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川内倫子

ものの見方

 

04/14/2023

「高校生のときはコンパクト・カメラで撮っていました。それまでは友だちの写真を撮ったりしていましたが、修学旅行で壱岐島へ行った時、初めて海や風景の写真を撮りました。景色が自分の思い描いたようには撮れず、悔しい思いをしたことは今でもよく覚えています」

大学でグラフィック・デザインを学んでいた川内倫子は、写真の授業で初めて暗室でのプリントを習った。写真をプリントすることが楽しかったという。暗室で創作し、自分でコントロールしてイメージを作り出すことに目覚めた彼女は、写真に深くのめりこむようになった。当然ながら、写真の技術を習得して、さらに自分の味を出せるようになるまでには時間がかかる。

卒業後、学業を続けるための金銭的余裕はないが、写真でキャリアを築きたいと思い、大阪のデザイン会社の写真部に就職した。その写真部に女性が配属されるのは20年ぶりだった。自分以外は全員男性だった写真部にカメラマン助手として配属された初日「女なんて入れたのは誰だ?」と言われたという。今なら常識外れな発言だが、30年前の写真界は圧倒的に男性が主体であった。しかし実際のところ、何も分からない新人だった彼女は、先輩たちの指導を受けていく間に、多くを学ぶことができた。写真のプロセスについて学べば学ぶほど、もっと自分の思い通りの写真が撮れるようになりたいと願った。

「早く自立したいと、いつも思っていました。あまり裕福な家庭ではなかったので、できるだけ早く経済的に自立したかったです。専門的な分野で手に職をつけたいと思っていました。当時のスタジオは、商品撮影が多く、面白いとはあまり思わなかったです。パッケージやビールなどの広告撮影に、自分には向いていないと徐々に気づきはじめました。でも、カメラの技術を覚えることは楽しかったです。作家で自立できるとは夢にも思っていませんでした。ロールモデル的な人も周囲にいませんでしたし。有名な写真家で写真集を出しているけれど、それだけでは生計が立たない…と聞いていたので、作家になるためにどうするべきか分かりませんでした。少しずつ自分なりに学んできた感じです」

川内倫子の写真展は世界中で開催されている。日本の同世代の写真家では最も知られる存在だ。彼女は革新的な写真集の三部作「うたたね」、「花子」、「花火」をデビューと同時に発表し、そのうちの「うたたね」と「花火」で2001年度の木村伊兵衛賞を授賞したのを皮切りに、多くの賞を獲得してきた。作家で歴史家のジェリー・バジャーと、写真家のマーティン・パーの共著によるThe Photobook History (写真集の歴史)に掲載された、彼女の作品についての評価がすべてを語る。

ー すべてのものがあらゆる方法で撮影し尽されたと思われたとき、メディアそのものを一新するような極めて独創的な写真家が現れた ー

川内は佐藤さとるのファンタジー作品を読んで育った。こびとの民族の物語だ。現実には存在しない彼らの生活がとてもリアルに描かれている5巻のシリーズが彼女の土台であり、目に見えない世界が確実にあるということを教えられたという。

「矛盾しているのですが、写真は目に見えるものを写すのだけれども、自分は目に見えないものを撮りたいという欲求があります」

そして影響を受けたもうひとりの作家は、吉本ばななだ。すべての作品を読んだという。吉本ばなな作品の世界観や繊細さ、生と死のあいまいな境界などに、彼女は深い影響を受けたという。

川内倫子写真集:Illuminance
川内倫子写真集:Illuminance

「写真は試行錯誤の連続で、終わりがないから続けているという感じです。生きている限り続くのだと思います。写真とは、その時々の自分を映すドキュメンタリーでもあります。自分が止めない限り続いてゆく。そういう仕事が自分に見つかってよかったと思います。私はメンタル的に「やりがい」を感じられないときついのですが、肉体的にもバランスをとりながら、経済的にも続けられる仕事なので、そのような職業に就けてありがたいと感じています」

川内倫子写真集:うたたね
川内倫子写真集:うたたね

芸術の世界では近年、マイノリティへの受容度が高まっている。川内はアジア系女性として注目されることや、その結果として仕事の機会が得られることに感謝しているという。今後も改善されてしかるべきだが、母親世代の功績があってこそ自身が活躍できるのだと彼女は認識している。そして、もうひとつの彼女の関心事は、地球環境の変化が早まっていることから、都会を離れてより自然環境が豊かな場所での生活である。

「独身で一人暮らしをしていた頃は、自然に囲まれた生活は現実的ではありませんでしたが、今はパートナーと子どもができたので実現しました。子どもをもつようになって、より一層環境面で不安を感じるようになりました。自分の作品でメッセージ性や社会問題を声高に訴えるような表現は好きではありません。しかし、最近の私の作品からは自然と湧き上がるようになりました。私の内面にあるものを無視することはできません。新作のタイトルは「M/E」。それは「マザー/アース(母なる大地)」であり、「Me-自分自身」につながります。

なにか壮大なことを考えたのではなく、自分たちの住む場所とその環境について考えていました。私たちは地球という星の上に住んでいながら、なぜ争いごとが絶えないのか、自然環境を破壊し続けているのか。まずは自分自身に危機感を問いかけたかったのです。日々の生活で忙しくしていると、あまり考えなくなってしまうので、自分への戒めでやっていたのかもしれません。それを作品としてシェアすることで、共通の認識をもちたいと思いました。写真家である自分のテーマとして。私ができることといえば写真しかないので、作品制作を通してそういった問題について考えたいと思います。現在の環境問題は企業によって支配されている面も多く、ひとりの個人ができることは限られていますが、注視していこうと思っています」

   川内倫子写真集:cui cui
   川内倫子写真集:cui cui

海外の人々は川内の写真表現を通じて、光や気候、季節などが彼女の生まれた国である日本的なものを感じ取っている。

「私の作品から、日本人であることが人々には伝わる、自分が意識していなくても作品には写っていると思います。伝統という面では、外の世界に向けて発信するというよりはむしろ、私は自分の娘に覚えていてほしいと思います。たとえば「いただきます」は単に「食べます」という意味ではなく、仏教の伝統からくる美しい言葉です。私は娘にその言葉の背景にある意味を理解してほしいし、日本の四季の豊かさについても、将来、もし娘が外国で暮らすことになっても、覚えていて誇りに感じてほしいです。箸の正しい使い方や、四季折々の行事についても教えていきたいです。

今は「おせち料理」を手作りする家庭は少なくなっていますが、実家の母はすべてを手作りしてきたので、私もできるだけそれを継承していきたいです。節分の時に飾るイワシの頭だって、きれいじゃないですか(笑)自然とともに生きる知恵が残っているというか、自然と協調した生活だと思うので。そういうものが美しいと感じます。日本人で良かったと思うことのひとつですね、ごはんが美味しいですし(笑)食文化の豊かさが一番ですね」




高木康行 Yasuyuki Takagi
東京生まれのフォトグラファー、映像ディレクター。ニューヨーク・ブルックリンへ留学、メディアアートを学ぶ。卒業後、アシスタントとして世界各地をまわりながら、約10年間を過ごしたのち独立。2012年に初の写真集『小さな深い森-Petite Foret Profonde』、2015年に写真集『植木』を出版。映像ディレクター作品として『どうすればトム・サックスみたいになれるか』他多数制作。現在は国内外で精力的に制作活動を続けている。

text & photography | Yasuyuki Takagi