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Outdoors & Design 05

山戸ユカ・山戸浩介

一味違うアウトドアライフ

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

06/28/2022


「物事をもっと大きな視点で見ながら、すべてが私たちに関わりのあることと考えて、行動するべきだと思います」



世界各国でハイキングをしているとき、僕は実にさまざまなものを食べている。湖水地方では、ケンダルミントケーキのお世話になったし、イタリアンアルプスの山奥では、フルコースメニューをワインで流し込んだ。ヒマラヤ山脈では、焚き火で調理したカレー、日本の山小屋ではたくさんの種類のカップヌードルを食べた。で、僕はようやくトレイルに持っていく理想のフードに巡り合った。それは、DILL eat,life.を営む山戸ユカ、浩介夫妻が作っているオリジナル・トレイルフード、The Small Twist Trailfoodsだ。今回はこの世界最高のトレイルフードを巡るストーリーをお届けする。


2019年、僕は、ユカ&浩介夫妻と山梨県にある彼らの素晴らしい自宅兼レストランではじめて出会った。でも、その前に遡って、2012年に彼らが踏破したジョン・ミューア・トレイル (JMT) から話を始めよう。

JMTは、ヨセミテ渓谷からホイットニー山までの約350kmに及ぶ長いトレイルで、ここから新しいライフ・フードスタイルの種が蒔かれた気がする。

野外料理を得意とする料理人であり、フード・リサーチャーでもあるユカのトレイルフード調理へのアプローチは枠にとらわれないものだ。彼女のトレイルフードは、限りなく素材をそのまま活かしたかたちで調理し、生野菜、ライス、その他、無添加のフリーズドライの素材と組み合わせたものがメインだ。

JMTの道程には、新鮮な食材を調達できる店などもちろんなく、彼らは必要な食材すべてを苦心して詰め込んでトレイルに臨み、キャンプ場では朝、晩ともに新鮮な食材を使ったいつも通りの食事をした。ランチは、ハイク途中に高カロリーのバーなど簡単な行動食で済ませることが多かったが、その行動食が尽きてきた時、あることを思いついた。

この時、ユカは夕食の食材を少しだけ残しておき、クスクスオムレツや パンケーキ、おにぎりなどの、翌日用のお弁当(行動食)を作った。それを見ていたアメリカの長距離ハイカーたちは、目を丸くして驚いた。

一方で、ユカ&浩介ははじめてアメリカのDIYクッキングとカルチャーの洗礼を受けた。彼らは家で作った料理を乾燥させたドライフードを持参し、夜キャンプ地でお湯で戻して食べていたのだ。

1日の終わりにキャンプファイアーを囲みながら、いろいろな人と語り合い、料理をしながら、各々のストーリーを共有することは、アウトドアライフの楽しみの一つだ。

その後、日本に戻ったユカ&浩介は、ストレスの多かった東京の生活に終止符を打ち、八ヶ岳南麓に移住した。家族が所有している土地の一画を占める、南アルプスが一望できるこの場所で、彼らは自宅兼レストラン(DILL eat, life.)を自分たちの手で作り上げた。

よく晴れた3月の午後、僕はDILL eat, life.を訪れた。ユカの料理を食べること、そして、彼らとフードやアウトドアライフについて話せると思うとワクワクした気持ちになった。特に、僕は彼らのトレイルフードのプロジェクトに興味津々だった。

トレイルフードについて馴染みのない方に説明すると、典型的なものとしては、さまざまなソースで味付けしたライス、パスタが挙げられる。お湯を加えただけで調理できる、いわゆるインスタント食品だ。たしかに便利だが、味はそこそこで、使われている原材料も出所がよくわからず、怪しげなものも多いようだ。

彼らは、JMTでの自炊経験以来、レストランと同等のクオリティの料理を作ろうと考えてきた。大量生産されている食品は、彼らが望んでいるトレイルフードのレベルではなかった。彼らが求めていたのは、持ち運びやすく、栄養価が高い、添加物の入っていない、自然な味わいのものだったのだ。

アイディアを実現することは難しかったが、数年後、長年の友人である、清水麻由子さんが加わったことが、プロジェクトを前進させた。彼らはオーガニックな地元の旬の素材を使って、ヘルシーで新しいタイプのトレイルフードを作ることに挑戦を始めた。そして、生まれたのがThe Small Twist Trailfoodsだ。 このトレイルフードは、彼らが普段調理している添加物が一切入っていないメニューをドライフードにしたものだ。

レストランにお客様がいないときや、The Small Twist Trailfoodsの仕込みがないときは、ユカと浩介は山にいる。冬は、山スキーかスノーボード、暖かい時期はマルチピッチクライミングを楽しんでいる。 いつでもThe Small Twist Trailfoodsをバックパックに詰めて、リラックスした気分で料理をしながら、標高の高い場所での時間を楽しみ、クライミングで得られる達成感を味わっている。

東北での春の山スキー、そして、お気に入りの瑞牆山、小川山でのクライミングの様子


人は食事によって決まる


僕は、彼らと話をする度に、毎回新しいことを学びながら、程なくして、「人は食事によって決まる」という、誰かが言った格言に行き着いた。ユカは、さらにこう説明してくれた。私たちの身体は食べたものでできている。しかし、健康というものはそのことだけに依存しているわけではなく、自然全体のエコシステムに依存しているのだという。マクロビオティクスの3つの原則の一つは、身土不二だ。つまり、私たちは自分の身体を今生きている土地と別のものとして考えるべきではないのだ。この二つは本質的かつ相互に結びついている。旬な農作物(および動物)を食べることで、私たちの身体と精神は年間を通じて健康に過ごせるようになる。旬の野菜は、余計な肥料や農薬を使わなくてもすくすくと育つものなのだ。

また、私たちは作物を育てる人の健康、そして、土壌のコンディションについても考慮すべきではないだろうか。地下水、河川、海洋と同様に、その土地で生活を営んでいる農家、生きている動物、昆虫、植物、微生物など、すべてがつながっているのだ。 

「物事をもっと大きな視点で見ながら、すべてが私たちに関わりのあることと考えて、行動するべきだと思います」

新鮮な食材のセレクトと調理に注力するばかりではなく、自然と食材へのホリスティックな考え方が彼らの料理に反映されている。彼らのアウトドアとフードに対する利他的な視点と熱い思いはひしひしと僕たちに伝わってくる。それは、DILLで食事をしても、トレイルでThe Small Twist Trailfoodsを食べた時も明らかだ。お客さんや社会に対してだけではなく、環境、そしてこの地球という惑星全体への彼らの思いが感じられるのだ。「これは私たちがある特定の状況で行なっていることではなく、あらゆる場面で最善を尽くそうと努めていることなのです」

最後に彼らにとって、成功とは何を意味するかを訊いてみた。「私たちにとっての成功とは、いつでもベストなことができる状況の中で、小さなことに幸せになれる気持ちをいつでも忘れないことです」

小さなThe Small Twist Trailfoods を食べるときに僕も幸せを感じるし、ユカ&浩介の友だちであることを光栄に思う。この文章を書きながら、彼らと会ってからずいぶんと時間が経ったように感じているが、The Small Twist Trailfoodsをランチタイムに調理する時はいつでも彼ら、農家、そして大地とつながっていると感じるのだ。

この気持ちはこれからもずっと続いていくだろう…


Photographs courtesy of Kosuke Yamato – © Copyright Kosuke Yamato 2022 or James Gibson – © Copyright James Gibson.

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