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BESS × PAPERSKY

なぜ“間貫けのハコ”?
内と外をつなぐ中間領域の価値とは

One Japan ~ 47 Neighborhoods

47Neighborhoodsは、日本の各地方で実現可能な「クリエイティブで豊かな暮らし」をBESSとPAPERSKYが探す旅の物語。第六回目は特別編ということで、BESSのニューモデル「間貫けのハコ」に潜入。この家が有する伝統的な価値について、皆でゆるりと会話を重ねた。

03/28/2024

今回は本シリーズの特別編。埼玉県熊谷市のBESS LOGWAYにて、できたてホヤホヤのニューモデル「間貫けのハコ」をテーマに、これからの時代にふさわしい「心地良い暮らし」を探っていく。メンバーはPAPERSKY編集長のルーカス、「間貫けのハコ」を考案したBESSチーフデザイナーの山中祐一郎さん、BESS営業本部の山本健介さん、そしてPAPERSKYの編集者で、2年ほど前に埼玉の飯能へ移住した堀内明の4人。それぞれが思い描く理想の暮らしを「間貫けのハコ」の気持ちいいリビングで語り合った。もちろん、おやつとお茶を囲みながら。

訪れた人/ルーカス B.B.(PAPERSKY編集長)
訪れた人/堀内明(PAPERSKY編集部)
迎えた人/山中祐一郎さん(BESSチーフデザイナー)

迎えた人/山本健介さん(BESS営業本部)


1. キーワードから始まる豊かなストーリー



新しいBESSのモデルを考案しようという社内でのお題に対し、いきなり「間貫け」というキーワードを提案したデザイナーの山中さん。もちろん「間抜け」ではなく「間貫け」ではあるが、どうやってこんなに面白いキーワードを思いついたのだろう。会話のスタートはまずそこから。リアルな「間貫けのハコ」をひとしきり見て回った後、会話の口火を切ったのはルーカスだった。


ルーカス 「僕、結構、興奮してると思う(笑)。このニューモデルが発表された時から面白いなと感じていて。家の雰囲気もネーミングも、ほどよく軽い、自由な感じで、僕がBESSの家を建てるとしたらこれだなと思っちゃった。ワクワクする家だよね」

山中 「僕はもう20数年、BESSの家を企画段階からデザインしていまして。いつもはじめに行うのは、BESSというブランドが何をすべきか、開発会議のメンバーにぶつけてみること。これまでBESSが育んできた価値観を踏まえて、次の時代に向かって、どんな家をリリースしていくべきかを提案するんです」

ルーカス 「いつも会議のメンバーにはまず何を伝えるの?」

山中 「具体的な家のフォルムとか間取り図ではなく、言葉なんです。家というより少し先の未来を見据えた”暮らし”について、その価値観を言葉にします」

ルーカス 「それが”間貫け”だった?」

山中 「そうそう。普通のハウスメーカーなら”マヌケ”なんてネーミング、絶対にあり得ないですよね(笑)。ですがこの言葉には愛があると思っていて。人を責めるときに“バカ”って言葉を使いますが、”マヌケ”には少し優しさやユーモアがあって、許しの言葉というか、また、”抜け”という言葉からは程よい余裕が感じられます。また、AIの進化やコンプライアンス強化が際立つ今の時代、多様な場面できっちりとした正解が求められて、人々には余裕がなくなっている気がしているんです」

ルーカス 「その通りだね」

山中 「BESSというブランドの中には”おおらかに暮らす”という価値提案がつねにありますが、あらためてこの時代にこれまでとは異なる言葉で”おおらか”を定義し直すことができると思ったんです。それで出てきたのが”間”と”抜け”というワードでした。”抜け”という言葉、概念は日本人の美学として実は古くから定着していますよね。”間”という言葉も同様ですが、どちらも気持ちがいい感じとか、時間的、空間的にほどよく隙間があるようなイメージ。この”間”と”抜け”という言葉をもとにコンセプトが作れないかと考えて、”間貫け”というワードを導き出したんです」

