自然が心身を豊かにして、クリエイティブなプロセスを楽しいものにしてくれるから、いいアイディアが湧いてくるのです。
僕たちは日々の暮らしの中で、生産と消費のサイクルに飲み込まれていることを、自覚していないのではと思うことがある。そんな時代に、自転車ショップの「Circles」や「SimWorks」は異彩を放っているブランドだ。
僕は名古屋に向かい、自転車ショップ「Circles」代表の田中慎也さんと澤田梨絵さん(ポートランド在住)とともに、Circles 店内にあるカフェ「earlybirds breakfast」で朝食を食べながら話をした。ベーコンエッグ、トーストとコーヒーを飲みながら、自転車ショップの話とは思えないような話を聞くことができた。


「よき人は、よきものをつくる。彼らは本当に意味のあるものづくりに向き合っています」と梨絵さんはオンラインの画面越しにそう語る。
SimWorks USA が拠点をかまえるのは、オレゴン州ポートランド、クリスキング本社のビルの一角。梨絵さんによれば、この辺りは「少し物騒なエリア」らしい。彼女の話し方を聞いていると、日本とアメリカという二つの大陸を行き来して生きてきた痕跡と、複数の文化に馴染んでいることが伝わってくる。今、彼女は「自分が愛してやまないアメリカ」で生活し、SimWorks USAで小さなチームを率いている。


いつでも流れに任せて、自分の直感を信じて行動しています。
彼女は計画するよりも、直感で動くタイプだ。ドイツからポルトガルまで自転車で旅をする一方で、小さな自転車カフェ「CharRie’s Café」を経営するなど、独自の路線で人生を過ごしてきた。ドイツ滞在中は、ビザの期限ギリギリまで最大限に滞在期間を活用し、時間の許す限りあらゆる可能性を見出そうとしていた。
田中さんもよく言ってくれますが、私の特技は人とすぐに仲良くなれることなんです。
ベルリンで暮らしている時、梨絵さんは自転車ショップでコーヒーを淹れたり、ヴィーガン日本食レストランで寿司職人として働いていた。この時期、リモートで田中さんと一緒に働きながら、日英のコミュニケーションのサポートも担当。年に何回か、彼らはともにアメリカを旅しながら、自転車のフレームやパーツなど、自転車の細かな部品を製造する職人たちと会って話を聞いていた。そこで、関係を構築し、経験をともにしながら、現地で出会った人たちとアイディアを練っていった。
コミュニティーに溶け込むうちに、私は仲間をつくる特殊部隊のキャプテンのような存在になっていきました。
梨絵さんは旅先の風景や訪れたワークショップ、自転車コミュニティ、彼女の日常生活を写真に収めており、そこに田中さんが文章を添えて、SimWorks のサイトに投稿していた。彼らがシェアしたストーリーは徐々にアメリカと日本の自転車カルチャーをつなぐ架け橋となり、SimWorks USA における梨絵さんの多くの役割を生み出すきっかけとなった。


梨絵さんと田中さんの話を聞きながら、僕の頭の中ではある言葉が行き来していた。それは、「つながり」という言葉だ。SimWorks、Circles、そして自転車自体も人とのつながりから成り立っている。自転車ショップは単に製品を売るだけではなく、信頼を築いているのだ。新しい自転車を買うことはつながりのはじまりではないだろうか。それは、自分がその店の自転車に乗ることで、心身ともに関係性が構築され、自転車を走らせながら見えてくる風景ともつながってくる。
そうしたアウトドアでの体験は、冒険と発見の物語となり、自転車をメンテナンスする際にも役立つし、サイクリスト仲間たちとシェアできる。信頼できるショップと関係性を築き、アドバイスを受けながら、修理をしてもらううちに、自ずとサイクリングのスキルも向上してくるものだ。
そして、そのつながりはその先へと広がっていく。よき自転車ショップは、乗り手とつくり手をつなぐ架け橋だ。あなたを未知の場所へと連れて行ってくれる、そんな自転車のつくり手とあなたをつないでくれる場所なのだ。
自然の中で、動物、花、景色を眺めたり、何かを体験すると、みんなにも同じ経験をしてもらいたくなります。それが、写真を撮りたくなったり、SimWorksのバイクパッキングツアーを企画する原動力になっています。
SimWorks に関わるものは、規模感を問わず、さまざまな人たちのストーリーが介在している。Nitto や Panaracer などの老舗メーカーから、Bob at Bob’s Shirts、2人のデザイナーユニットから成るGHOOOST、そして、モリーシュガーがデザインする Desert Animals Collection などのインディーズ系まで、多彩な面々が SimWorks と素晴らしい関係を築いている。
SimWorks は、たまたま自転車をつくることになったストーリーテラーたちのコミュニティなのだ。


