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Old Japanese Highway

江戸時代の旅人気分で、春の東海道歩き

歩いて旅する、日本の古道
東海道 静岡県沼津市・静岡市・藤枝市・島田市・掛川市

今回の舞台は、PAPERSKYではおなじみの東海道。編集長のルーカスB.B.が旧道歩きに目覚めるきっかけとなった一大街道は、江戸時代の庶民に最新の娯楽である“旅”を教えてくれた、当時のポップカルチャーの最先端をいくフィールドだった。大河ドラマの影響を受けて徳川家康ブームに沸く駿府を中心に、沼津宿から掛川宿までを、当時の旅人と同じ速度(1日約35km/9里弱)で歩いてみたら、新しい発見があるかもしれない。

07/11/2023



歴史も逸話も満載の、街道のキング


1600年に江戸幕府を開いた徳川家康が、はじめに取り掛かった施策が五街道の整備だった。いのいちばんに着手したのが、通信と物流を担う東海道の整備だ。街道が整備されたことで江戸時代中期以降には庶民の間で旅が一大ブームとなり、武士も商人も農民も、みんながこぞって旅に出かけた。旅人をもてなすため、街道沿いの宿場町には、たくさんの名物が生まれ、大いに賑わったのである。

旅は沼津藩五万石の城下町として栄えた沼津宿から。ゲストに迎えたスウェーデン人フォトグラファーのナタリー・カンタクシーノとJR沼津駅で集合し、さっそく東海道に入る。左手の千本松原は常緑の松と冠雪の富士山のコントラストが美しい……はずだが、あいにくの曇天で富士山は姿を現さなかった。

臨済宗中興の祖といわれる白隠禅師ゆかりの松陰寺で知られる原宿では、銘酒 「白隠正宗」をつくる高嶋酒造へ。じつは2011年に東海道を特集した際にもこの酒蔵を訪れており、蔵人の高嶋一孝さんとは12年ぶりの再会となった。この高嶋さん、ハウス&バレアリック・サウンドのDJとしても活躍しており、地元のクラブや野外スペースを中心に、ハウス×日本酒のイベントを定期的に開催している。

「少しテンポを落としたバレアリック・サウンドは、日本酒のメロウな飲み心地と絶妙にリンクするんです。野外のイベントでサンセットに合わせ、バレアリックと日本酒とタコスのペアリングを楽しむ。つくり手として、若い人に興味をもってもらえる楽しみ方を提案したいですね」

「白隠正宗」を手掛ける高嶋酒造の酒づくり

原宿を出ると吉原宿、歌川広重の 『夜之雪』で知られる蒲原宿を経て由比宿に至る。由比では由比缶詰所の見学へ。ルーカスが 「日本一おいしい缶詰」と絶賛する 「ホワイトシップ印」缶詰は、国内での流通が少ない、夏の上質なビンナガマグロを昔ながらの綿実油に漬け、半年以上熟成させたもの。缶詰工場のスタッフの、「昔、食べていたツナ缶はもっとおいしかった」という声により、昔ながらの材料・レシピを復活させたという。おすすめのレシピは、チキンの代わりにツナを主役に据えた炊き込みごはん。「米とツナ、ツナの旨みが溶け込んだ綿実油を全部一緒に炊くのがポイント」と、社員の川島大典さんが教えてくれた。

地元のネオン菅職人が手がけた 「由比缶詰所」のサイン

大量の缶詰をバックパックにしのばせた一行は、興津宿、江尻宿、そして府中宿へと進む。駿府にある府中宿は、駿府城を築いた家康が幼少時と壮年期、晩年を過ごし、駿遠最大の宿場町として栄えた。立ち寄ったのは、グランドオープンしたばかりの静岡市歴史博物館。1階には、ここで発掘された戦国時代末期(家康が45歳ごろ)の道と石垣の遺構がそのまま展示されている。東海道と並行するように設けられた脇道だが、その幅の広さにびっくり。「府中宿では、街道を行き来する人とものを引き込むことを目的に、東海道を引き込んでの街づくりが行われました」と、学芸員の増田亜矢乃さん。3階に展示されている 『東海道図屏風』は五十三次の風景を俯瞰で表現しており、眺めるだけで五十三次を旅した気分になれそうだ。

