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小さな世界を楽しく変える「うろうろアリ」

松崎良太(Founder & Chief Momotaro
きびだんご株式会社)

"小さな力を集めて、新しいビジネスアイデアを世に送り出す"

「うろうろアリインキュベーター」唐川靖弘が自分ならではの働き方や生き方を通じて世の中に新しい価値をもたらす「うろうろアリ」を紹介します。

12/13/2021

Playful Ant 06 – 松崎良太(Founder & Chief Momotaro /きびだんご株式会社)

誰でも「桃太郎」の話は知っているだろう。桃から生まれた桃太郎が、鬼退治の旅に出る。きびだんごを携え、道中出会うイヌ、サル、キジを味方につけていく。鬼ヶ島で見事に鬼を倒してハッピーエンドという例の物話だ。

今回紹介する松崎さんは「きびだんご 」という変わった社名を持つクラウドファンディング会社の代表を務めている。名乗る肩書きは「Chief Momotaro(チーフ桃太郎)」という、これまた変わったものだ。どんな想いでそのような会社を立ち上げ、そのような肩書きを名乗るようになったのだろうか?




「色のあるお金」を通じて、人の想いを支援したい


松崎さん:きびだんごは、シンプルにいうと「商売に取り組んでいる人」に対して「クラウドファンディング」という仕組みを通じて、周りの人々からお金という力を集めて支援するサービスです。

私は元々日本興業銀行でキャリアをスタートさせ、その後、興銀時代の先輩でもあった三木谷さんが創業した楽天に参画することとなりました。三木谷さんが、Eコマースを手がける楽天のビジョンを描き創業した当時は、多くの人が「仮想空間上の市場でモノを売買するなんて、そんなビジネスがうまくいくわけない」と言っていましたが、三木谷さんは周囲の雑音や常識に捉われずに突き進み、楽天のビジネスを成功させてきました。私自身も執行役員として楽天の成長に力を注ぎ、チャレンジングで充実した日々を送っていましたが、入社当時は数十人程度の規模だった楽天がいつしか1万人を超す規模に成長を遂げていくにつれ、自分でしかできない価値を実現させたいという思いが勝るようになり、楽天を卒業することにしました。

しばらくの間は、個人事業主としてクライアント企業をサポートするためのコンサルティング事業を行なっていたのですが、それが自分でしか提供できない価値か?と言われると、違う気もする。むしろ今までの経験や知識を切り売りしているだけではないか・・・そんなやや悶々とした日々を送るようになっていました。そうしているうちに、思い出したことがあったのです。

キャリアを開始した日本興業銀行時代、海外での大規模なプロジェクトを評価し、巨額のお金を融資するかどうかを判断するプロジェクトファイナンスという業務を担当していました。金額的なインパクトも大きく、エキサイティングな経験を積ませてもらっていると感じる一方で、常々「銀行が扱うお金には、色がない」ということも感じていました。そのプロジェクトのことを応援したい!という情熱で融資の判断をするわけではなく、あくまでもプロジェクトの収益性を冷静に見極めなければならなかったからです。

そんなことを思い出して改めて世の中を見てみると、楽天はもちろん、Amazonやヤフオクなど、Eコマースに関する様々な仕組みはすでに存在していて、“誰でもいつでも、欲しいものを安く早く買えることこそが大事なんだ”、そんな常識が出来上がっているように見えました。でも思ったんです。それで本当に終わりなのかな?もしかすると何かもっと別のやり方があるんじゃないか?と。

そんな時にアメリカで生まれたクラウドファンディング会社、キックスターターと出会い、クラウドファンディングの可能性に惹かれました。キックスターターの創業者と話をする機会があった時に、「自分で日本にクラウドファンディングを立ち上げればいいんじゃない?」と言われ、創業を決意。「こんな製品を世の中に広めたい」という誰かの熱い想いや夢に、お互いを知らない人同士が少額のお金という支援を出し合いながら次々に仲間になっていき、共通のゴールを達成する。クラウドファンディングってまさに桃太郎の世界だなと思い、仲間と夢を共有し共に目標を達成するための大事なアイテムだった「きびだんご」を社名にすることにしました。私自身も、色々な方がやりたいことを実現するプロジェクトを応援する熱いサポーターで居続けようと思い、肩書きを「チーフ桃太郎」としました。銀行とかで「きびだんご様―」と呼ばれる時はいまだにちょっと恥ずかしいですけどね。