ルーカス 「営業する立場としてはどうだったの?山本さん」

山本 「ええ、はじめて聞いた時はとても不安で(笑)。だけど、落ち着いてこの言葉に向き合うと、今の時代性にメチャクチャ合っているんじゃないかと思い直せるようになったんです。なんでもかんでもスピーディに正解を求めるような社会で、なんだか生身の人間は心が満足していないようにも感じていました。”マヌケ”って柔らかくて人間味があるじゃないですか。実際にこの家はスコンと”抜け”のいい空間が心地良いですし」

山中 「BESSは非常に言葉を大切にする企業で、なにかを作るスタート地点では必ずコンセプトを言い当てた言葉をメンバーで共有するようにしているんです。言葉が決まるとその後、ものごとがどんどん進んでいくと思うんですよね」

ルーカス 「よくわかるね。ワードが決まるとそこからビジュアルがどんどんイメージされてくる。決まったワードに対して必要な要素が自然と集まってくるというか、空気ができていくという感じかな」



2. ”縁側”という日本の伝統的価値に着目



日頃からさまざまな地域を訪れ、コンテンツづくりに勤しんでいる堀内は、新しいアイデアを探す毎日をよりカラフルなものにしようと、2年ほど前、都心から埼玉の飯能市へ移住した。自然に囲まれた理想的な土地を確保し、ナチュラルな木の風合いを活かした家を建てたばかりでもある。そんな堀内が「間貫けのハコ」を見て、中に入って、その印象を口にする。


堀内 「なんだかこの”間貫けのハコ”には、僕自身が家に求めていたものが詰まっているような気がしてるんです。木の風合いをできるだけ活かしたいとか、”和”を感じられるテイストが注入されているとか、家の中に仕切りというか、壁がほとんどないとか。BESSといえばナチュラルなんだけど先進的といったイメージを持っていたんですが、この”間貫けのハコ”は日本人が昔から当たり前に暮らしてきた家の雰囲気があって。やっぱり日本人が落ちつくのはこういう雰囲気だよなあと思わせてくれるんです」

ルーカス 「そうそう、日本っぽいよね。僕は縁側が気に入った」

堀内 「前に開けた縁側がとても新鮮で。縁側には境界線がなくて外部と内部が自然につながる感覚がありますよね」

ルーカス 「僕がこの家を手に入れたら、縁側から出入りするようにしたい。だから入口のドアとか玄関はいらないかも(笑)」

山中 「そう言ってもらえるととてもうれしいですね。入口のドアはともかく(笑)。縁側はこだわった部分で、日本の家って近代化とともにどんどん境界を作ってきたと思うんです。敷地の入口に門を作り、隣家との境界に塀を建て、セキュリテイのカメラを設置し、外からのコミュニケーションをまずは閉ざそうとする方向性です。もちろん歓迎しない侵入者は防いだ方がいいのですが、一方でコミュニケーションの断絶という課題も突きつけられているような気がします。古き良き日本人の暮らしはもう少しゆるくてあたたかいものだったんだろうと。だから家の中と外をつなぐ、街と家をつなぐということをあらためて考えたいと思ったんです」

堀内 「郊外に暮らしてみて、近所の人が野菜を持ってきてくれたり、ふとしたタイミングで人が訪ねてきてくれるんです。そういう時、縁側はちょうどいいですね。互いに気を遣わず、座ってお話できるので」

ルーカス 「縁側で誰かとお話したり、お茶飲んだりするのって楽しいよね」

山中 「”間貫けのハコ”は面構えからウェルカムですよという表情にしたかったんです。ですからもう全面、縁側にしてしまいました(笑)。どうぞ、押しかけてくださいと」

ルーカス 「外から見て、縁側に人がいると気軽に声をかけやすいよね」

山中 「つなぐ、という意味では家の中にドアとかしきりがないのも大切なこだわりです」

堀内 「自分も家にはしきりがない方がいいなと思っていたんです。それぞれ違う場所にいても、家族がつながっている感覚がありますし。この”間貫けのハコ”は本当にしきりがないですよね」

ルーカス 「しきりがなくても全然、困らない。しきりがないことで、この空間をどう使おうかって考えるのも楽しいよね」

山本 「そうですよね。もちろんどうしてもプライベートな空間が必要であればカスタイマイズできますし、ユーザーが自由に使い方を考えてほしいというBESSの思いもあります」