静岡市歴史博物館の3階の展望ラウンジから、駿府城公園を一望する


安倍川、宇津ノ谷峠 …… 難所は続く


江戸中期に創業した田尻屋総本家のわさび漬を買い求めたら、いよいよ安倍川の川越へ。江戸時代には橋も渡船もなく、川越人足による徒歩の渡しが行われていた。最盛期には川の両岸に1000人強の人足が配置されたが、流れが速く、水量も多い川越しには熟練の技と並外れた体力が必要だったようで、川越しを実際に体験したシーボルトは彼らを 「半人半魚の男たち」と表現している。川を西側へ渡れば、とろろ汁で有名な丸子宿、そして難所の宇津ノ谷峠が控える。

安倍川の川越を前に、蓮台に乗って当時の気分に浸る
ルーカスの大のお気に入り、「田尻屋」のわさび漬

丸子宿と岡部宿に挟まれた間の宿には、江戸時代の屋号と明治時代の街並みがそのまま残り、タイムスリップしたような趣。集落にあるお羽織屋には、家康が訪れて茶碗を贈ったという逸話が残る。宇津ノ谷峠を越え、藤枝宿と島田宿の中間にある瀬戸では、名物の染飯のいわれを訪ねて千貫堤・瀬戸染飯伝承館へ。染飯は戦国時代から街道の名物として供されていた郷土料理で、乾燥させたクチナシの実で色づけしたおこわである。クチナシには消炎、解熱、鎮痛などの薬効があり、このあたりの農家ではみな、自家用に栽培していた。そんな染飯は、滋養強壮効果のある携行食として旅人に重宝されたとか。

150年前の街並みがそのまま残る間の宿。眼前には難所の宇津ノ谷峠が迫る
『東海道中膝栗毛』にも登場する、東海道名物「瀬戸の染飯」。「千貫堤・瀬戸染飯伝承館」にはさまざまな資料が

大井川の川越しで賑わった島田宿で、甘酒皮を使った「小饅頭」で腹ごなし。参勤交代で島田宿を訪れた、松江藩の松平不昧の目に留まり、茶人として有名な不昧公のおかげで一躍、知られるようになったという、街道の名物だ。大井川を越えた金谷宿では、昔ながらの石畳の坂道が待ち構える。難所の小夜の中山前に、一面に広がる茶畑の絶景が気持ちを奮い立たせてくれる。日坂宿を過ぎれば掛川宿だ。

スタートして3日目の日が暮れる前、掛川城の大手門でゴール。およそ110kmの道のりを3日で踏破し、疲労困憊の一行が感じたことは、江戸時代の旅人の健脚さだった。いやはや、京都までこのペースとは……。「このまま京都まで歩こうよ!」と乗り気だったのは、ルーカスただひとりだったことは言うまでもない。

清水屋名物の小饅頭は、ほんのり甘くふっくらとした甘酒皮が上品な味わい
石畳の山道を上り詰めた先には、気持ちのいい茶畑が広がる。金谷宿でのワンシーン




Trail Guide
高嶋酒造
沼津市原354-1
TEL:055-966-0018
由比缶詰所
静岡市清水区由比429-1
TEL:0120-272-548
田尻屋総本家
静岡市葵区新通1-3-2
TEL:054-253-0740
千貫堤・瀬戸染飯伝承館
藤枝市下青島1006−3
TEL:054-646-0050
清水屋
島田市本通2-5−5
TEL:0547-37-2542
静岡市歴史博物館
静岡市葵区追手町4-16
TEL:054-204-1005
text | Ryoko Kuraishi photography | Yasuyuki Takagi