」という看板をそこかしこで見かけるのだが、その原材料にキハダが使われているのだ。陀羅尼助丸はこの地に伝わる和漢胃腸薬で、一説によると役行者が大峰山のキハダを用いてつくったのが起源とされている。山ごもりの厳しい修行をする山伏たちはこの薬を持ち歩き、大峰山修行の門前町である洞川温泉街では、今なお伝統が受け継がれているのだ。

陀羅尼助丸のつくり方は、とてもシンプル。キハダの黄色の樹皮(内皮)は黄柏という生薬として用いられるのだが、これを煮詰めた飴状のエキスだけを昔は竹の皮に挟んで板状に固めたのに対し、今はゲンノショウコなど数種の生薬をこのエキスでコーティングした丸薬が主流となっている。

「細かく刻んだキハダを大きな釜で煮詰めている光景を、子どものころによく見かけました。そのときのにおいを嗅ぐだけで効き目がありそうなくらい、独特のにおいが印象に残っていますね」(車谷村長)

伝統的な和漢薬、陀羅尼助丸
清流に棲むカエルの名を取った「かじかの滝」


キハダを復活させることの意味

陀羅尼助丸は今もここ天川村でつくられているが、スギやヒノキの人工林が増えた結果、キハダの姿が減り、近年は他の地域からの原料を購入し製造している。ゆえに、UGGの森にキハダを植えることは、広葉樹林を復活させるだけでなく、村のアイデンティティーといえる陀羅尼助丸を、正真正銘の村の特産として蘇らせることを意味する。

「“適地適木”という言葉があるのですが、和歌山なら紀州備長炭の原料になるウバメガシ、北海道はシラカバなど、専門家の意見を聞きながら土地に適した木を植栽しています。その点でもキハダは、天川村の人たちにとって身近な木。単に森をつくるだけでなく、地域の歴史や産業にも木は欠かせないという実感がもてるのも、天川村の森づくりの特色といえるでしょう」(水谷さん)

「森づくりは関係人口づくり」と話すmore treesの水谷さん
キハダの断面

3本1組で密植させた苗木は1組ずつ獣害対策ネットで囲い、最終的に1本を残して、より大きな木に成長させる。さらに下草刈りなどの管理や生育調査など、自然に近い森に育てるための仕事もこのプロジェクトをとおして地域に創出している。

「お金を寄付するだけのサポートもあると思うのですが、実際にここに来て地域の人とお話すると、見えてくることもたくさんあります。都市にいるだけでは想像できない、いろんなサポートの仕方があることに気づかせてくれるんですよね」(伊藤さん)

「森づくりをとおして日常に気づきが生まれたら嬉しい」と車谷村長

「企業さんにとってもこういった取り組みは、森づくりをとおした来村で、村の人々と交流し、山村という人間社会の原点を体感していただけますので、より良い企業づくりに役立てていただけるのではないかと思っています。村の人々も都市の企業さんとのつながりをとおして、社会貢献や地域愛の意識が向上しますので、こうした機会をいただいて大変感謝しています」(車谷村長)

キハダの苗木が陀羅尼助丸の原料として活用できるのは、20~30年先。そのとき天川村には、どんな景色が広がっているのだろう。未来の“変わらない”景色をつくるのは、今というバトンを握る私たちの役割だ。





more treesとのパートナーシップにより2021年8月に始動した、奈良県天川村に「UGGの森」を育てる活動。UGGで販売するサステナブルコレクションの日本での売上の一部を寄付し、天川村での「多様性のある森づくり」のプロジェクトの一環として、広葉樹を中心とした森づくりを継続的に支援。植林や獣害対策に加え、森林や地域のコミュニティを大切にする活動を目指している。
TEL:0120-710-844 www.ugg.com/jp