ルーカス 「いま、東京の渋谷と静岡の焼津で二拠点生活を送ってるんだけど、焼津には僕ら夫婦に加えて92歳のおばあさんも住んでいて、そのおばあさんの動きを見てると面白くて。日差しが気持ちいい日には家の中で日当たりが一番、いい場所にいて、ちょっと寒い時は家の中で一番暖かそうな場所にいるの」

堀内 「猫みたいだね(笑)」

ルーカス 「そう(笑)。だけどそれが自然じゃない?リビングとか寝室とか決めなくても別にいい。その瞬間、居心地のいい場所にいればいいわけだから」

堀内 「既成概念ってたくさんありますよね。そういう概念を一度取っ払ってしまえば、暮らしにも新しい可能性が生まれると思います」

ルーカス 「その通りだね。ところで、なんかあれだね。お腹が減ってきたね」



3. 人間には”中間領域”が必要なのだ



ここで、堀内が持参したおやつが登場。箱の中から出てきたのは卵らしき可愛い風情のおやつ。埼玉県毛呂山町の養鶏場直営のバウムクーヘン専門店の「エッグバウム」だ。卵型のふんわり柔らかいバウムクーヘンを食べながら、会話は少し小難しい「中間領域」という概念について盛り上がっていく。果たして、「中間領域」とはいかなるものか?

ルーカス 「これ、おいしいね」

堀内 「縁側があると、おやつタイムもさらに楽しいね」

ルーカス 「そうだね。空間があると暮らしの中でちょっとした工夫ができる」

山中 「そういえば、僕、軒下研究会っていう集まりをやっていまして」

ルーカス 「どういう会?」

山中 「日本の家からどんどん軒下空間が失われているんです。だから軒下の価値を再確認するような会です。BESSも一所懸命、軒下を確保しようとしているんですよ」

ルーカス 「軒下、いいよね。僕、大好き」

山中 「僕も好きです。軒下がなくなる理由は明確で、建築基準法があるからなんです。壁から1mの範囲までは軒を出していいんですが、それ以上出すとなると床面積に計算されてしまう。つまり、軒下を1m以上出すとなると、限られた敷地の中で床面積を狭くしなければなりません。ですから軒はミニマムにして、極限まで床面積を広くしようとする人が多い。ですけど、軒下が1m未満なんて、その下のスペースを有効に使えるわけがありません」

堀内 「そういうことなんですね」

山中 「床面積を優先させると、軒下、つまり外と内の中間領域がどこかに追いやられてしまうんです。そうなると、家の中にこもってエアコンに頼る、という生活になっていくでしょう」

ルーカス 「”間貫けのハコ”は思いきり、軒下あるね」

山本 「そうです。思い切り」

山中 「外と内の中間領域はやっぱり大切にしたいので、この家では思い切り軒下空間を確保したんです」

ルーカス 「埼玉ってなんか、東京と田舎の中間っていう感じがするよね」

堀内 「そうだね。僕が埼玉を選んだのも“中間”だったからなんだと思います。週に何日かは仕事で東京に出る必要もあるし、でも段々と、自然に囲まれたのどかな環境を求めるようになってきたので。自分が中間領域にいれば、両側にあるいいところを得られるような気がしますね。さらに、家にも中間領域があるっていうのはとても落ち着ける気がします」

ルーカス 「都会にいると、いつも何かをしていないといけない気分になるよね。だけど何もしていない時間にだって価値はあるよ。ぼーっとしてる時にいいアイデアが生まれたりするし」

山中 「昔の日本人はそういう曖昧さ、グレーゾーンの価値を心の底で理解していたんじゃないでしょうか。”間貫けのハコ”でもそのような伝統的日本家屋の心地良さを現代的なかたちで表現したかったんです」

ルーカス 「そうだね。やっぱり僕は縁側から出入りしたいね。入口と玄関はなくていい(笑)」

山本 「はい、いろいろなユーザーの要望に沿いたいと思いますが、玄関をなくすっていうことができるかどうか、会社に戻って確認しますね(笑)」


間貫けのハコ
スペシャルサイト
text | Miguel Utsunomiya photography | Shuhei Tonami