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Outdoors & Design 06

アナ・グロンキャ・イエンセン

夕食をともにしながら、ゆるくつながるコミュニティー

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

09/21/2022

「私は、自然、コミュニティー、そして自分自身にとって、最適な食べものを選びたいと思っています」



僕は人里離れた母屋に滞在していた。そこは、野原、山々、そして、アルコールと煙草くらいしか売ってない、古びたコンビニがあるだけの場所だった。だが、そう思っていたのは、「コーヒーロースター」というキーワードで検索して、TAKIGAWARA CAFEを見つけるまでのことだ。このカフェで、僕はアナ・グロンキャ・イエンセンと出会い、彼女はそこに集う「風と土の民」のコミュニティーを紹介してくれた。そよ風に誘われながら、コーヒーを求めて、最果ての農家まで旅をしたら、コーヒー以上に素晴らしいものを発見することができた。

かつて、ある年老いた男性が、アナに「風土」について話したことがあった。彼は、この言葉を使って滝ヶ原の住民を2種類に大別していた。 

「土の民」は、土地に根ざした人たちで、その土地が自分自身の一部になっている。一方、「風の民」は、どこからともなく現れて、その場所に長居しない人たち。

アナが、TAKIGAHARA FARMのコミュニティーを「風と土の民」と呼ぶ理由が、今では理解できる。それは、この地を訪れる者と、居住者が集うコミュニティーディナーを見れば一目瞭然だ。彼らはお互いのストーリーや文化の違いを話しながら、そこで得た気づきを基にして、ライフスタイルをさらに豊かなものにしている。


「活気のある健全なコミュニティーには、風も土も大切。その土地の知恵と文化を掘り下げて、新しいアイディアと生活の仕方を取り入れるようにしないと」

その日、TAKIGAHARA FARMではコーヒーが飲めたことに加えて、さらに嬉しい発見があった。自転車で30分も走ると、日本の地方特有の生活スタイルとコンテンポラリーなデザインが混合されている風景が垣間見られるとともに、「地産のものを食卓へ」と称したくなる素晴らしいフードカルチャーがここにはある。カフェにとどまらず、僕は美しい造りのホステル、キッチン、ワインバー、ワークショップスペース、ガーデン、農場に目を見張った。 

ここに最初に来た時は、アナに会うことはなかった。おそらく、彼女から自己紹介を受けたのは2度目に訪れた時だと思う。彼女は、「こんにちは、アナです。前にどこかでお会いしましたっけ?」 と僕に尋ねてきた。彼女はここで開催されているTAKIGAHARA NATURE SCHOOLなどの活動について話してくれた。それからは、このエリアに来るたびに、ともかくTAKIGAHARA FARMに来ることを優先するようになった。

彼女と最初に会話を交わしたのは、2021年のこと。僕は、彼女と友だちになり、同時にコミュニティーを形成している少人数のメンバーとも仲良くなった。彼女は、NATURE SCHOOLでコミュニティーディナーを催すようになり、僕は彼女と何度か夕食をともにしながら、彼女のアウトドアライフ、そして、このようにユニークな人間関係をつなぐチャンスをどのようにして創出したかについてなど、さまざまな話題で盛り上がった。

TAKIGAHARA FARMに拠点を移すまで、アナは東京で暮らし、仕事もしていた。おそらく、青山のファーマーズマーケットはよく知られているので、行ったことがある人も多いかと思う。彼女はこのフードイベントのオーガナイザーの一員で、農家とコミュニケーションを担当したり、記事を書いたり、時には農作業を手伝うこともあった。東京での生活と仕事は面白かったが、ルールと縛りの多さには辟易することもあった。 


「滝ヶ原で焚き火をしようと思ったら、焚き木を集めて、火をつければいいだけの話で、思い立ったらすぐにでもできます。でも、東京で焚き火をしようと思ったら、許可を得て、焚き火ができる場所を見つけなくてはならないし、焚き木を集めるにもひと苦労です」



2020年3月、春の訪れとともに、草花が芽吹きはじめたとき、滝ヶ原を訪れた彼女は、ずっと探し求めていたものがここで見つかったと確信した。その後、7月にも再びこの地を訪れた際も、つややかな色合いの木々や若葉の中での生活に何とも言えない心地よさを感じていた。自分自身、そして、この土地が生き生きと輝いて見えた。彼女に活力を与えたのは、木々や植物なのか、もしくはこの地の美味しい空気なのか、それとも、もしかして、目に見えない、言葉で説明できないなにかなのかもしれない。ともかく、彼女は水を得た魚のようになり、東京での縛りの多い生活から、解き放たれた。

滝ヶ原を生活の拠点にすることを決意した彼女は、東京での仕事を辞めることにした。その後、まもなく、さまざまな場所のカルチャーや情報を深掘りするNATURE SCHOOLという集いをスタートした。自然の中で、コミュニティーとこの地球という惑星をつなぐことが目的だ。


