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Star Atlas –街の星図を探して–

ふじのくに地球環境史ミュージアム

静岡編 vol.1

その土地に点在する魅力的なヒト、モノ、コトは、“星”に例えることができる。光の強さ、色、輝き方はさまざまな星たち。それらのストーリーを一つずつ紐解いていくことで、その土地だけにある「Star Atlas(星図)」を浮かび上がらせていく静岡編の第一回。

04/08/2022

“多様な自然に囲まれた静岡で、未来の豊かさを考える”


静岡県静岡市の駿河区にある「ふじのくに地球環境史ミュージアム」は、日本で唯一の「地球環境史」を主題とした自然系の博物館。「地球環境史=人と自然の関わりの歴史」ととらえて紐解きながら、100年後の未来の豊かさとは何かを一緒に考える場所だ。

廃校になった県立高校の校舎をリノベーションしていて、佐藤洋一郎館長にお話を伺った2階の図鑑カフェは元職員室。窓からは駿河湾や南アルプスを一望できる。豊かな自然環境に囲まれていることが、まさにこの場所に自然系のミュージアムがつくられたことにつながったという。

「静岡はちょうど日本の真ん中、文化的な多様性のおへそのような位置にあるので、いろいろなものが多様なんですね。東西に広いという多様性もあって、静岡の東の方に行くと自然の要素も文化的にも東日本で、西の方に行くと西日本なんです。そして富士山の頂上から駿河湾の深海の底までの高低差もものすごく大きい。そうした地理的な多様性によって、いろんな動植物がいるすごく面白い土地です」。

様々な自然要素がある静岡は、食材も豊富だ。2021年に2代目の館長となった佐藤さんは、稲作の起源や食文化研究の第一人者でもある。「地球環境史の長い時間軸の中に食を位置づけて、食を通してみんなで100年先の地球のことを考える場を提供する」というのが、取り組んでいきたい具体的なテーマの一つと話す。「博物館の標本とかにはあまり興味のない、全体の85%くらいの人たちの心にも届くためには、やっぱり身近なテーマが大事なんですよね。そういう点では食はすごくいいテーマだと思います。だって、食べることが嫌いな人はいないですよね」。

企画展「しずおかの酒と肴」では、酒や肴の原材料に焦点をあて、料理や醸造の背景にある生物多様性を紹介。2022年5月8日まで開催

立ち止まってじっくり見て、考えてもらうために解説の文字やラベルをあえて小さめにするなど、館内の展示方法にも工夫が凝らされている。疑問や質問があったら、各展示室にいるミュージアムサポーターのガイド班やスタッフの人たちが熱心に応えてくれる。博物館活動を支える研究員には、地面の中の小さな化石を探すような仕事をしている人、虫眼鏡でないと見えないような特別な虫の研究者など、極めてマニアックな人たちが揃っているそうだ。

展示を案内してくれた西岡佑一郎研究員は、「展示ケースもあまり使っていないので、近い距離で展示物をじっくり見られます。解説を読んで勉強してもらうのではなく、自分で考えて答えを出して、地球環境問題につなげていってもらえたら」と語る

何が面白いかのツボを押さえている人たちから、いきいきとした話を聞けるのがこのミュージアムならではの魅力だ。「これからの課題だと思いますけど、こういう展示の施設に一番求められているものはインタラクティブ、双方向性なんです」と佐藤館長は言う。

単に知識を得るためだけの場所ではない。例えば佐藤館長に100年後の豊かさについて尋ねても安易な答えを教えてはくれない。なぜなら、「生きてる人が何をするかによって未来は変わるので、100年後の未来は誰にも予測できない」からだ。

「100年先がどうなってるのかをこちらから言うだけじゃダメなんですよ。まだ誰にも答えが見つからないんだけども、そもそも今、世界はどうなってるのかということを、動いてほしい人たちとみんなで一緒に考えるという姿勢が必要なんです。ここはそういう一種の触媒でしょうね」。ふじのくに地球環境史ミュージアムの本当の評価も、今すぐにではなく100年後の人々によって語られるのかもしれない。

ふじのくに地球環境史ミュージアム
静岡県立の「地球環境史」博物館として、2016年3月にオープン。考えることで気づく驚きや発見を大切にした「思考を拓くミュージアム」がコンセプト。
text | Takeshi Okuno (Media Surf) photography | Hitoshi Ohno