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BESS × PAPERSKY

葉山の山奥で、
コーヒーの焙煎に目覚めたワケ

One Japan ~ 47 Neighborhoods

日本各地にはそれぞれの魅力やオリジナリティがあり、それぞれの地域はつながりあい、影響しあいながら独自のカルチャーを育んでいる。 47Neighborhoodsは、そんな日本の各地方で実現可能な「クリエイティブで豊かな暮らし」をBESSとPAPERSKYが探す旅の物語。第三回目は神奈川県の葉山町を訪ねる。 

07/20/2022

美しく華やいだ海、深い緑をたたえる山。双方の魅力を享受できる神奈川県葉山町。新緑が眩しい初夏のある日、PAPERSKY編集長のルーカスはアーティストのチョークボーイさんとともに葉山の山中を訪れた。

訪れた人/ルーカスB.B.(PAPERSKY編集長)
訪れた人/チョークボーイさん(アーティスト、イラストレーター/葉山町在住)
迎えた人/山口徹さん(葉山町在住、BESSの家ユーザー)


1. 今の僕を作ってくれた、BESSの家



以前は横浜の住宅街に夫婦ふたりで住んでいたという山口さん。ひと気の多い街なかでの暮らしをやめることに決め、移住先を探し始めたところ、たどり着いたのが葉山の山中。移住してからは思い切って仕事も切り替え、コーヒー豆の焙煎、販売を行う自身のブランド「HAYAMA LOG CABIN COFFEE」をスタートさせた。今では静かな山の中で、ひとり、コーヒー豆と向き合う時間をたっぷりと楽しんでいる。


ルーカス 「葉山って海のイメージが強いけど、ここはまるで山奥だよね。どうしてここに住むことになったの?」

山口 「はじめは海がいいなと思って場所を探していたんですが、本当に家から海が眺められる土地はちょっと高かったし、その支払いに追われるのも嫌だなって。引き続き海の近くで家を探したんですが、建物から海が見える家って意外に少ない。それでちょっと目線を変えていろいろと探すうちに、葉山って山がキレイなんだなという部分に気づいて」

ルーカス 「僕も葉山の山が好きだね。このBESSの家も周りの雰囲気に合ってる」

山口 「雑誌の広告などでBESSは知っていたんですけど、自分の家にしようとは思っていなかったんです。でも、いざ山に住むと決まると、そう言えば山ならログハウスじゃん、じゃあBESSじゃんと(笑)」

ルーカス 「そうなんだ」

山口 「もうひとつの理由は車なんです。僕、ジープを愛していて、メチャクチャいじったりしてる。それでジープに似合う家が欲しいなっていうのは結構あった。実際、BESSの家に住んでみるとジープはバッチリ合うんです。いつも眺めていたいから家からも見えやすい位置にジープを置いてて」

写真提供:山口徹

ルーカス 「それはそうと、なんでまたコーヒーを始めたの?」

山口 「ここに引っ越してから一年半くらい経った時かな、コーヒー始めたのは。実は僕、もともとコーヒーが苦手で緑茶とか白湯が好きで。だけどログハウスに住んでるのに緑茶と白湯はないよねって」

ルーカス 「コーヒーも家がキッカケなんだね」

山口 「自分が真剣になって淹れたら美味しいコーヒーなんてできるんじゃないかと思った。だけどすこぶる美味しくなかった(笑)。そこからハマっちゃったんです。なんでこんなに美味しくないものが世の中に溢れているんだろう、なんでこんなに美味しくないものを皆が飲んでるんだろうっていう、探究心」

チョークボーイ 「それはやっぱり、味の探求? 焙煎にもいろいろあるじゃないですか」

山口 「そうですね。自分の場合は深いのと浅いのの中間。知り合いに、BESSの家でカフェを運営している人がいて、その人のコーヒーを飲ませてもらったらとっても美味しく飲めたんです。飲めるコーヒーと飲めないコーヒーの差は何?となって、その人に焙煎してみたらって勧められた。焙煎すれば自分の好きなところにいけるじゃないですか。そうやって焙煎を始めて、インスタとかでアップしていたら欲しいという人が出てきて、じゃあこれ、売っちゃえばいいと(笑)。それで今に至る、随分、はしょってますけど」

チョークボーイ 「この家だからこの味になったとか? そんなことないか(笑)」

山口 「あ、でもやっぱりこの家が完全に今の僕を作ってくれてるのは確か。価値観はかなり変わりましたね。もちろん葉山の中でもちょっと珍しいこの山の雰囲気にも刺激受けて」


2. お金ってなんだっけ?



家と環境によってこれまでの人生を支えてきた価値観さえも変わったという山口さん。美味しいコーヒーを飲みながら、3人の話題は自然と「お金」に移っていった。


山口 「以前は欲しいもの、楽しいことがたくさんあるということで、当たり前のようにお金を稼がないとって思ってました。だけどお金を稼ぐイコール、忙しくなるということで、そうなると遊ぶ時間がなくなるじゃんっていうジレンマをいつも感じていて。だけどこの家に住むようになってから本当にこう、何もしない時間が贅沢だなって体感してるんです。稼ぐことって意味があることだけど、一生懸命、遊ぶ時間を削って、時間を使って仕事をするってことにどれだけ意味があるかなって」

ルーカス 「うん、ほんとだよね」

山口 「自分は車が好きだから、たとえば都内に住むことを想像するとベンツとかBMWとか欲しくなるだろうと。それに良い服を着たいし美味しいもの食べたいしと。だけどここに住んでいるとベンツとかBMWとかいい服とかあまり興味ないなってことに気づく。じゃあ本当に欲しいものって何か、自分でもわからなくなっちゃって」

