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八ヶ岳連峰のヒルクライムでまさかの段取りミス

 

10/21/2022

松原湖から八ヶ岳連峰に向かう道は、よくある田舎道といった風情でパッとしないかもしれないが、外国人の目には、目に映る些細なことのすべてがとてもスペシャルなものに感じられる。

北アルプスと南アルプスが交差する地点にある八ヶ岳連峰は、規模感こそ同等だが、八ヶ岳連峰の方がちょっと地味な感じだ。僕は大河原峠(標高2100mの登山口)から、いくつか長丁場の登山をするために比較的シンプルなルートを設定していた。道中、高度が高くなるにつれて、松の香りが濃厚になってくる。普段、街で暮らしていると、山で体験する出来事を忘れがちだ。自然に接する機会が少ないと、山にいるときに、自然の力をより強く感じるようになってくる。

山々にはまだ少し雪が残っていると言われた。実際、登りを進めてみると、冬の名残が感じられる。おおむね好天に恵まれたが、山頂まで数百メートルの地点で、明らかに気温と大気圧が下がり、かすかに霧がかかり、小雨が降り始めた。ついさっきすれ違ったバイクに乗った旅行者が、決まり悪そうに振り返り、道がふさがっていると僕に告げた。彼の忠告を聞いておくべきだった….。

60cmほど雪が積もった目前の道をハイキングしながら、僕は自分がやっていることは、果たして危険であるのか、いまひとつ判断がつかない状況だった。僕は現状を危険とは感じていなかったが、強風、好天、雪に見舞われながら、これまで通ったことがない、知らない山道を通ることにはやはり不安を感じたし、この気持ちは雪が弱まってくるまで続いた。山道には岩石や雪が解けた後の瓦礫が散らばっていたが、ほどなくして、僕は再び自転車にまたがって、びっくりするくらいの絶景を眺めながら、ジグザクの道を蛇行しながら降りていった。10kmほど楽しいひと時を味わった後で、僕は雪で方向感覚を失い、道を曲がることを忘れてしまったことに気づいた。嵐が迫る中、僕はアドレナリンで高揚した気持ちで来た道を戻り、吹雪で見失っていた道にたどり着いた。

湖の方に向かう道に戻ることができれば、このいまいましい雪がおさまった後には、進むべきルートにきっちりと進めるものだと願っていた。運の悪いことに、この狭いリボン状に伸びている道はすごく険しかった。砂利道が見えてきたときは、わずかな希望の光が見えてきたのだが、進んで行くに従い、この田舎道はさらに険しくなり、おまけに再び雪が降ってきた。砂利、岩石、倒木…..状況はますます悪化してきた。山道の高度はどんどん高くなり、雪の降りも強まり、霧も濃くなってきた。道には正体不明の動物の足跡があるのみ。僕はだんだん怖くなってきた。

ここでちょっと一休みをしたことは、おそらくこの日に僕が下した決断の中で最良のものだった。状況の好転を願うばかりに、無理にことを進めてしまうのは、人間の性のようなものだ。得てして、それは悲劇的な結果になる。GPSをじっくりとチェックしてみると、この道は少なくとも、さらに500メートル続き、コンディションは予想できなかったので、もう少し走行が楽にできる道を見つけるために、僕は引き返すことにした。ようやく雪の降りが弱まってきたとき、そこに見えてきたのは、巨大な岩石が立ちはだかる砂利道で、どう見ても僕の自転車の細いタイヤでは走行不可のように思えた。この先、この道が少しは走りやすくなることを願って、僕は自転車に乗ったり、歩いたりしながら15キロほど進んだが、結局、歩いて進むしかない状況に陥った。

ここまでタイヤがパンクしなかったのは、奇跡的とも言えるが、いつかはパンクする運命だったと思う。道の険しさは極限的で、マウンテンバイクならば、なんとか走行可能だっただろう。ついにタイヤがパンクした時、どうにか太陽の光が降り注ぐ場所にたどり着けたのはラッキーだった。タイヤを交換する時間は、水分補給をしてスマホをチェックするいい機会だった。もっとも、ここには電波が届かないようだ。数人のハイカーたちが僕を励ますように微笑みながら通り過ぎていったが、これからの道のりは長いし、この山道がどこで道路に交差するのかはまるでわからない。スペアチューブは1つだけだし、ロードバイクで険しい山道を下っていくことは、硬いカーボンソールの冴えないサイクリングシューズに激しい振動と衝撃を与える気がして、すごくキツそうだった。

さらに1時間、つらい下り道を走行し、ついに農家が見えてきた。これは山道の終わりを意味している。そこからは走行しやすいスムーズな美しい道に変わり、雲ひとつない青空の下、僕は野原を走り抜けた。家に着くまでは、まだ15キロ走らなくてはならないが、気持ちはとても安らいでいた。でも、その後すぐに、でこぼこで走りにくく、トラックや自動車が僕を排水路に追いやるようになったほど、ひどい道になったけど。ともかく、今回のアドベンチャーは終わった。山中で体内に巡っていたアドレナリンが鎮まり、僕は身も心も脱力状態だった。旅の最後の5キロに及ぶ険しい上り坂の連続は、いつまでたっても終わりがないように思えた。

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