ほっとできてちょうどいい街、清水を巡る
静岡の清水と言えば、アニメ『ちびまる子ちゃん』の舞台で、サッカーJ1の清水エスパルスの本拠地として全国的に知られている。それだけにとどまらない街と人の魅力を感じられるミニツアーをしてくれたのは、清水出身のデザイナー、LULUこと、大澤弘美さん。焼津に住む現在も、実家がある清水を月に1度は訪れている。LULUさんが今年7〜8月にも企画展『LULU GROCERY STORE』を行った清水のショップ、サハンジプラスの河村奈穂さんも一緒に街を周ってくれた。

朝、まず最初に向かったのは名勝地、日本平。2018年に山頂に完成した日本平夢テラスは、1周約200メートルの展望デッキから四方に駿河湾や富士山、伊豆半島、南アルプスのパノラマビューが広がる。
普段から近くで富士山を見慣れていることもあり、LULUさんが夢テラスを訪れたのは今回が初めて。「建築物ももちろん素敵でしたけど、お天気も良かったので、すてきなロケーションから絶景を一望できるのがよかったです」。河村さんは、車で清水に来た人には、近くの日本平ホテルからの富士山の眺めもよく勧めているという。

日本平を後にし、続いては清水の住宅地にあるサハンジプラスへ。もともと、河村さんの祖父母が住んでいた一軒家の一部を改装し、オープンして16年になるショップだ。現在は企画展の開催時のみ、営業している。やりたい形態的に路面店じゃない方がいい、と周りは住宅のみの場所にお店を出した河村さん。まだSNSやスマートフォンもない時代だったが、「静岡だとみなさん必ず車を持っているので、来てくださるだろうと思っていました」と話す。

実家が近いLULUさんも、最初はお客さんとして来店していた。「自分がつくったものを置いてもらうなら、サハンジさんだと思って、最初は子供服から置いていただいて、今に至るんです。育てていただいた感じ」と語り、地元のつくり手とショップ、お客さんの理想的な関係が16年以上に渡って続いている。

サハンジプラスでの企画展で、洋服の他に好きな日用雑貨やお菓子、紅茶、ジャムなども毎回並べているLULUさん。地元のおすすめの食べ物として、連れて行ってくれたのが松永豆腐店だ。静岡市に住んでいた頃には、この日伺った草薙本店へ、週1回は買いに行っていたとのこと。現在は、もう2店舗あるうちの小鹿店へ車で行って、まとめ買いしているそうだ。


「『まろやかとうふ』はすごく柔らかくて、たぶん松永さんでしか食べられない豆腐。ムースみたいで濃厚な味。ひじきとかとあえると、美味しくできます。清水の人に愛されている豆腐屋さんですね」
そして、LULUさんにとって「清水で一番すてきな花束をつくってくれるお店」がombak(オンバック)。河村さんも「他のお花屋さんでは見ないような、珍しい種類のお花がたくさんあります」と教えてくれた。神奈川・茅ヶ崎の花屋さんで働いていた小玉名美さんが1999年に始めたお店で、6年前に同じ清水区内の現在の場所に移転。長く続いているお店なだけに、オープンした頃に来ていた小さい子が今では大人になって、その結婚式のブーケをつくることもあるという。

お昼をまわり、ランチへ向かったのは清水で創業50年の喫茶店、珈琲処 草里。季節のフルーツを使った手づくりケーキが人気で、この日、お二人はボロネーゼとケーキを注文。LULUさんは清水でOLをしていた20代の頃にはここでよくお茶をしていたそうで、その頃から雰囲気は変わらず、地元のマダムをはじめ愛されているお店だ。ショーケースに並ぶ、季節のフルーツを使った色とりどりのケーキを選ぶ時間も楽しい。


草里でランチとケーキをいただきながら、お二人に清水について聞くと、「住む環境としてはもう最高です」と、河村さん。「こじんまりとしているけど、普通のものは全部あるし、居場所があるというか、自分の手に余る感じがないんです。自分が関わって住んでいける街という感覚でいられます」
LULUさんにとって、ホームの清水は「ほっとできる」街だ。「めちゃくちゃ不便でもないし、田舎すぎず都会すぎず、中途半端な気もするけど、ちょうどいい感じがします。気候がいいので、人も親切でやさしいんですよ。緑が多くて海も近いし、ありきたりですけど、その感じがいいと思います」
LULU(大澤弘美)
自身の子どものために布小物をつくりはじめ、2009年頃から作品を販売するようになり『LULU』として活動を開始。ブランド名の『LULU』は、イヴ・サンローランが手がけた唯一の絵本『おてんばルル』にちなんだもの。実店舗やオンラインショップは持たず、不定期に洋服と布小物を雑貨店やセレクトショップなどで販売している。2022年3月に、書籍『シンプル、こだわり、LULUの日常着』を発売。