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Old Japanese Highway

『中道往還』

歩いて旅する、日本の古道
静岡県吉原〜山梨県甲府

「甲州寿司」をご存じだろうか。甘いタレを塗った、通常の1.5倍はあろうかという、特大サイズの握りだ。この甲州名物が生まれたのは、甲斐国(現在の山梨県)と駿河国(静岡県)を最短距離で結んだ街道、中道往還のおかげだとか。今回は「甲州寿司」を追いかけて、静岡県吉原から山梨県甲府まで中道往還を歩く。寿司に煮貝にジビエに……海の幸・山の幸も楽しみな“マグロロード”へ出発!

08/20/2021

海なし県の山梨でマグロが愛されるわけ

海なし県の山梨にあって、県民がこよなく愛するごちそうがマグロである。その消費量は全国2位、人口に占める寿司屋の割合は全国1位を誇るほど。熱いマグロ愛だがそのルーツは江戸時代に遡るとか。江戸時代、駿河湾で揚がったマグロはただちに馬に乗せられ、東海道の吉原宿(静岡県富士市)を出発し、最短ルートを進んで翌朝には甲府の魚問屋に届けられた。その最短ルートが中道往還というわけだ。山梨県人の胃袋を支えたともいえる中道往還は12世紀末の治承・寿永の乱以降、軍用道路として使われ、戦国時代には武田信玄や織田信長、徳川家康も利用した。江戸時代になると旅人や商人、駿河湾で水揚げされた海産物などが盛んに行き交って「塩の道」「魚の道」と呼ばれるようになった。

駿河湾からマグロの足跡をたどって、甲府で特大のマグロの握りを食べよう! そんな野望を抱いてスタート地点となる吉原に集まったのは、甲府のアウトドアショップ「SUNDAY」のオーナー、石川幸之助さんと「PAPERSKY Japan Stories」のデザインを手がけるベルギー出身のシラス・ヴィダール。石川さんのナビゲートで、80km先の甲府を目指す。

はじめに立ち寄ったのは富士宮市立郷土資料館。郷土の史実に詳しい渡井一信館長に富士宮市と中道往還の関わりをうかがう。

「駿河と甲斐を結ぶ道が整備された背景には、富士山信仰や富士講の存在もあったはずです。中道往還沿いには富士山本宮浅間大社の他、日蓮宗の名刹、富士五山が点在します。また富士講の開祖である長谷川角行が修行した人穴富士講遺跡も街道近くにあります。多くの人々が中道往還を通って富士山を目指したということは、信仰の道でもあったのです」

富士宮市の浅間大社は全国の浅間神社の総本宮

渡井館長の案内で中道往還の旧道と、源頼朝に由来する「富士の巻狩」や「狩宿の下馬桜」の舞台を歩いた。その先に控えるのは、富士山麓の湧水が流れ落ちる「白糸の滝」だ。街道はいよいよ湖畔パートへ。

1日目の道草は、本栖湖畔にあるジビエ料理のレストラン「松風」。店主の滝口雅博さんは猟師にして町のシカ肉処理場所長を務める。獣道を含むあらゆるトレイルをくまなく歩く滝口さんは、旧道にまつわる歴史にも詳しく、さまざまなエピソードを披露してくれた。

ようやく本栖湖が見えてきた。1日目のゴールはもう間近

2日目は前日に宿泊した精進湖民宿村からスタート。この日のハイライトである右左口町の「右左口宿歴史文化村推進委員会」から佐々木茂隆さんと渡辺勝明さんがガイドとして参加してくれた。天然記念物の「精進の大杉」と精進諏訪神社に参詣後、総勢7人で歩き始める。

甲府市内では、おいしいコーヒーにほっとひと息


街道随一の宿場町は文芸の村

古関町の口留番所跡から車道を外れ、迦葉坂の急峻な山道を右左口峠へ。道筋には、道中の安全を祈願した馬頭観音や千手観音の石仏が30以上も残されている。供養塔であり当時の道標でもあったのだろう。石仏には個人や講の名前が刻み込まれていた。

そのまま歩くと甲府盆地を一望する右左口峠に到着、それを一気に下ると右左口宿(現・右左口町)である。戦国時代から宿場らしき町が形成されていたが、その後、織田信長の往来のために徳川家康が整備した宿だ。天正年間、家康によって特権が授けられたといい、当時の御朱印状や徳川家の家紋を瓦にもつ蔵「宝蔵倉」などが、江戸時代の風情をいまに伝えている。

そうそう、ここは“望郷の歌人”こと山崎方代の生まれ故郷でもあり、あちこちに彼の歌碑が建っている。身近な情景をひょうひょうとした口語で詠んだ歌の数々には親近感があり、込められたユーモアや孤独に、にやりとしたり切なくなったり。佐々木さんや渡辺さんもさらりと一句詠んでくれた。どうやら町全体で詠歌が盛んなようだ。

右左口宿を守る厄除地蔵さんに旅の無事をお願いする

3日目は右左口町にほど近い「右左口の里」からゴールの甲府城跡に向かう。甲府での道草は、創業400年を誇る煮貝(煮アワビ)の名店「みな与」。これも中道往還が生み出した郷土食である。

醤油樽にアワビと笹の葉を詰め、馬の背に乗せて運んだところ、馬の体温であたためられ、甲府に着くころにちょうどいい味加減になっていた……というのが煮貝のいわれで、近海の黒アワビだけを使い、昔ながらの製法で仕込まれる「みな与」の煮貝は、甲府の人にとってもハレの日のご馳走なのである。

「みな与」11代目の飯島彰(左)さんと12代目の尚さん
蔵や伝統的な造りの家々が連なる右左口宿

お腹も空いてきたところでいよいよお待ちかね「魚そう中道分店」で甲州寿司をいただいた。メインはもちろん、マグロである。

「このあたりでは農作業の合間に食べられることが多かったので、食べがいのあるように大きく握り、保存性を高めるためにタレを塗ったと聞いています。生ものを少しでもおいしく、長く食べてもらいたいと考えた先人の工夫ですね」と大将。駿河からの80kmを思い返しながら特大の握りにかぶりつく。ぺこぺこのお腹に、脂ののったマグロの旨みがしみわたった。

「魚そう」の甲州寿司は、特大サイズの握りに醤油ダレを一はけして




Trail Guide
富士宮市立郷土資料館
静岡県富士宮市宮町14-2
富士宮市民文化会館内
TEL: 0544-65-5151
松風
山梨県南都留郡富士河口湖町本栖120-1
TEL: 0555-87-2501
岳心荘
山梨県南都留郡富士河口湖町精進514-48
TEL: 0120-662-327
右左口の里
山梨県甲府市中畑町1132
TEL: 055-266-4680
みな与
山梨県甲府市中央3-11-20
TEL: 055-235-3515 
魚そう 中道分店
山梨県甲府市上曽根町2920-3
TEL: 055-266-2203