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Old Japanese Highway

南アルプス深南部のトレイルは、
お楽しみの宝庫
『川根トレイル』

歩いて旅する、日本の古道
静岡県・川根本町

「南アルプスの山麓に、古道をベースにしたトレイルが開通した」。そんな情報を聞きつけて向かったのは、赤石山脈南部、大井川と寸又川流域にある静岡県川根本町。川根本町は全域が南アルプスユネスコエコパークに指定されており、この町全体をひとつのフィールドと見なし、点在する集落をつなぐロングトレイルの整備が進められている。広葉樹のトレイルを歩き、渓谷美に癒され、温泉にのんびり浸かる。そんな週末ハイクトリップへ、出発!

12/21/2023



古い生活道がロングトレイルに


静岡県の中央部、南アルプス山麓に位置し、南北に大井川が流れる川根本町。江戸時代、この一帯では川越し制度により大井川の渡船が禁止されていたため、広大な山域や川の両岸に物資を運搬するための峠道や生活道が設けられた。こうした古い生活道を基に整備されているのが、川根トレイルだ。大井川に沿う川根街道や駿府城下(静岡市)へ通じていた川根東街道、それらと各集落をつなぐ細い生活道を、ハイカーが歩けるロングトレイルとして整備するというのが、このトレイルのコンセプトだ。

今回歩くのは、川根トレイルの第1弾としてオープンした「智者山・天狗石山コース」。アプト式鉄道で知られる「南アルプスあぷとライン」千頭駅から智者山神社の参道を登り、智者山(標高1,291m)へ高度を上げる。その後は天狗石山へと続くゆるやかな稜線を進み、奥大井湖上駅まで下る約15kmのコースである。

この旅には静岡市在住の翻訳家のコーリーに加え、地元のトレイルランナーも参加してくれた。駅前の「杉本屋」で手に入れた、地元の銘茶を使った羊羹をバックパックにしのばせたら、さっそくコースに向かう。

地元のランナー、鈴木栞奈さん(左)と山内菜摘さん(右)
トレイルのおやつに、川根本町の銘茶を練り込んだお茶羊羹を。千頭駅前にある「杉本屋」の茶羊羹はフレッシュな緑茶の香りを味わえる

智者山神社までの舗装道は「三十三観音ルート」として知られ、地元信者から寄進された33体の観音像が約7kmにわたって祀られている。かつては雨乞いや授乳の神として、近年は交通安全祈願や入試合格の祈願も多い智者山神社にお参りした後、裏手へ進む。すると、いかにも里山らしい針葉樹の森のなかに、30度はあるかという急なトレイルが現れた。

川根トレイルの急斜面を、カモシカのように駆け抜ける!

稜線まで上がると、これまでの急な登り道とは対照的ななだらかなトレイルが続いている。明るい広葉樹林のなかを歩き、智者山頂に到達する。はるか駿河湾を眺められるポイントでランチ休憩を。ヴィーガン食の宿を営む「あさゐ」の、酵素玄米と地場の旬野菜を使ったランチボックスはパワーチャージにぴったりだ。

「あさゐ」のトレイル弁当は手の込んだおかずが満載!
川根トレイル「智者山・天狗石山コース」のスギ林でビッグジャンプ!

ほぼフラットな尾根筋を歩き、苔むした岩石群を通過すると、その先に天狗石山頂が。手前の眺望ポイントから、朝日岳や大無間山、光岳を一望する。天狗石山から標高差約900mを一気に下ると、エメラルドグリーンの湖に浮かぶ鉄橋が見えてきた。ゴールの奥大井湖上駅だ。

約7時間で縦走できるコースだが、川根本町ではトレイル前後の楽しみが充実しているから、前泊もしくは後泊して遊びつくしたい。トレイルを下ったら電車に乗り、まずは接岨峡温泉へ。とろりとしたお湯にのんびり浸かろう。

エメラルドグリーンの接岨湖にかかる赤い鉄橋は「奥大井レインボーブリッジ」。孤島には奥大井湖上駅が
奥大井湖上駅にやってきたのは、日本唯一のアプト式列車

千頭駅にほど近い「ファームカフェ風工房」は、ニワトリとヤギを飼育するファーム併設のカフェ。古民家をセルフリノベしたこちらでは、ファームで育てられた季節の野菜や平飼いの卵を使った料理や、ヤギのミルクを使った絶品のアイスクリームを提供している。