ルーカス 「人の目を気にするタイプ?」

山口 「そうかも。だからこういう山の中に住んでみてはじめて、これまでは人の目を気にして生きてたんだなってわかったんです」

チョークボーイ 「話を聞いていて僕も欲しいものってなんだろうなって思っちゃいましたね。自分はあまり人の目とか気にしないんですけどね。今はドラムにハマっているからもっとお金があればとか、家を建てている最中なんであと500万円あれば半地下で防音室作りたいかもとか。だけどそれが本当に欲しいものかどうか。僕もやっぱりお金の価値についていつも考えていて、確かにお金ってなんだろうとか考えは揺らいでますね。何もせずゆっくりしている時、幸せだなあとか思う時もあって、これで良くない?とか。じゃあお金って?とか」

ルーカス 「そうだねえ。僕の場合は遊んでないとたぶん仕事にならない(笑)。だけどやりたいことを仕事にしていて、しかも遊んでいるからあんまりお金が欲しいってことも考えてない。もちろん本を作る最低限のお金は必要なんだけど、それさえクリアすればお金が余らなくてもいいし、結果として良い本が作れて、多くの人にインスピレーションを与えられればいいなってことだけ」

チョークボーイ 「僕は仕事で絵を描いてるでしょ。描くことって仕事とかお金とかすべて取っ払ったら、たぶん快感でしかないんですよ。子供って夢中で絵を描くじゃないですか。目的がなくても楽しんでる。そういう意味ではルーカスと同じで自分にとっては苦労じゃない。一方でお金についてはその価値を定義したんですよ、自分なりに。とりあえず紙とか金属だなと思うようにして、1000円札にしてもただ1000円分の価値が入ったメタファーだと。同時にお札自体には意味がないと」

ルーカス 「わかる」

山口 「わかります」

チョークボーイ 「お金っていうものを仲介せずに、欲しい人に絵を渡すってことを実験してみたんですよ。物々交換とか等価交換。今、定期的に届くコーヒー豆とお野菜、お米はそれこそ物々交換で得ているものなんです。僕は絵を描いて渡す、すると向こうは対価として物を送ってくれる。お互いのリスペクト、認めあえる関係がとても心地いいんですよね。そういう体験をすると、お金と自分の距離感がいい具合にとれたなと感じられてある場面ではもうお金って必要ないんじゃないかと思えるようになった。お金になればいいし、ならなくても他の方法があるかもって」

山口 「それは面白いですね。すべてがそうなれれば幸せかも」


3. なんにもしてなくても、満足できる家



ここでお約束の、お菓子タイム。甘いもの大好きなルーカスが持参したのは葉山名物「マーロウ」のビーカー入り手焼きプリン。もちろん山口さんが焙煎したコーヒーとともに。柔らかい日差しが窓から差し込むのを感じながら、至福の時間が続く。平日の真っ昼間、大自然に囲まれながらのお菓子タイム。

ルーカス 「やっぱり葉山だとこれ食べたくなっちゃう」

チョークボーイ 「葉山に住んでると意外と食べないから、たまに食べるとやっぱり美味しいよね」

山口 「パクパク」

ルーカス 「パクパク」

山口 「サラリーマンを辞めて、家でコーヒーを焙煎し始めるようになった当初は、いつも何かしていないと不安だったんですよ。せっかく時間を大切に使って、まさにこういう静かな生活を手に入れるために移住したはずなのに、時間が余ると不安という矛盾のループにハマってた。だけど、ようやく何もない時にも落ち着けるようになったというか」

ルーカス 「そういう感覚になるっていうのは、社会が作り出しているものなんだよね。いつも何かしていなきゃいけないよ、不安にならないとダメだよって。だけど個人としては自然の中で遊びたい、時間があれば家でゆっくりしたいって思ってるはずなんだよ。人が少ない場所に住むようになると、そういう当たり前のことに気付けるようになるね」

山口 「まあ、やっぱりこの家の居心地がいいということなんですかね」

チョークボーイ 「僕、省エネ住宅にまつわる媒体の挿絵を描く仕事をしたことがあって、その時、勉強しないと描けないなって思って、建築の工法とか熱貫通率とか調べてたら色々詳しくなって。それで思うのは、やっぱり居心地っていうのは家のスペックに左右されるんだろうなってこと。デザインも大事だけど、スペックが悪いと最終的に満足できる空間にはならない」

山口 「なんか落ち着けるっていうのは、結局、そういうことかもしれないですね。だけどスペックだけでもなくて、家の中にいて見える室内や、僕の場合、大切なジープを含めた家全体の見え方も大事だなって思います。そういう家の内と外も含めて、トータルで、自分の求める価値観とフィットしているから、毎日充実しているなって感じるんですよ」

ルーカス 「今日は家の中でずっと話してるけど、外もずっと静かだよね」

山口 「そう、何時間も車がまったく通らないってこともあるくらいで」

ルーカス 「海が目の前だったらこうはいかなかったかも」

山口 「ですね。妻が平日は会社に行っているので、日中は本当に一人の時間で。一人の時間が実はこんなに大好きだったって移住するまで分からなかったんです」

チョークボーイ 「ルーカス、そろそろ話をまとめないと」

ルーカス 「うん。プリンまだ残ってるよ。もう一個どう、みんな?」

山口 「じゃ、いただいちゃおうかな」


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