きびだんごで最初に扱ったのは、新潟でのワイン作りのプロジェクト。興銀時代の同期の男性が、40代になろうかという頃に銀行を退職してはじめたワイン作りを支援するものです。「生まれ故郷の新潟で初めてのピノ・ノワール種によるワイン作りを始めたい」という彼の想いに対して集まった支援は、約100人からの250万円。金額自体は決して多くはないかもしれません。ただ、「葡萄の栽培から数えてワインができるのは数年後。それまでの待つ時間も楽しみたいと思います」とか「数年後には子供がちょうど成人になるので、そのタイミングで届くワインで乾杯したいと思います」など、支援を決めた人たちから頂いたコメントには彩りのある期待が含まれていて、「個人からの想いと共に託されるお金」には「しっかりとした色」があると強く感じました。きびだんごがオーナーの方々とご一緒したプロジェクトにはどれも思い入れはありますが、その最初のプロジェクトには「色のあるお金」の魅力を強く感じた思い出があります。

僕自身もきびだんごでいくつかのプロジェクトを支援したことがある。支援したプロジェクトが提案する価値は、実用性というよりも「多分、普段の生活に必須というわけじゃない、でも、あったらちょっとだけ時間が楽しくなる」、そんな遊び心なのだと思う。クラウドファンディングという分野が次第にメジャーになってくる中、きびだんごはどのような姿をこれから目指すのだろうか?




鬼を倒すのではなく、鬼と新しい価値を共創する


松崎さん:どれくらいの目標金額を達成したかという“支援のサイズ”ではなく、どういうユニークな価値を世の中の人々に提供できているかという“社会へのインパクト”にこだわりたいですね。きびだんごを立ち上げてから数年が経ち、おかげさまで多くの成功事例を生むことができました。同時に世の中を見てみると、クラウドファンディングを行う会社も増えています。そんな中でこれから何を目指すのかということですが、クラウドファンディングの世界で「ナンバーワンプレーヤー」になることを目指すよりも、みんなが面倒だと思ってなかなか手をつけられていないことこそやってみたい。そこに僕は「オンリーワンプレーヤー」になるチャンスがあると思うし、ワクワクします。

従来のクラウドファンディングは、プロジェクトのアイデアを多くの人に知らせて、その中から支援者を募り、目標金額を達成することをゴールに目指しています。桃太郎の話で言うと、イヌ、キジ、サルなどみんなの力を集め、鬼ヶ島の鬼を退治するというミッションを達成すること。いざ鬼を倒してしまったら、そこで終わりでした。

でも、僕たちは、目標金額を達成することはゴールではなく、むしろ、そこからがスタートだと考えています。具体的に言うと、一部の方々から支援をいただいたアイデアについて、より多くの方に知らせてファンを育て続ける。そしてプロジェクトオーナーの方々にとっては、Eコマースを行うパートナーとして、販売受付や在庫管理、配送、アフターサービスなども一貫して行なっていく。いわば、「クラウドファンディング型ECサイト」としての役割を新たに担おうということです。

鬼を倒して終わりではなく、その鬼すら味方につけて、鬼と一緒に新しい価値を共に創り続けたい。この、誰もまだやったことがない新しいやり方を模索していきたいのです。これには、もちろん手間もかかりますし、オーナーの方々のパートナーとして新しいアイデアを世に送り出すことが本当に好きでないとやっていけない。でも、自分達が情熱をもって進化を続けることができれば、もっともっとユニークになれる可能性があると感じています。

ユニークであり続けようとする原点は、幼い頃から触れていた音楽、そして趣味のオーケストラ鑑賞が関係しているかもしれません。オーケストラの世界には、「あの団体だけが絶対的に良い」という唯一無二な存在がなく、どのオーケストラにも「ここは、この部分が良いよね」「あそこは、あの部分が良いよね」というそれぞれのユニークさがあります。そういう見方を自分たちの価値に対してももつことで、強い大きいプレーヤーとは違う私たちならではの魅力を創ることができると感じています。