宿泊は、ランチボックスを用意してくれた「あさゐ」で。江戸時代の古民家を居心地よくしつらえた宿は、ゆったり流れる時間とヴィーガンのごちそうが自慢。この日は彩り豊かなヴィーガン寿司に舌鼓を打った。

菜園を併設する古民家カフェ「風工房」の自慢は、搾りたての山羊乳を使った自家製アイスクリーム!フレーバーは季節ごとにかわり、写真はバニラとプラム
江戸時代の古民家に手を入れた「あさゐ」。ジンジャーリリーに囲まれた庭で、夕暮れのひととき


シカ害に悩む里山の、ユニークな 「盆踊」


山地がほとんどを占める川根本町では、深い山と河川が独特の民俗や風土を守ってきた。昨年、ユネスコ無形文化遺産に認定された徳山地区の盆踊もそのひとつ。毎年8月15日の夜に行われる「鹿ん舞」「ヒーヤイ踊」「狂言」を総称して「徳山の盆踊」と呼ぶ。なかでもユニークなのが、白い鹿の頭をかぶった牡鹿や牝鹿、ひょっとこが登場する「鹿ん舞」で、近年は中学生によって受け継がれている。「作物を荒らすシカを追い払い、豊作を祈るために始まったとされますが、後に神社の境内で行われるヒーヤイを警固するものに変化しました」と言うのは、徳山古典芸能保存会の澤本等副会長。

「諸説ありますが、中世の踊りが口伝され、時代に合わせて少しずつ変容してきたと考えられています。山深い集落のこと、山の神さまの化身としてシカを崇め、自然と共生するという思想が、この舞いに込められているのです」

「徳山の盆踊」に使われる道具や太鼓の数々。シカの面や紅白の綾棒は「鹿ん舞」に用いられる

「自然との共生」は現代においても川根本町のテーマであり続ける。地域おこし協力隊員の渡辺実優さんら、20代の有志たちが設立した里山保全団体「TONONKA」では、獣害に悩む里山の暮らしと自然との共生を目指し、里山保全活動や狩猟者の育成に取り組んでいる。狩猟の副産物である皮や角を活用するのは、近隣の事業者だ。たとえば隣町に工房を構える「reveroots」は、いただいた命を余すことなく活用するという観点から、これまで廃棄されてきたシカの角をファイヤースターターなどのプロダクトに蘇らせて販売している。

「近隣住民に頼られることがなによりもうれしい」という「TONONKA」の渡辺実優さん。おなじみの猟場にワナを仕掛ける様子
川根本町のシカ角で製作される 「reveroots」のファイヤースターター

「現在は有志の生産者により、シカの肉、角、皮は地域資源として有効に活用できるようになっています。将来的には狩猟を活かしたコンテンツで移住者を呼び込み、高齢化という課題にも取り組んでいきたいですね」(渡辺さん)

豊かな自然とそこに育まれた民俗、それを守り継いできた地域の営み。トレイル歩きの他にさまざまな楽しみが控える川根本町は、ハイカー憧れのデスティネーションになりそうだ。

「川根トレイル」のルート上にある「夢家」。自然農法で野菜を育て、飼っている羊の毛で糸を紡いでウール製品を仕立て……アートとして地に足のついた暮らしを実践する
2023年夏に下長尾地区にオープンしたばかりのロースタリー兼コーヒーショップ「珈琲屋 スズラン」で、おいしいコーヒーの一杯を




Trail Guide
ファームカフェ風工房
静岡県榛原郡川根本町上岸321
玄米彩食 あさゐ
静岡県榛原郡川根本町桑野山276-1
TEL:0547-59-2308
接岨峡温泉会館
静岡県榛原郡川根本町梅地175-2
TEL:0547-59-3764
杉本屋
静岡県榛原郡川根本町千頭1216-13
TEL:0547-59-2222
珈琲屋 スズラン
静岡県榛原郡川根本町下長尾218-1

川根本町まちづくり観光協会
静岡県榛原郡川根本町千頭1216-21
TEL:0547-59-2746