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しまなみDREAMY

しまなみの白昼夢
ELECTRIC DREAMS IN HIROSHIMA & EHIME

海へと延びるワインディングロードを 「CAKE」の電動モーターサイクルで駆けていく。 尾道を出てから、いったい何本の橋を渡っただろうか。 今走っているこの島で何個目になるだろうか。 坂を下れば、多島海に旅の続きが見える。

02/07/2024

山瀬まゆみ
MAYUMI YAMASE / Artist
しまなみ海道の旅は初めてです。広島県自体、来たことがありませんでした。瀬戸内方面には、いいイメージはずっともっていました。多島美でしたっけ?きれいな海に、島がたくさん浮かんでいるんだろうなと。ジュースのラベルを描かせてもらった、LE MONTの柑橘畑に行くのが楽しみです。あとは本場のお好み焼き!
鶴田さくら
SAKURA TSURUTA / Musician
じつは生まれが広島県なんです。母が瀬戸内の島の出身でした。でも、幼いときに引っ越してしまったので、記憶は全然ありません。思い入れがあるのも西日本でおなじみの味の『おにぎりせんべい』と『うまかっちゃん』くらい。だから今回はまっさらな気持ちで、どんなことも受け止めるように旅をしたいと思います。


旅の始まり、多島美の出迎え


「本当にきれい。多島海って言葉は聞いたことがあったけど、この景色を指すんだね」

千光寺の鼓岩に座り、山瀬まゆみさんが感嘆の言葉を漏らした。白いシャツに描かれた抽象的なペインティングは自身の作品。「目に見えないけどそこに確かに存在するもの」をテーマに活動するアーティストだ。

尾道の象徴的存在である千光寺には、いくつもの巨岩が転がる。そのひとつ、鼓岩からは向島の眺望が抜群。これから始まるしまなみ海道の旅に思いを馳せた

隣の鶴田さくらさんは、電子音楽家やDJとして活躍するミュージシャン。最初に立ち寄った「茶立玄 山手」で広島在来の緑茶を飲み、出身県の見知らぬ一面を知ったばかり。

 「広島でお茶がつくられているなんてびっくりしました。時間を肌感覚で捉えられるような建築、風景も印象的。代表の高橋玄機さんも落ち着きがありつつ、夢に向かってひたむき。瀬戸内に暮らしているからそうなのか、旅をとおして知りたいですね」

しまなみでは穏やかに海が凪ぎ、太陽が沈むころには空が淡い色に染まる。生口島の瀬戸田で堤防を散歩しながら鶴田さんが感嘆した。「本当にきれいですね。何日でも過ごしたい!」


穏やかな海が描く夢の輪郭


尾道と今治をつなぐしまなみ海道を、アイランド・ホッピングのように「CAKE」の軽量電動モーターサイクルで駆けていく。橋を進みながら、山瀬さんが呟いた。

「島をいくつも渡っていく旅なんて初めて。自分がどこにいるのかわからなくなりそう」

尾道から向島、因島、そして生口島へ。瀬戸田の「SOIL Setoda」をベースに、隣のゆめしま海道にも足を延ばした。島民と出会い、その言葉に耳を傾ける。食事どきにはお好み焼きや新鮮な海鮮でお腹を満たした。

旅の終わりに、SOIL併設の「OVERVIEW COFFEE」でコーヒー片手に旅を振り返る。

生口島の「SOIL Setoda」の前で、山瀬さんが「CAKE」バイクの乗り方をさくらさんにレクチャーする。「走行音がしないんですよね。自転車みたいにリラックスして乗れます」
「CAKE」の電動モーターサイクルは、近未来型のフォルムで、自転車とバイクの中間のように軽やかな存在感

「さくらはなにがいちばん忘れられない?」

「音楽をやっている身としては、デイヴ・シンクレアさんに会えたことかな。夫はイギリス人だから、『彼のレコードを僕は何枚も持っているのに!』って私に対するジェラシーがすごい(笑)。どうして島に移住をと思ったけど、海のそばの暮らしを知ったら納得」

「スタジオのシンセサイザーに夢中だったね」

ラグジュアリー施設「Azumi Setoda」でリラックス
尾道のホテル「LOG」の庭を散策

「まゆみはどこ? 『素白』では作家物の器とインドの手紡ぎ布を買っていたよね」

「取材そっちのけでね(笑)。店主の中尾早希さんが自分の言葉で紹介してくれるから、この人が薦めるものなら信じられると思った。あとは『島旅ヨット』のクルージング!」

「私も! あれはスペシャルな体験だよ」

「海にヨットで出るなんて人生初。景色がきれいなのはもちろん、海の上で過ごす時間そのものが特別な感じ。帆をアップサイクルしたビーチバッグがあって、さくらはひと目で買うと決めたでしょ」

「そうそう、キャプテンの齋藤サムさんのハンドメイド。船も自分でつくるし、バイタリティの塊だよ。リラックスした人に見えて、内にはすごい情熱を秘めている感じ」

「たしかに、この旅で出会った人はほとんどがそうかも。サムさんは『生活費が安く、雑音の少ない島の暮らしでは、夢へのハードルを下げられる』と言っていたね」

「プレッシャーに追われるのではなく、自分のペースで夢を実現しようとする人ばかり。瀬戸内海が穏やかに凪いでいるみたいに」

夢を追うように移り住み、自分の店や農園を構える人が、しまなみ海道エリアに増えている。向島にあるアポイント制のカフェ「NAGI」もそのひとつ

「さくらと後閑麻里奈さんは同世代?」

「うん。何かにチャレンジするとき、私だったらまず考え込んじゃうけど、彼女は反射的に飛び込んでいてすごいと思った」

「アイドル農家の『みなと組』のふたりなんてまだ25歳。力まず、気負わず、夢を追いかけられるのが瀬戸内なのかもしれないね」

尾道に戻るバスの出発が近い。別れの挨拶を交わしていると、隣にいた島民が教えてくれた。陸ではなく海から、船で戻る選択肢があること。旅の終わり、穏やかに凪ぐ海がもたらすものをまたひとつ新たに知った。

photography | Natsumi Kinugasa, Toshitake Suzuki text | Yosuke Uchida Special Thanks ~ CAKE, Hiroshima Tourism Association, Staple Inc.