松崎さんは僕が通ったコーネル大学経営大学院の先輩でもある。共通の知人から紹介をいただき初めて松崎さんに会ったのが約10年前。当時楽天の役員を務め、まさに国際舞台を知るエリート然とした雰囲気を纏う松崎さんを見て、さぞかしクールな人だろうと思っていた。だがそんな僕の予想を大きく裏切り、僕が佐渡島で体験型の合宿を行ったり、業界の異なる知人が交わる集まりなどを企画する際にお声がけすると、多用な身にもかかわらず、必ずフットワーク軽く足を運んでくれる。そして、屈託のない笑顔と共に、そこで出会う体験を心から楽しんでいる。そんなささやかな機会にまで足を運び続ける原動力はなんなのか?




棚の下にいるための小さな努力を続ける


松崎さん:随分昔の話ですが、高校生の時にある先生に“気をつけていないと、自分自身が自分を一番狭めてしまうんだよ”と言われたことがあります。自分が勝手につくる規範や自分のこれまでの経験に縛られるな。その言葉は喉に刺さった魚の小骨のように、今でも自分の心の中に刺さっています。生まれつき好奇心が強い部分と、そんな言葉に影響を受けた部分。両方あると思いますが、私は「自分の知らないことに足を突っ込もうとする」モチベーションがとても強いと思います。だから、「自分の知らないことを知っているかもしれない人」への興味や関心もものすごく強いですね。

「棚からぼたもち」という諺がありますよね。一般的には「たまたまラッキーなことに出くわした」とか「運が良かった」的な意味で知られていると思いますが、僕は「ぼたもちが落ちてくるかどうかはわからないけど、常に棚の下にいるための努力をすること」こそがとても大事だと思っています。リチャード・ワイズマン博士の「運のいい人の法則」にも同じようなことが書かれていました。

ついこの間、「2015年のカレンダー」を何気なく見ていて、「6、7年前の自分の忙しさと比べると、この1、2年はそれほどでもないな・・・」と、ふと気づいたんです。もちろんコロナの影響もあって国内外を移動することや人と物理的に会うことが制限されていたことは事実です。けれども、それ以上に「新しいことに出会い、気づきを得るための時間」を意識して創ろうとしていなかったのかもしれない、とハッとしました。

一見無駄に見えるかもしれない時間をあえて創る努力を怠らない。慣れている環境から敢えて一歩踏み出す勇気を持ち、偶然何かに気づいたり出会うかも知れない機会を意識して持とうとする。こういう小さな日々の行いや心掛けで、いろいろなものが左右されていくのだと思います。

一人の人間として、じゃなかった、一匹のうろうろアリとして、松崎さんはこれからどのように人生を歩んでいくつもりなのだろう。何かとんでもない大きな目標を胸に抱いていたりするのだろうか。最後に聞いてみた。




今を生きることで、成長し続ける


松崎さん:以前、あるテレビ番組から取材を受ける機会がありました。クラウドファンディングや起業についての僕なりの考えをお話ししていると、何度も「もうちょっとデカいこと言ってくださいよー!」と言われてしまいました(笑)。取材を受けた後、この言いようのない違和感はどこからくるのかと考えているうちに、テレビ局は「この人は、どれくらい成功しているのか、どれくらい成功しようとしているのか」を伝えることに興味がある一方で、自分自身は「どうやったらサポートをしているプロジェクトオーナーの皆さんを成功に導くか」に興味があったんだ、と気付いたんです。

もちろん私にも成功している人へのリスペクトもありますし、羨ましいと思う気持ちもあります。でもそれ以上に「いつも成長したい」と思っているのかもしれません。と同時に、「失敗しないと人は成長しない」とも思っています。

三木谷さんの振る舞いから教わったことに、「人生は一度しかない」というメッセージがあります。人生は一度しかないから、やりたいことがあったら失敗するリスクがあっても、思い切ってやる方がいい。もちろん、やった結果がいつもうまくいくとは限りませんし、やったことは戻りません。だからこそ大事なのは、「結果がうまくいったかどうか」ではなく、「やりたいかどうかということを自分で決断することができるかどうか」そして、「結果にかかわらず、その決断を自分で正当化できるかどうか」ということだと思うんです。

