雪山の中を歩き、麓町を散歩する楽しみ
東京から新幹線に乗り約2時間でアクセス可能な、国内有数の豪雪地帯として知られる新潟県南魚沼市。市内には10のスキー場が点在し、冬になると全国からスキー客が集まるスノーリゾートとして知られているが、その環境を生かしスタートしたのが、スキー板を履いて雪上を歩く「スキー・デ・ランドネ」のツアー。提案するのは、南魚沼市でスノーボードをカスタムメイドするファクトリーブランド「VOLTAGE design」の代表を務める永井拓三さんだ。
「スキーを持っていなくても、滑る技術がなくても雪山へ気軽に出かけてほしい」
永井さんが考える新しいスノーアクティビティを、PAPERSKY編集長のルーカスは「Ski de Randonnee(スキー・デ・ランドネ)」とネーミング。仲間とハイキングをする気分で、さらにファッションも楽しめるスタイルの提案だ。
そして今回は、雪を求めて約20年前に大阪から移住した根っからのスノーボーダー、丸田裕二さんのガイドで南魚沼の壮大な雪原へと繰り出した。

1日目にまず、丸田さんに案内してもらったのは、南魚沼市内のスキー場「ムイカスノーリゾート」。リフトで山頂へ上がると、越後の山々や市街地を一望できる絶景ポイントでもある。今回のスキー・デ・ランドネでは、スキー板とストックを用意。ブーツを履き、スキー板を装着したら、リフトを乗り継いでいざ山頂(748m)へ。目の前には魚沼盆地の絶景パノラマが広がる。
そして仲間たちとおしゃべりをしながら、約20km続く静かな雪原を山歩きのような感覚で進む。雪でしんと静まった自然の音に耳を傾ければ、都会にはない、非日常の世界にいる感覚に。南魚沼の市街地や、名峰・八海山、百名山である巻機山の雄大な姿を眺めつつ、歩いているとじんわりと汗をかいてくるので、下山後は爽快な気分になれるのもスキー・デ・ランドネのポイントだ。
今回、ランドネに欠かせないスキー板を提供してくれたのは、永井さんが主宰するファクトリーブランド「VOLTAGE design」。スキー板やスノーボードのカスタムメイドを受注生産している同ブランドでは、今後、スキー・デ・ランドネで軽快に歩くことができる板と、将来的には板にフィットするブーツなどの開発を目指している。

雪に魅せられて移住者が集う、南魚沼の魅力
ランドネの後にランチで立ち寄ったのは、スキー場の麓にある人気イタリアンレストラン「イ・ヒロッシェ」。落ち着いた雰囲気のなかでカジュアルにイタリアンを楽しめる山の中の隠れ家レストランだ。
南魚沼は、雪のある生活に魅せられて移住してくる人も多く、「イ・ヒロッシェ」のオーナーシェフ、佐藤洋さんも家族とともに移住してきたひとり。この日のランチでいただいたのは、名峰・八海山の麓で約300年前から伝わる南魚沼の伝統野菜「大崎菜」を使ったパスタや、地場で採られたふきのとうのピザなど。佐藤さんは南魚沼産の素材にこだわり、ノングルテンの米粉パスタの開発も手がけている。

宿泊をしたのは、ムイカスノーリゾートから車で約8分に位置するコンパクトホテル「六日町ヒュッテ」。冬はスキー客が多く訪れるが、オーナーの細井陽介さん自身もスノーボーダーであり、南魚沼の自然豊かな風土とスノーボードができる山々に魅力を感じて2007年に移住を決めたという。館内には六日町温泉の源泉掛け流しの風呂があり、旅の疲れを癒すのにぴったりな空間だ。


2日目は、南魚沼が誇る名峰・八海山の麓で、ランドネをスタート。南魚沼は低山に囲まれた盆地地形のため、起伏がほとんどなく、どんな場所でも歩きやすい。スキー板さえあれば、どんな雪原でも自由に気の向くままに歩くことができるのが楽しい。


鳥のさえずりを聞きながら八海山の麓をザクザクと自由に歩き、お腹がすいたらお楽しみのランチ。八海山がよく見えるポイントを見つけてシートを広げ、南魚沼産コシヒカリのおむすびをランチに。南魚沼産コシヒカリの美味しさの秘密は、ミネラルをたっぷりと含んだ雪解け水と寒暖差の大きい気候風土。八海山を実際に眺めながら、八海山の雪解け水で美味しく育ったお米を食べる体験は特別だ。


おむすびは、「究極に美味い米」を追求している農家・関農園の関智晴さんが育てた南魚沼産コシヒカリをにぎったもの。関農園のコシヒカリは「米・食味分析鑑定コンクール」で6年連続金賞受賞をする、正真正銘の極上米だ。
「この地域でしか見られない景色の中で、こんな美味しいおむすびを食べるのは初めて!と言って頂ける体験を、この南魚沼で提供し続けるのが目標です」と関さん。

芸術とヒトが織りなす「雪文化」の歴史に触れる
南魚沼のスノーカルチャーを体感するためにぜひ訪れたいのが、八海山麓にある「トミオカホワイト美術館」。富岡惣一郎は1922年、新潟県高田市に生まれ、雪国をモチーフにした絵を多数残した洋画家。自分がイメージする“純白の雪そのものの色”を表現するために、世界中から白い絵の具を取り寄せ、白の油絵の具を改良し、自分だけの白油絵の具「トミオカホワイト」を開発した。ランドネを体験する前後でトミオカホワイト美術館を訪れると、南魚沼の“雪の色”の見え方が変わってくるに違いない。


次に訪れたのは、八海山麓に広がる「魚沼の里」。新潟の名酒「八海山」を造る八海醸造が運営し、魚沼の地に暮らす人々の暮らしや、天然の冷蔵庫「雪室」では雪中貯蔵用の原酒を保存する。長く厳しい南魚沼の冬。ここで暮らしてきた人々の、雪と共にある暮らしや生活の知恵を学べる場所としてぜひ訪れてみてほしい。




スキー板とストック、ブーツさえあれば、特別なスキルがなくとも雪山や雪原でのピクニックを楽しむことができる、それが「スキー・デ・ランドネ」の魅力。しんと静まった雪原や、誰も足跡も付いていない田んぼなど、ありのままの雪の上をザクザクと歩くと、じんわりと汗をかいてきて、フィットネスとしても気持ちがいい。エリアによっては5月初旬までランドネができる南魚沼で、「スキー・デ・ランドネ」を体感してみてはどうだろう。
Travel Guide

Restaurant I’Hirosshe(レストラン イ’ヒロッシェ)
新潟県南魚沼市小栗山2051-3
TEL: 025-773-5674