「自然のルールを理解するためには、その場に身を置き、自分の五感をフルに使うことが求められます。自然の動きに、自分も合わせることです。共存することが大切なのです」



自然は私たちに常に好奇心を持ち続けることの大切さを教えてくれる。「一つとして同じ夏はありませんし、自然は常に変化しています」

自然は、私たちがいろいろな視点で世界を見ることができるように促してくれるし、どんな時でも私たちの感覚を研ぎ澄ましてくれる。自然の中にいる時、私たちが知覚する時間の感覚は異なるもので、数や時間割ではなく、植物の成長や動物の移動、水分の蒸発、激しい雷雨、光の変化、枯れた花々、朽ちていく食物を通して、時の移ろいを感じるようになる。NATURE SCHOOLは、このような経験を他者と共有しながら、学べるイベントだ。


「自然の中にいることで得られる感動はなんとも刺激的なものです。アリを食べることもあるし、おかしな色合いの葉っぱに目をやったり、山に登って、木の根っこを偶然見つけたり。自然は、何かの答えを示唆するものではなく、私たちのマインドを拡張する問いかけに溢れたものなのです」

今年(2022年)のはじめ、アナはゆるいスタンスでコミュニティーディナーという催しをスタートした。地元の人たちといろいろな場所から来た人たちが集って夕食を共にする会なのだが、実際にやってみると、この夕食会は、滝ヶ原に住む若い農業経営者、村のお年寄りたちと、この地を訪れるゲストたちがつながる場となることがポイントなのではと思うようになった。つまり、風と土の民がここで共に時間を過ごすことが大切なことなのだ。

最初の参加者は、5人くらいだったが、今では参加希望者も増え、ランダムに招待するゲストと合わせると、毎回かなりの参加者数となっている。この日も、現場のアドリブとマジカルな調理技術でディナーの準備が完了した。国籍、世代を超えた参加者全員がこの場に居合わせることに喜びを感じており、さまざまな話題で盛り上がっている。アナは、お互いが知り合いになる様子を見ながら、静かにカレーを食べていた。どうやら、この食事会は、自然にいい方向に向かっているようだ。


「私はいつでもありきたりではない人間関係を築いていきたいと思っています。自分とまったく違う考え方やバックグラウンドを持つ人と知り合いになりたいんです。強固で健全なコミュニティーが育成されていくためには、こんな、ありきたりではない人間関係がとても重要だと思うんです」



今では毎週日曜日に、いろいろな場所から3〜35人くらいの人が集まり、ともに調理して、食事をともにしながら、各々のストーリーをシェアしている。ゲストの人数を数えることは重要なことではない。Community Diner の本当のバリューは、このようなありきたりではないコミュニティーを成長させて、ともに人生のあり方に変化を起こすことだ。

季節に合わせて、メニューは、週単位で変更され、可能な限り、参加者の好みに合わせている。僕が気になったのは、現在の複雑なフードシステムの中で、アナが何か決まった栄養ガイドラインに従って食事を提供しているのかどうかだった。

「私は自然、コミュニティー、そして、自分自身にとって最適な食品を選んでいます。問題は、それをどう選択するかです」

あらゆるシチュエーションで、参加者全員にとって、どの食材が正しくて、間違っているのを判断することは不可能だ。彼女の経験と現状に基づいて、地元の旬の食材を知り合いから調達するのが一番理にかなっている。地産の食材を使うことで、私たちは農家、漁師、ハンターとダイレクトに関係性を持つことができる。その食材が私たちのバリューに沿ったものであるかを確認するために、いちいち食材のラベルをチェックする必要はないのだ。地消地産を実施することで、生産者を訪ねて、食材を実際に見て、匂いを確かめ、味わいことで、果たしてその食材を自分が欲しているものかを判断できるし、特に大切なのは、私たちの食卓に上がる食材を届けてくれる農家の方々と直接話す機会を得られることなのだ。


「毎朝、かならず自然に挨拶をするんです。起きると、まずは庭に出て、植物の様子をチェックして、必要ならば水をあげて、雑草を抜きます」



自宅の小さな庭の手入れをしながら、アナは毎週、村を散歩することにしている。何年間も村でたくさんの野菜を作り続けている農家の人と話をすることで、野菜や彼らの農場についての知識と同様に、コミュニティーの日常生活についての理解も深めることができる。毎日、少しずつ収穫したものを家に持ち帰って、地消地産の生活を実践している人たちの暮らしぶりをつぶさに知ることができるようになるのだ。

自然、そして、その周辺の素晴らしい生活環境、そこで暮らす人たちとの交流を通じて、風と土の民が増えていく。アナは、周りの環境をそっと進化させつつ、現在実施している食材のガイドラインもアップグレードしていくことだろう。「みんながお互いにいろいろ視点を持てるようになって、あらゆる人たち、そして、自然に対して、やさしい気持ちを持てるようになればいいと思ってます」

アウトドアとデザインをテーマにしたこの連載コラムのいつものお決まりの最後の質問をアナにしてみた。彼女にとって成功とはなんだろうか?

「いつでも生き生きとしていることです」

きっと、彼女はいつまでも、生き生きと輝き続けることだろう。


Find more about Anna, Takigahara Farm, Nature School and Community Dinner.
Homepage:  https://takigaharafarm.com/

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