人間誰しも、元気な時間は無限ではなく、限られています。“その日その日を、大切に生きる”。この気持ちがあれば、何かに失敗しても成長につながる力に変えることができると思いますし、いつも迷わずにやりたいと思う方に進めるのだと思います。



インタビュー後の独り言

うろうろアリという存在に僕が興味を持ってから、もう7、8年が経つ。前述のように、松崎さんにお会いした10年前の第一印象は「超エリート」だったが、仲良くお付き合いをさせていただく中で、自分が知らないことに足を突っ込みながら、自分ならではの価値を創ることを楽しんで模索されている松崎さんの様子を伺うにつれて、彼こそうろうろアリの代表だ、と確信するようになった。しかしこれまでの経歴を点だけで結ぶと、どうしてもエリートにしか見えない・・・そんな松崎さんをなかなかうろうろアリとして紹介できず、忸怩たる思いだった。

今回6回目にしてようやく松崎さんを紹介できたのを、個人的にはとても嬉しく思っている。もちろん何にでもむやみやたらに足を突っ込むのではなく、同時に色々なことも冷静に分析しているだろうが、やはり根本にあるのは「Carpe Diem (今を精一杯生きよう)」というシンプルな想いだ。今、この一歩にフォーカスできれば、過去に捉われることなく、未来を恐れすぎずにいられる。そして、後から振り返れば、その一歩一歩のつながりが自分自身のオリジナルな道になっているのだろう。Stay Playful. 


最後に。僕は今、うろうろアリに関する書籍を手がけていて、いよいよ原稿の最終化に取り組んでいる。アリが冬眠から覚める来年の春前には出版できるように頑張っている最中だ。しかもこのうろうろアリの連載のご縁もあって、PAPERSKY出版からの栄えある最初の書籍として出版できることをとても嬉しく思っている。ルーカス、ありがとう!そして、皆さんも是非読んでください!



『The Playful Ants -「うろうろアリ」が世界を変える』

蟻の世界を覗いてみよう。まじめに隊列を組んで一心不乱に餌を運ぶ「働き蟻」の他に、一見遊んでいるように「うろうろ」している蟻がいることに気づくはずだ。この「うろうろ蟻」、本能の赴くまま、ただ楽しげに歩き回っているだけではない。思いがけない餌場にたどり着き、巣に新しい食い扶持をもたらす。自分たちに襲いかかる脅威をいち早く察知する。

人間社会も同様だ。変化のスピードや複雑性が増す現代。何かを人に命令されて一心に動く「働きアリ」ではなく、自分ならではの目的意識や意義に導かれながら、自分なりの生き方や働き方を模索する「うろうろアリ」こそが、新しい価値を社会にもたらすのではないか。

一人ひとりの人間はアリのようにちっぽけな存在だ。けれど、そのアリが志を持ち、楽しみながら歩いていけば、それは新しい価値を見出し創り出すことにつながっていく。世界を変えることにもつながるだろう。僕は、アメリカのコーネル大学経営大学院の職員として、また、東京に拠点をもつ小さなコンサルティング&コーチングファームの代表として、数多くのグローバル企業や日本企業と実践的なイノベーションプロジェクトをリードしてきた。その経験から、確かにそう感じている。

「うろうろアリ」は、当て所なくただ彷徨うアリではない。人生を心から楽しむ遊び心を持ったアリだ。だから、僕はこれを「Playful Ants」と訳した。この世界に、「働きアリ」ではなく、もっと「うろうろアリ」を増やしたい。この思いを胸に、この連載では、僕が魅力を感じる様々なタイプの「うろうろアリ」たちの働き方や生き方を紹介していきたい。

さあ、Let’s be the Playful Ants!


唐川靖弘 (うろうろアリ インキュベーター)
「うろうろアリを会社と社会で育成する」ことを目的に組織イノベーションのコンサルティング・コーチングを行うEdgeBridge社の代表として10か国以上で多国籍企業との実践プロジェクトをデザイン・リード。その他、企業の戦略顧問や大学院の客員講師を務める。