きびしい寒さの中で飼育される競走馬
「ばんえい種」を育てる農場を訪ねて

 

01/21/2021

北海道の釧路郊外にある鶴居村で、田中さんの一族は80年にわたり、農耕馬の飼育を営んでいる。北海道の南東に位置するこの地は、ヨーロッパの最北端の気候とほぼ同等の寒冷地で、人が生活するにはあまりにも厳しい環境だ。 

北海道の他のエリアに比べれば、この村の降雪量は少ないものの、真冬の寒さはどこよりも厳しい。田中さんたちが飼育している馬は、「ばんえい種」と呼ばれており、元来はヨーロッパの農耕馬。冬でも2層の毛が生えて、体温を高めにキープできる上に、雪、根や草を食べて生き延びられる強靭な馬である。

田中さんの父親は、一家が兵庫県で経営していたレストランが焼失したため、屯田兵として北海道に移住することになった。当時の農場では、バッファロー、羊、山羊、アヒルなども飼育されていた。88歳となる田中さんは、今も28頭の馬と畜牛を育て、来年には、さらに9頭の仔馬も生まれる予定だ。

北海道の開拓は、1869年に最初の屯田兵が本州からこの地に移住したことから始まった。彼らは、ロシアや先住民であるアイヌの文化を受け入れながら、新天地で苦労を重ねながら、懸命に生きてきたのである。

この地の気候は、住人の気質にも影響を及ぼしているようである。彼らは、自然の脅威をよく理解しているし、本土で暮らしている住人たちよりも忍耐強い印象だ。寒さを表現する北海道独特の言い回しを作り出してしまうあたりにも、彼らのたくましさが感じられる。 

ばんえい種は食用とすることもあるが、主に「ばんえい競馬」という北海道独自の競技用に飼育されている。「ばんえい競馬」とは、最高1トンの重量をのせた鉄そりを馬に曳かせ、起伏が激しい直線コースで競うレースだ。レースといっても、ペースはゆっくりで、観客がレーストラックの脇を歩きながら観戦できるほどのスピードである。

かつては、北海道の全地域で「ばんえい競馬」の競馬場が存在したが、現在はさまざまな理由から、競技は帯広競馬場のみで開催されている。「ばんえい競馬」は、もともと農夫たちの余暇に生まれたもので、馬の強さとその価値をはかるために、2頭の馬を互いに引っ張り合わせ、綱引きのように競わせることから端を発している。その後、次第に現在の形に発展し、田中さんはこの競技に約50年間かかわり続けているのだ。

華やかな時代とはほど遠いものになってしまったが、田中さんは今もなお馬の飼育に情熱を注いでいる。これまでの田中さんの軌跡を知らない人は、怪訝な顔を浮かべるかもしれないが、成功を収めた人生であると田中さん自身は思う。父親が遺した農場の借金の返済も終わり、この農場では自分の思い通りのことがのびのびとできるのだ。決して楽な仕事ではないが、彼はどんな時でもこの仕事にやりがいを感じている。