就農なんて夢にも思わなかった
Googleマップを開き、住みたい場所を探す。海のそばを大前提に、都心へのアクセスも重視。地図を何度もスクロールするうち、気になったのが瀬戸内。リモートワークの普及を後押しに、小嶋正太郎さん、名部絵美さんは気負いもせず因島へ移住した。農家になるなんて考えもしなかったと名部さんは笑う。
「私は、島で暮らせば新鮮な野菜がいくらでも食べられると思っていました。でも、スーパーに並ぶのは案外そうでもないものばかり。家庭菜園でもやろうと思い、紹介されたのがこの耕作放棄地だったんです」
かつて柑橘農園だった畑からは、瀬戸内の美しい海が見渡せる。その風景は、パートナーの小嶋さんに断固たる決意をもたらした。
「ここから海を見たとき、僕は農家になると決めました。農業は未経験だし、畑は雑草だらけ。でも、このきれいな畑がなくなるなんてもったいないと思ったんです」
ふたりは「comorebi farm」の名で農家になり、今では3つの畑でハッサクやアンセイカンを育てている。無農薬で化学肥料も不使用。軽やかに栽培するその背中は、農業の楽しさを雄弁に物語っていた。
名部 絵美／Emi Nabe 小嶋 正太郎／Shotaro Kojima
2021年に耕作放棄地だった柑橘農園を受け継ぎ、「comorebi farm」をスタート。兼業農家のスタイルで、慣習にとらわれない栽培方法を行う。商品は瀬戸田の「ひ、ふ、み」にも並ぶ。