冒頭で梨絵さんと田中さんが語った「よき人はよきものをつくる」というコメントに戻ろう。つくり手たちが誇りをもってものづくりを実践し、その名が刻まれたもの。そこには、彼らの哲学が込められている。一見したところ、SimWorks の製品の素晴らしさは理解しにくいかもしれないが、彼らの製品は機能性に富み、とても使いやすい。コツを掴めば、修理もできるし、長い間愛用できるので、一生ものになる可能性もある。
自転車に乗ることそのものも、自然環境と自分自身を大切にするための最も実用的な移動手段ではないだろうか。私たちは絶えずものを作り、それを使いながら生きている。でも、そこに意義を見出して愛用し、できれだけ長く使うように心がけることが大切だ。自転車が健全に作られて、それを修理しながら大切に使うことで、アウトドアで過ごす時間もより充実してくる。



梨絵さんは流れと好奇心に身を任せて、あちこち移動しながら、彼女自身、自分を取り巻く世界について自問自答し、自分の価値観とSimWorks における自分の価値観を何よりも重視している。彼女にとって成功とは何を意味するのかを尋ねてみた。
「私にとって、成功とは SimWorks を通じて人とつながり、その関わる人たちが心身ともに健やかで、日々を前向きに楽しめていることです。もし SimWorks が誰かの人生を少しでも豊かにし、健康で幸せな時間を生み出していること。それを感じられることが、何よりの成功です。
そして SimWorks も、また私たちのコミュニティも、どんな時でも創造と学びを止めることはありません。もし学び続けながら、創造を続けて、アップデートを怠らなければ、それは成功といえます。好奇心を持ち続け、変化を恐れず、成長し続ける環境があることこそが、心から満たされた、生き生きとした人生だと感じています」



梨絵さんと田中さんとの会話は、ものづくりと人とのつながりについての学びのような内容で、僕に強い余韻を残した。社会のリズムが自分のペースと合わないとき、ちょっと疎外感が覚えることがあるのだ。でも、彼らと出会って、好奇心、素晴らしいデザインのプロダクトへの情熱、早朝に食べる美味しい朝食、楽しい話題とアウトドアについて自分が感じていることは、誰かと共有できるということを確信できた。
SimWorks は、僕たちの生活を豊かにしてくれるコミュニティだ。
実に頼もしい…..
James
<イベント情報>
SimWorks × One Tree Academy と走るカツオトレイル
2026年5月30日(土)〜 31日(日)|静岡県・川根本町
One Tree Academyは、田中慎也さん、木村まさしさん(Circles / SimWorks)をゲストに迎え、ルーカスB.B.とジェームズ・ギブソンが主催する2日間のバイクパッキングイベント「Trail Walks & Campfire Talks #02」を開催します。静岡県にあるカツオトレイルの一部を走りながら、バイクパッキングの世界に触れ、ギアやスタイルについて学び、自然の中で時間を共有する機会です。ライドに加え、トークやワークショップ、焚き火を囲んだ料理、サウナなど、さまざまな時間を通して、参加者同士の交流やストーリーが生まれていきます。
▶︎申込はこちらから
One Tree Academy
トレイルを通じて刺激的な事例から学び、自らの経験を共有することで、意図的にライフスタイルをデザインし、最高の創造的潜在能力を解き放つ場を提供し、イベントやトークショー、ワークショップ、ストーリーの共有を通じて、地域の知恵やアーティスト、アウトドア愛好家、日常の探検者たちの声を結び、日本から世界へと発信します。
If you liked this story you might like to read & subscribe James’s newsletter.