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日本列島を貫くロングトレイルをつくる

若岡拓也

 

07/04/2023

山を走ること、地図にないルートをつくること。どちらも、とてもクリエイティブで、楽しい遊びだ。だから、日本列島を貫くロングトレイルをつくることにした。

僕は山が好き、走ることが好き、地図を眺めるのも好き。そして、旅も好きだ。それらの要素を一つにまとめた挑戦である。

スタート地点は北海道・知床の羅臼岳。そこから鹿児島の開聞岳を経て、沖縄までをたどる。全長は5,000km前後、フルマラソン約120回分ほど、登りの総計は富士登山100回分を超える。日本列島がいかに長くて、山岳地帯の多い国なのかが分かる。

期間は7月15日から9月末まで、雪山の装備がいらないから、ずいぶんと軽量になり、簡単だ。

始まりは、たわいもない会話からの思いつきだった。

「日本には国を貫くような長いトレイルはないの?」

海外の友人からの素朴な疑問の声に、返事をためらった。そういえば、日本にはない。

どうしてだろう。好奇心が駆り立てられた。理由を考えるよりも、ないのなら、つくってみよう。きっかけは、いつだってシンプルだ。考え込む前に、体を動かしたくなる性分である。

2年前には「日本山脈縦走」という1冊の本に書かれていた60年以上前の縦走隊の記録をもとに、本州を縦走するルートを自分の足で踏破した。2カ月にわたり、1日60km前後、富士登山1回分の登山を毎日こなすのが日課だった。キツいと思うことはあっても、楽しくて幸せに感じる時間を過ごせた。

険しい登りを終え、山頂から景色を眺める。美しい稜線が伸びていた。どこまでも続くトレイルだ。この道をどこまで行けるのだろうか。考えただけで心が躍る。

そして、答えを見つけるために歩を進める。今よりも、もっと遠くまで。

踏破するという目標は、走り続けるうちに、当初よりも重要なことではなくなった。走ること自体が喜びになり、幸せを感じていた。体力的な苦しみを超えた充足である。刻一刻と変わりゆく自然の表情、固有の文化や歴史、人との出会いに恵まれ、掛け替えのない日々の連続だった。

各地にある素晴らしい山々をつなぎ、1本の道としてつなげる。踏破して終わり、道をつくって終わりではない。その後、誰かがたどってくれて完成する。登山道と成り立ちと同じだ。多くの人が行き来するから、登山道は踏み固められて続いている。その点では、この挑戦も僕個人のものではなく、多くの人と分かち合えるものだ。絶えることなく踏まれ続け、100年先まで続けば、最高に面白いはずだ。もちろん、そんな未来のことは見届けられないが、トレイルと個々人の無数のストーリーが続くとしたら、考えただけでも楽しくなる。

そうそう、僕は山岳を走るランナーのかたわら、ライターとしても活動している。今回の日本列島を縦走するプロジェクトを通じて、各地の山々を走り、見聞きしてきたことを伝えていきたい。

長い旅路になる。ヒグマ、真夏の暑さ、山の事故、台風、大雨。さまざまな出来事が道中で待ち受けていることだろう。すべてを紹介することは難しいが、こうして読むことを通じて、一緒に旅してもらうことができたら、ライター冥利に尽きる。

若岡拓也 Takuya Wakaoka
1984年生まれ、金沢市出身の元新聞記者。2014年に退職後、ブラジルの密林を1週間かけて250km走るステージレース「ジャングルマラソン」に出場。食糧や衣類などの荷物10kgを背負ったまま、ジャングルを駆け抜け、完走を果たす。ライターを兼業しつつ、白山ジオトレイル2017 優勝、Mauna to Mauna 2017 3位入賞、4 Deserts Grand Slam 2018の完走など、国内外問わず活躍。著書に『シャングルを走った話。』。
wakaoka-takuya.com

日本列島縦走プロジェクト
若岡さんが挑戦するこちらのプロジェクトでは活動資金の提供(協賛)、現地サポート(伴走、車での飲食物の補給・物資の運搬等)を募集しています。